第19話 新型馬車の開発と新商品

早速、慰問をしながら、学校の設立に動いた。

冒険者学校、メイド学校、執事学校、農・漁・林業学校、河川工事、街道整備、技師養成、娼婦専門、看護・介護と各種専門学校を作った。

まずは王都に開校、そして貧民街と孤児院に教師を派遣する、読み書き計算学習塾。

最初は勉強なんて……と忌避されたが、無料である事、勉強するなら、炊き出しをする。

そして学校に進めば完全寮制で全てがタダだけでなく、知識も技術も身に付いて将来の就職に繋がる。

まずはメイドや執事は優秀な者は、王宮が見習いとして採用する事が約束されている。

また、技術系は、国が行う事業やセツナが開発する物を作る工房に優先的に採用する事が約束された。

新しい事をやるんだ、人手は要る。

これが貧民街や孤児院の子供達の希望となり、勉強に励むようになる。

セツナはそれを見込んで、まずは馬車の改造に着手した。

馬車技師を集め、新しい仕組みを説明する。

見本も用意して、新型として売り込もうと提案した。

サスの採用である。


(技師 鬼族)

サスって何だ?


(セツナ・レズマンコ)

これだよ。



セツナは"リッジドサス"の見本を出した。


(セツナ)

先ずはこれを作ろう。

その上もあるけど、コレを作れなきゃ始まらない。

それと、何度も新型出して、儲けようよ(ニヤッ)


(技師 熊獣人)

良いねぇ〜、気に入った。


(セツナ)

それと、夢のパーツ、"ボールベアリング"を作ろう。

コレはかなり精密で、僅かな歪みも性能に影響が出る、下手したら潰れる。

その技術を磨く方法があるんだ。

それは後で説明する。

それと……



セツナは学校の事を説明した。


(セツナ)

子供達には夢を見せてあげたいんだ。

孤児院だから、貧民街に生まれたからって、将来を諦めて欲しくない。


(技師 狐獣人)

アンタがそこまでする意図は?

金持ちの王族だろ?情けか?ノブレス・オブリージュとかいう遊びか?


(セツナ)

ボクが異世界から来たって知ってる?


(技師 狼獣人)

噂ではな、でも今は大金持ちの王族じゃねぇ〜か。


(セツナ)

その世界では、貧民だったからだよ。

勉強して、独立して、店持って、中の上ぐらいまで成り上がった。

しかし、生まれも育ちも恵まれまくった大金持ちの超大店に買収されて、地位も名誉も財産も失った。

裏切りもあったしな。

そしてまた貧民になり、歳を取った上に身体を壊したから、二度と復活は出来なかった。

でも思ったんだ、上手くやれば、のし上がるチャンスはある。

孤児院でも貧民街生まれでも、抜け出すチャンスはあるはずだってね。

だから、やりたいんだ。

子供達には夢を見せてあげたい。



その場は静まり返る。


(技師 熊獣人)

なるほどな。

気に入った、力になろうじゃねぇ〜か。


(技師 鬼族)

たしかに子供には罪は無ぇ〜。

卑屈になって、人生諦めて、犯罪に走るよりマシだ。


(セツナ)

ありがとう。



それから本題の"リッジドサス"に取り掛かる。

"通販"でいくつかポチり、見本を出した。

完成品を見たり、バラしてパーツを見てみたり、そこから今できる技術を使って完成させようと議論を交わす。

しかし、流石技師、あっという間に再現してみせた。


(技師 猫獣人)

しかし、こんなのであれだけ乗り心地が変わるもんかね。


(技師 熊獣人)

あゝ、異世界の技術ってのは凄ぇ〜な、こんなの思い付かなかったぜ。



そして、もう一つ、"ボールベアリング"をバラす。


(技師 鬼族)

なんだこりゃ、こんな真球がいるのか!


(技師 牛獣人)

これを金属で再現しろと……


(技師 狐獣人)

しかし、コレが出来りゃあ、軸受けの革命だ。

青銅よりも遥かに抵抗が無い。


(技師 蛇獣人)

これは良く回るなぁ……


(技師 馬獣人)

で、コレを作る技術を磨く方法ってのは?


(セツナ)

コマ回しだよ。



そう言うと、セツナは駒を回してみせた。


(技師 鬼族)

おいおい、遊びかよ。


(セツナ)

遊びだよ。

これをこの上で回す。



セツナは鉄板の台を出した。


(セツナ)

最後まで回っていた駒の勝ち。

勝った工房には優勝の盾と旗をあげるから、工房に飾って。

それがたくさん、特に最近のがある工房は?


