第23話 魔動車、投入

しばらく滞在し、一部の騎士を残して帰国しようとするイスティニア王国使節団。


(セツナ・レズマンコ)

なんで?


(イスティニア王国国王 サドム・イスティニア)

馬車を注文しておる。

受け取りの為に置いて行くだけだ。

受け取り次第、帰国する。


(セツナ)

いや、そうじゃなくて、受け取ってから帰国すれば?


(イスティニア王国宰相 グレン・ケインズ:男)

そうしたいのは山々なのですが、公務が。

情報を聞きつけるとすぐ、全てを放り出して出発しましたから。


(セツナ)

国王様!


(サドム・イスティニア国王)

仕方ないではないか。

情報が遅かったのだ。


(サティナ魔王国女王 クイント・サティナ ダークエルフ)

なら、決まり次第、使者を送ろう。

毎回参加という事でよいのか?


(サドム・イスティニア国王)

もちろん!


(セツナ)

じゃあ、そうするから、公務はちゃんとしてくださいね。


(サドム・イスティニア国王)

分かっておるわ。

まるで宰相が二人居るみたいだ。


(セツナ)

お気持ち、お察しします、宰相。


(グレン・ケインズ宰相)

分かっていただけますか、セツナ様(涙目)



そして帰国したイスティニア王国使節団。

遅れて馬車を受け取った騎士団も帰国した。

日常に戻ったセツナ。

慰問が再開した。

イベントを定期的にやり、これからも増えることから、セツナはイベントの管理会社を立ち上げた。

その名も"イベント会社フェスティバルセツナ"。

まあ、祭りだし、誰がやってるか分かりやすいし、良いんでね?

まぁ、欲を言えば、もう少しネーミングセンスが欲しいけどな。

従業員は信者になってくれた人から希望者を募った。

しかし、代表は貴族にした。

お貴族のクレーマー対策だ。

その代わり、副代表は庶民から選ぶと発表した。

生まれに関わらず、有能な人に任せると。

皆んなで話し合って決めて欲しいと伝えて。

とりあえずやってみてから誰が向いているか決めようという事になった。

そうしていると、魔動車が完成したと工房から連絡がきた。

早速工房に向かうセツナ。


(工房主 熊獣人)

どうよ、出来たぜ、自信作だ。


(セツナ)

わおっ!カッコいい!

名前は?


(工房主 熊獣人)

名前はまだ無い!



いや、そんな文豪みたいに言われても。


(セツナ)

早速テスト走行しようか?


(工房主 熊獣人)

あゝ、やろうぜ(ニヤリ)



セツナ達はサーキットに持ち込む。

コースは"富士"だ。


(セツナ)

さぁ〜て、やりますか!



ピットアウトして行くセツナ。

段々ペースを上げていくセツナ。

やはりタイヤと路面の関係で、スピードは通販品よりは出ない。

ブレーキと冷却装置は魔法を使っているので問題は無い。

徐々にスピードアップしていったセツナだが!


(セツナ)

おっと。



足回りから火が出た。

その原因は大体分かっていた。


(セツナ)

やっぱりベアリングか……



その頃、ピットは大騒ぎになっていた。


(技師 狐獣人)

セツナ様ぁ〜!!(悲鳴)


(技師 狼獣人)

ヤバい、早く火を消せ!



火が出ても安全でピットに近い場所に魔動車を止めるセツナ。

一気に炎に包まれた魔動車。


(技師 狐獣人)

セツナ様ぁ!!


(工房主 熊獣人)

どげ!セツナ様!!


(セツナ)

あゝ、大丈夫、大丈夫。



火を消して残骸をピットに運ぶ。


(工房主 熊獣人)

どうしてだ……いや、原因は必ず解決する。


(セツナ)

言いにくいんだけど、"ボールベアリング"だと思う。

あれ、魔動車クラスになると、グリスはパンパンにいれて、溢れたのを拭き取るぐらいでないと、持ち堪えないんだ。

馬車なら負担にならない程度に詰めたぐらいでも大丈夫だけど。

スピードによる摩擦の熱の発生量が違いすぎるんだよ。


(工房主 熊獣人)

なっ……そんなにグリス詰めないとダメなのか?


