雑魚スキルでクビになったけど、ダンジョンでは無双らしいです
りおまる
第1章:独壇場の序曲
第1話:最底辺の烙印
「――次、久遠ユウト。ゲートへ」
無機質なアナウンスが、市立能力開発センターのホールに響き渡った。
俺の名前が呼ばれた瞬間、隣に座っていた恋人――
その指先は、少しだけ冷たかった。
「ユウトなら大丈夫。きっとすごいスキルだよ」
そう言って微笑む彼女の顔は、緊張の中でも完璧だった。
「まあな。俺だし?」
俺はニッと笑って軽口を叩いてみせる。
だけど、ドラムみたいにうるさく鳴り響く心臓の音は、正直ごまかせなかった。
今日は、俺たち高校生にとっての運命の日。
『ステータス刻印式』だ。
十数年前、世界中に突如として出現した『ダンジョン』。
それに呼応するように、人類は『スキル』と『ステータス』に目覚めた。
誰もが十六歳になると、この刻印式で自らの能力を可視化される。
そして、探索者としての道を歩むか、あるいは一般人として生きるかの選択を迫られるのだ。
強力なスキルと高いステータスは、富と名声の証。
現代社会は、もはやスキル階級社会と言っても過言じゃなかった。
「見ててくれよ、美咲。絶対、お前と一緒にトップランカーになってやるからさ」
「うん、信じてる」
美咲は、学年でも有名な美少女だ。
成績優秀、品行方正。俺にはもったいないくらいの彼女だった。
そんな彼女と肩を並べるためにも、ここでヘマはできない。
(頼むぞ、俺の才能……! 『剣聖』でも『大魔導師』でも、なんでもいい! とにかくスゲーやつ、カモン!)
祈るような気持ちで、俺はゆっくりと立ち上がった。
ホール中央に鎮座する銀色のアーチ――『ステータス・ゲート』へと歩を進める。
周囲の生徒たちの期待と不安が入り混じった視線が、肌をチリチリと焼いた。
ゲートをくぐると、ふわりと身体が軽くなるような不思議な感覚に包まれる。
目の前の巨大モニターに、俺のステータス情報が映し出されていく。
【名前:久遠 ユウト】
【レベル:1】
【HP:50/50】
【MP:10/10】
ふむ、ここまでは普通か。
問題はここからだ。
【STR:5 (F)】
【VIT:5 (F)】
【AGI:7 (F)】
【INT:3 (F)】
【DEX:6 (F)】
……ん?
なんだ、この低すぎる数値は。
一般人の初期平均値より、明らかに下じゃないか?
ざわ、とホールがどよめくのが聞こえる。
だが、まだだ。一番重要なのは、スキルの欄。
そこに表示された文字に、俺は目を疑った。
【スキル:『レベルシフト』【効果:
「……解析不能?」
誰かが呟いた。
聞いたこともない表示に、会場は困惑の空気に包まれる。
鑑定官を務める教官が、眉間に深いシワを寄せ、端末を操作して詳細コードを確認する。やがて、彼は納得したように、しかし冷酷にマイクを取った。
「久遠ユウト君のスキル判定は『解析不能』。……いや、専門用語で言うところの『
ゴクリ、と誰かが息を呑む音がした。
「これはスキルが発現する際、魔力回路が正常に繋がらなかった場合に起こる現象だ。つまり、器だけで中身がない。……スキルとしての機能は『無し』と断定される」
その言葉は、ハンマーのように俺の頭を殴りつけた。
「初期ステータスは全項目Fランク。そしてスキルは不発。……残念ながら、探索者としての機能は果たせない。ただの一般人以下だ」
教官は事務的に宣告し、最後の一撃を放つ。
「君は、最底辺(欠陥品)だ」
最底辺。欠陥品。
その言葉だけが、俺の頭の中で何度も何度も反響した。
さっきまで俺を応援してくれていたはずの美咲の方を恐る恐る見ると、彼女は信じられないといった表情で固まっていた。
その瞳から、さっきまでの温かい光が消えていることに、俺は気づいてしまった。
◇ ◇ ◇
「ユウト、話があるの」
刻印式が終わり、意気消沈して帰ろうとする俺を呼び止めたのは、美咲だった。
彼女の周りには、人だかりができている。
それもそのはず。
彼女が授かったスキルは『聖女の祈り』。回復と支援に特化した、Aランクの超希少スキルだ。
初期ステータスも軒並みBランク以上。まさにエリート中のエリート。
そんな彼女は、俺を人気のない廊下の隅に連れ出した。
さっきまでの人だかりとは対照的に、ここには誰もいない。