(技師 狐獣人)

勝っている。


(セツナ)

勝つコツは、真球の駒を作ること。

バランスが大切だ。

そして、ルールは真球の駒を使うこと。

対マン勝負だから、耐久性も無ければ優勝は無理。


(技師 狼獣人)

技術がある工房が勝つ……か……

それって……そうか!それがこの"ボールベアリング"に繋がる!


(セツナ)

高性能の"ボールベアリング"が欲しい。

馬車を魔力で動かす"魔動車"を作りたいんだ。

で、その"魔動車"でレースがしたい。

"魔動車"は高級な嗜好品になる。

レースは専用場所を作って走らせる、街中は不可。

そういう"スペシャル"な"嗜好品"って好きだよね、お貴族♡

高値で売り付けて儲けよう。

安全装置はボクが開発する。

王族が乗っても死なない安全装置。

しかし、ぶつけたら壊れる。

壊れたら修理が要る、場合によっては買い替え。

ボッタくれると思わない?

商人に売り込ませて、社交界で話題にしてやる。

"魔動車"買ってレースに出るのがステータスにしてやるんだ。

財力誇示ができるように。

当然、レースに勝ったら、盾や旗、証明書を出す。

たくさん買って、たくさんレースに出れば、名誉と財力誇示ができる。

買えない、参加しないは懐事情、探られるよ(ニヤッ)


(技師 狐獣人)

アンタ、悪徳商人か(笑)


(セツナ)

レースは燃えるよ、楽しいし。

専属プロは禁止するけど。

それが入ってくると、一般が勝てなくなる。

それは面白く無い。

皆んなが楽しめないと。


(技師 狼獣人)

で、本音は?(ニヤッ)


(セツナ)

その方がたくさん売れる!


(技師 熊獣人)

アンタ、やっぱり悪徳商人だわ(爆笑)


(技師 鬼族)

作ってやろうじゃねぇ〜か、"ボールベアリング"。

それで"魔動車"作って、技術力を見せてやるよ!


(セツナ)

お願い。



話は決まった。

馬車の改造、第一弾と"ボールベアリング"の製作に入った。

商人には"リバーシ"と"サッカー"を提案した。

"サッカー"はややこしいルールはとりあえず無しで、基本、手を使ったらダメとした。

キーパーは別だが。


(商人 狐獣人)

セツナ様、コレは売れますよ、流行ります。


(セツナ)

やっぱり。


(商人 狐獣人)

"リバーシ"はルールが簡単だが、奥が深い。

"サッカー"は分かりやすく、ボール1つで出来るのが手頃で良い。


(セツナ)

"サッカー"は本格的にやると、ルールは難しいけど、とりあえずはこのルールで。


(商人 狐獣人)

と言いますと?



セツナはサッカーのルールを説明した。


(商人 狐獣人)

それはいきなりは難しいかもですね、人手も要るし、専門の判定官が要ります。


(セツナ)

だから、とりあえずね。


(商人 狐獣人)

そうですね、浸透してきたら、導入しましょう。



"リバーシ"は発売すると、爆発的に売れ、一大ブームになった。

社交界でも、持ってないと付き合いに影響が出るぐらいになった。

"サッカー"も騎士団が連携の練習に取り入れたり、庶民にも"手軽に出来るスポーツ"として大ウケした。

そこで相談して、大会を開く事にした。

残念ながら、模造品も出回ったが、本物を持って来ないと参加できない。

模造品を買うと、今後、いかなる大会にも参加できない。

模造品を摘発した者には賞金を出す。

として模造品の排除を行った。

それでも模造品が出るのは残念な限りだ。

大会には貴族、庶民の区別はなく、均等にチャンスがあるようにした。

負けたからと暴れたり、逆恨みしたら、追放する、接待、忖度も同様と王命をだして。

ジャイアントキリングを期待したのだ。

すると……


(サティナ魔王国女王 クイント・サティナ ダークエルフ)

セツナよ、優勝は我がいただくぞ(ニヤッ)


(セツナ)

えっ?


(クイント・サティナ女王)

当然、我も参加する。

後、当日は近衛や騎士団が警備をする。

もはや一大イベントだ、開催日は祝日とする。


(セツナ)

は?


(クイント・サティナ女王)

聞いていないのか?

参加者が多くて、その日は機能が麻痺する。


(セツナ)

中止しましょう!


(クイント・サティナ女王)

ならぬ!我の楽しみを取るな(ニヤリ)


(セツナ)

は、はあ……


(クイント・サティナ女王)

なら、我は"リバーシ"の特訓といこうか、ではまたな。


(セツナ)

はい……



意気揚々とリビングに向かうクイント・サティナ。

しかし、そこへ大変な報告が来た。


(クイント・サティナ女王)

何っ!イスティニア王が参戦すると!