(セツナ)

うん。


(工房主 熊獣人)

分かった、すぐ改善する。



3日後、改良されたベアリングを装着した魔動車を持ってサーキットへ。


(セツナ)

じゃあ、行ってくる。



そう言うと、ピットアウトしていったセツナ。

同じようにペースを上げていく。

おそらく自己ベストと思われるスピードで爆走するセツナ。


(技師 狐獣人)

今度こそ(祈る)


(技師 狼獣人)

頼むぞ(祈る)


(工房主 熊獣人)

セツナ様(祈る)



10周爆走してピットに戻るセツナ。


(セツナ)

おやっさん!


(工房主 熊獣人)

誰がおやっさんだ!(流涙)



セツナと抱き合う工房主の熊獣人。


(工房主 熊獣人)

後は何かあるか?


(セツナ)

大丈夫だと思う。

後は魔法だよ、安全マージンを取る為の魔法陣、それで完成。

潰して良い魔動車、1台お願い。


(工房主 熊獣人)

潰して良い魔動車?


(セツナ)

安全性のテスト。

実際ぶつけて確認するから。


(工房主 熊獣人)

・・・は?


(セツナ)

命に別状の無い骨折程度はするから。

でないと、無謀な事をする輩が出てきたらマズい。

救護室には魔法陣を刻んでおいて、運び込んだ怪我人を優秀な治癒士が"ヒール"で一瞬で古傷まで治せるようにするけどね。


(工房主 熊獣人)

バカには痛い目を、か。


(セツナ)

うん。

ただ、巻き込まれるとか、チャレンジした先でとか、単なるミスって場合もあるから、そこはね。

王族が乗っても、基本無傷(治癒も含む)だから。


(工房主 熊獣人)

なるほどな、分かった、任せろ。


 

1週間後。


(セツナ)

よし、テストだ。



ピットアウトしていくセツナ。

猛スピードで最終コーナーを立ち上がってくると、そのままアクセル全開で1コーナーを飛び出しクラッシュする。

なかなか出てこないセツナ。


(工房主 熊獣人)

ボーっとしてんじゃねぇ〜!!早く救出しろ!!



骨折と脳震とうを起こしていたセツナ。


(工房主 熊獣人)

早く救護室だ!



救護室に運ばれるセツナ。

待機していた治癒士に治癒されるセツナ。


(治癒士 エルフ)

えっ?



今まで治した事がないぐらいに綺麗に治癒した。


(セツナ)

うっ……あゝ、死ぬかと思った(笑)


(工房主 熊獣人)

無茶しやがって(ため息)


(セツナ)

しかし、これで大丈夫みたいだね。


(治癒士 エルフ)

あのぉ……私、こんなに治癒能力が……


(セツナ)

それね、この救護室には魔法陣を刻んであるんだ。

貴方ぐらいの優秀な治癒士なら、瀕死の状態で欠損があっても、全くの無傷どころか古傷も治るようにしてあるから。


(治癒士 エルフ)

は、はぁ……


(セツナ)

良かったら、契約してくれないかな?

ここまで治せるなら、力を貸して欲しい。


(治癒士 エルフ)

わ、私?私で良いんですか?


(セツナ)

うん、あなたにお願いしたい。


(治癒士 エルフ)

はい!よろしくお願いします!(嬉)

 


テストは成功した。

治癒士もとりあえず1人確保できた。

という事で、販売を開始する。 


(セツナ)

まずは、発表&大試乗会やね。


(工房主 熊獣人)

売り込むか。


(セツナ)

そう、商人にも連絡しよう。


(工房主 熊獣人)

早速、連絡するから任せろ。



10日後、発表&大試乗会が行われた。

財布の紐が緩い貴族は早速買おうとするが、そこは夫人が付いている。

睨みを利かせているあたり、家庭でのパワーバランスが垣間見える。

という事で、それでも買いたいと思わせる為に大試乗会を始める。


(セツナ)

今から大試乗会を開始します。

是非、参加して下さい。



貴族達からは歓声が起こり、一部の夫人の目つきは更に厳しくなる。

サーキット走行を始める。


(貴族 狐獣人)

うおぉ〜!これは凄い!!