ただ、壁一枚隔てた向こうから聞こえてくる、俺を嘲笑う声だけがやけにクリアに響いていた。
「『解析不能』だってよ、ウケる」
「回路が繋がってないとか、人間として不良品じゃん」
「水城さん、あんなのと付き合ってたとか黒歴史だな」
美咲は、そんな声を気にも留めない様子で、まっすぐに俺を見つめていた。
その瞳は、まるで値踏みをするかのように冷え切っている。
「ごめん、あなたとはもう付き合えない」
覚悟はしていた。
けど、いざ直接言われると、心臓が握り潰されるような痛みが走る。
「……なんでだよ。スキルがダメだったからか?」
「当たり前でしょ?」
美咲は、心底呆れたというように溜息をついた。
「いい? 私はこれから国からも注目されるエリートになるの。私の隣に立つ人間は、私にふさわしい、最高のパートナーじゃなきゃいけない」
彼女の言葉は、氷のように冷たい。
「でも、あなたは? 中身空っぽの欠陥品。荷物にしかならないわ」
荷物。
その一言が、俺のなけなしのプライドを粉々に砕いた。
「約束したじゃないか……一緒にトップランカーになるって……」
「それはあなたが、私にふさわしい力を持つことが前提の話よ」
彼女は、俺の情けない言葉を鼻で笑った。
「まさか、こんな結果になるとは思わなかった。本当に……がっかりしたわ。才能の差って、努力じゃどうにもならないのね」
彼女はそう言い捨てると、まるで汚いものから離れるかのように、すっと身を引いた。
「もう話しかけないで。時間の無駄だから」
その背中は、一度も振り返らなかった。
俺はただ、その場に立ち尽くすことしかできない。
希望に満ちていたはずの一日が、人生最悪の日になった瞬間だった。
「……そりゃ悪かったな、お姫様。せいぜい、お似合いのイイ男でも見つけるんだな」
誰に聞かせるでもない悪態を、ぽつりと呟いた。
声が、少し震えていた。
◇ ◇ ◇
家に帰っても、誰もいない。
両親は仕事で海外に行っており、だだっ広いリビングが俺の孤独を際立たせた。
ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
脳裏に浮かぶのは、教官の冷たい声と、美咲の軽蔑に満ちた瞳。
そして、クラスメイトたちの嘲笑。
「……くそっ」
このまま、諦めるのか?
欠陥品の最底辺として、一生日陰で生きていくのか?
あいつらに笑われたまま、惨めに終わるのか?
そんなのは、
「冗談じゃねぇ……!」
むくりと身体を起こす。
絶望の底から、ふつふつと何かが湧き上がってくるのを感じた。
怒りか? 反骨心か?
いや、もっと単純なものだ。
「試してもねぇのに、諦めてたまるかよ」
そうだ。
スキル効果は『解析不能』。
教官は『機能無し』と言ったが、それはあくまで過去のデータに基づいた判断だ。
もし本当に『レベルシフト』という名前が表示されているなら、それは何らかの意味を持っているはずじゃないか。
だとしたら、やることは一つだ。
(ダンジョンに行くしか、ねぇよな)
我ながら、単純な思考回路だと思う。
でも、じっとしてなんていられなかった。
俺はクローゼットから動きやすいジャージに着替え、押入れの奥から親父が日曜大工で使っていた鉄パイプを引っ張り出した。
武器はこれだ。
あとは、なけなしの小遣いで買ったポーション数本をリュックに詰める。
準備は万端、とは口が裂けても言えないが、今の俺にはこれで十分だった。
向かう先は、市街地の外れにある『E級ダンジョン・ゴブリンの洞穴』。
公式からは立ち入り非推奨と釘を刺されたが、知ったことか。
ここが、今の俺が入れる唯一のダンジョンだった。
洞穴の入り口は、黒々とした口を開けて俺を待っていた。
内部から聞こえてくる、獣の唸り声のような不気味な音が、恐怖を煽る。
正直、足がすくむ。
でも、ここで引き返したら、本当に終わりだ。
あいつらの言う通り、『最底辺』として生きていくことになる。
俺はいつものように、自分を奮い立たせるため、あえて軽口を叩いた。
「……ま、なんとかなるっしょ」
決意を込めて、暗闇の中へと一歩を踏み出した。
絶望から始まった俺の物語は、まだ終わっちゃいない。
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