(セツナ)

皆さんが慣れてきたら、レースも開催します。

順位により、ポイントが付き、年間王者も決まりますよ。


(貴族 狐獣人)

そうなのか!年間王者か(ゴクリ)


 

試乗を終え、夫人に土下座して頼んでいる貴族もいた。

お前、かなりの恐妻家だな(笑)


(セツナ)

夫人も試乗されませんか?



貴族の恐妻家達から救世主を見る目で見られる。


(貴族夫人 狼獣人)

まぁ、そう言うなら、一度ぐらいは乗ってもよろしいわよ。



そう言って助手席にのる。


(貴族夫人 狼獣人)

ま、まぁ良いかも知れないわね。


(セツナ)

もっと速く走れますよ。


(貴族夫人 狼獣人)

なら走ってみなさい。


(セツナ)

はい、夫人。



速度を倍に上げる。


(貴族夫人 狼獣人)

すっ、凄いわね、刺激的だわ。


(セツナ)

もっといけます、本気で走りましょうか?


(貴族夫人 狼獣人)

えっ?ま、まぁ、やってみなさい。


(セツナ)

言質、いただきました。



セツナはレースのするなら、これぐらいか?

というレベルで走りだす。


(貴族夫人 狼獣人)

う、うわあああぁぁっ!


(セツナ)

大丈夫ですか?夫人。


(貴族夫人 狼獣人)

だっ、大丈夫よ、しばらく走りなさい。


(セツナ)

御意!(ニヤッ)



セツナはコーナーも攻めだす。


(貴族夫人 狼獣人)

ふわあぁぁっ!あっ♡あっ♡あっ♡あっ♡気持ちいいぃぃぃっ♡


(セツナ)

ふふふっ♡


(貴族夫人 狼獣人)

あはははっ♡あはははっ♡最高ぉぉぉっ♡こんなの初めてえぇぇぇっ!!!♡



しばらく走って試乗を終える。


(貴族夫人 狼獣人)

あら、もう終わり?


(セツナ)

皆さん、待ってますから。


(貴族夫人 狼獣人)

また乗せなさい。


(セツナ)

ご主人様が乗せてくれます。

慣れると出来るようになりますから。

レースするなら、あれぐらい出来ないと勝てません。


(貴族夫人 狼獣人)

レース?


(セツナ)

はい、順位によりポイントを与え、総合ポイントで年間王者を決めるんです。

もちろん各レースでも表彰式をやり、上位3人には証明書と旗、盾を送ります。

魔動車を買える、それでレースができる、旗や盾がたくさんあるという事は名誉ですし、財力誇示にもなります。

社交界でも自慢の種になりますよ。


(貴族夫人 狼獣人)

名誉、財力誇示、社交界で自慢、旗や盾で証明!


(セツナ)

しかし、スポーツです。

忖度や接待レースは無しですよ。

見つけ次第、失格無効になり、回収か消滅しますから。


(貴族夫人 狼獣人)

分かってるわ、スポーツなら正々堂々とでないと、陰口叩かれて恥かくわ。


(セツナ)

それと、これだけスピードが出るんです。

街中は使用禁止です。

走れるのは、こういうサーキットだけです。

色々作っていくので、楽しめますよ。


(貴族夫人 狼獣人)

ここ以外にもあるの?


(セツナ)

現在、5つのコースができています。


(貴族夫人 狼獣人)

乗せなさい、全部乗せなさい。


(セツナ)

それは後日、皆さんも乗せてあげないと。


(貴族夫人 狼獣人)

約束ですよ。


(セツナ)

はい。

で、どうでした?


(貴族夫人 狼獣人)

最高よ!これ、買うわ。


(セツナ)

ありがとうございます。



1台売れた。

と思いきや、派閥の中心人物だったらしく、あれだけ渋ってた夫人達が揺らぐ。

で、試乗すると……


(貴族夫人 狐獣人)

あは♡あは♡あは♡最高ぉぉぉっ♡気持ちいいぃぃぃっ♡もう濡れるううぅぅぅっ♡



夫人、それはどうかと思うよ。

初日に15台、予約が入った。

中には夫人自ら乗る、レースに出ると買った夫人も居た。

一応、安全性についてと、救護室の状態を説明した。

それだけの準備が整っているのならと、より興味を持つ貴族達が出てきた。

サーキットについて、レースについても説明した。

それでもキャンセルは出なかった。

やはり、優勝すると名誉とその証がもらえる、財力誇示、社交界での自慢の種というのに食いついた、計画通りである。


(工房主 熊獣人)

売れたな(ニヤッ)


(セツナ)

計画通り(ニヤッ)


(工房主 鬼族)

悪徳商人(ニヤッ)


(セツナ)

いやぁ〜、そんなぁ〜(ニヤリ)


(工房主 熊獣人)

褒めてねぇ〜よ(ニヤリ)


(工房主 鬼族)

で、言われてた名前だが、ウチは"パルシャ"でいく。

あのポルシェとかいう、形があまり変わらないが性能が上がるっう職人芸が気に入った。

名前も引き継ぐってのもいい。

後、区別が型番ってのも玄人っぽい。


(工房主 熊獣人)

ウチはフェラーチオだな。

あの訳の分からんプライドっうか、頑固さが面白い。

形も気に入ったしな。

名前が数字か、そういうのも面白い。


(工房主 狐獣人)

ウチはタヨトだな、前に魔動システム、後ろが駆動ってのがバランス的に面白い。


(工房主 狼獣人)

ウチはミクだな、ラリーとかいうのもやるんだろ。

それを見込んで両方使えるのが狙いだ。


(工房主 豹獣人)

ウチは4WDとかいうやつだ。

重いとみたが、ラリーでは勝てると踏んだ。

サーキットでも、良いところいくんじゃねぇ〜か?

名前はそうだな……タトロエン。


(セツナ)

ありがとう。

選ぶ幅が広がって良い!


(工房主 熊獣人)

盛り上がりゃあ、他にも作るとこが出てくるだろう。

ある意味、俺らが先駆者だ。


(セツナ)

助かるよ。


(工房主 熊獣人)

名前は考える、任せろ(ニヤリ)


(セツナ)

楽しみにしてるよ。


(工房主 鬼族)

で、お前さんは何を買うんだ?


(セツナ)

うーん……パジョー!


(工房主 熊獣人)

無ぇ〜よ!(笑)


(セツナ)

皆んなから1台づつ買う。

レースになると……


(工房主 狐獣人)

使いやすいの、使え。

そこまでは言わねぇ〜。


(セツナ)

なら、ガンボリマーコン!


(工房主 豹獣人)

だから無ぇ〜よ(笑)


(セツナ)

あはは(笑)


(工房主 熊獣人)

しかし、予約はどうする?

試乗はウチの魔動車だったぞ?


(セツナ)

値段は一緒やん。

当日取りに来てもらった時、皆んなの並べて選んでもらおうよ。


(工房主 狐獣人)

それな、じゃあ特徴つけねぇ〜とな。


(工房主 豹獣人)

見本の絵は何枚かもらってるから、元の形を伝承しながら手を加えるわ。


(セツナ)

うん、お願い。



話はまとまった、後は納車式を待つだけだ。

納車日がやってきて、納車式を開催する。


(貴族夫人 狐獣人)

私、パルシャにするわ、愛嬌があって良い。


(貴族夫人 猫獣人)

私はミクね、可愛いのが良い!


(貴族 狼獣人)

私はフェラーチオだな、形が気に入った。


(貴族 熊獣人)

うーん、タヨトとタトロエンで迷うな。

タヨトはタヨト69LZRacing、タトロエンはSPか……

レースで使うなら、Racingと言う名が良さそうだ。


(貴族 豹獣人)

いや、私はタトロエンだ、SPとシンプルな名前が気に入った。



納車式は大成功で終わった。

早速サーキットを走る貴族達も居た。

まぁ、いきなりだけに遅いが、慣れたら大丈夫だ。

同乗した夫人方には不評だったが、走り込んで慣れたら大丈夫ですよと説明すると、早速尻を叩いていた。

サーキットの走行料は1日金貨1枚、魔石は大きさにより銀貨10枚から金貨1枚と貴族なら手軽な値段だけに、夫人方も見栄とセツナによる試乗での体験から、鼻息が荒かった。

セツナによる試乗の希望も出てきたが、慰問や教会の事、開発で多忙な為、10周金貨10枚で不定期としたが、それでも予約が入り、早速当日に5人を消化するハメになった。

車種は全てあるので、ご婦人方が選べるのも良かったらしい。

大変だな、セツナ。

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