(サティナ魔王国近衛騎士団長 ガルマン・ゲイン 熊獣人)

はい、使者か是非参加させて欲しいと書状を持って参りました。


(セツナ)

やっぱり中止しましょう、話がとんでもない事になってますよ(汗)


(クイント・サティナ女王)

良い度胸だイスティニア王よ、我が駆逐してやる。



大会とは別に、王戦が組まれたのには、セツナは頭を抱えた。

大会は3日に渡って開催された。

それだけ参加者が多かった。

"リバーシ"には特殊な魔法がかけてあり、持ち主とその家族など関係者しか持てなくなっている。

盗難防止だ。

大会には更に魔法が追加され、勝てば○、負ければ*が付き、5回勝たないと残れないようにした。

また、同じ相手と対戦しても印が付かないようになっている。

そして5回負けると失格になる。

対戦相手が居なくなり、5勝できなくても同じだ。

それでもベスト8を決めるのに計算上2日かかる事がどれだけブームか理解できるだろう。



イスティニア王使節団がやってきた。


(イスティニア王国国王 サドム・イスティニア)

この度は参加を承諾いただき、ありがとう。


(クイント・サティナ女王)

いや、我も対戦したくての。

ここで内密だが、お主とは最後まで対戦せぬという事でよいか。


(サドム・イスティニア国王)

ほう、なるほど。


(クイント・サティナ女王)

そして、後日、直接対決をしようではないか。

邪魔は入らぬ方が良かろう。


(サドム・イスティニア国王)

それは良いですな、そうしましょう。


(イスティニア王国近衛騎士団団長 ガルグ・ケイエン:男)

我々も参加します、ギリギリまで対戦は避けます。


(クイント・サティナ女王)

話が分かって嬉しいぞ。


(イスティニア王国近衛騎士団副団長 カリン・テイム:女)

我々とも直接対決をしたいのですが。


(クイント・サティナ女王)

良かろう、まずは団長同士、副団長同士の対決でどうだ(ニヤッ)


(ガルグ・ケイエン近衛騎士団長)

望むところです。


(イスティニア王国宰相 グレン・ケインズ:男)

では、私は……


(クイント・サティナ女王)

残念ながら我が国には宰相は居らぬ、セツナが断りおってのう。

特別相談役として、好きにさしておるが。


(グレン・ケインズ宰相)

そんな……私の対戦者は……(涙目)


(クイント・サティナ女王)

居らぬ。


(グレン・ケインズ宰相)

いや、居る!そうだ、特別相談役!それは宰相と同じようなものだ!


(セツナ)

えぇぇぇっ!!!

ボクは当日は運営スタッフですよ?


(グレン・ケインズ宰相)

いや、直接対決の。


(セツナ)

いや、宰相じゃないし。


(グレン・ケインズ宰相)

特別相談役も王を支える立場、なら宰相と同じだ!


(セツナ)

嫌だよ(嫌顔)


(グレン・ケインズ宰相)

そこをなんとか!(土下座)



土下座してしがみつく宰相に、どん引きして仕方なく承諾したセツナ。

大会当日、たしかに凄い事になった。

王都広場に入りきらないので、セツナは空に魔法で映し出し、ルールを説明する。

警護隊もスタンバイを完了する。

まぁ、くじ引きでハズレた連中だ、不正を検挙したら、後日大会をすると発表したら、気合い入りまくった。

優勝は……なんと庶民だった、しかも冒険者。

優勝の盾と旗、それに副賞を渡した。

"リバーシ"の特注製作権と金貨1枚のどちらかを選べるようにした。

冒険者は喜んで、金貨1枚を受け取った。

冒険者はいつ死ぬか分からない、だからお金の方が価値がある。

セツナは誰が優勝しても良いように、副賞を用意していたのだ。

大会終了後、3日して直接対決が行われた。

副団長戦。


(サティナ魔王国近衛騎士団副団長 ギルナ・ゲオルグ 熊獣人)

ぬぐぐぐぐ……負けた……



イスティニア王国近衛騎士団副団長、カリン・テイムが僅差で勝った。

団長戦。


(ガルグ・ケイエン近衛騎士団長)

うぐぐぐぐっ、参った。



今度は、サティナ魔王国近衛騎士団長、ガルマン・ゲインが勝った。


(クイント・サティナ女王)

互角だの(ニヤッ)


(サドム・イスティニア国王)

望むところです(ニヤリ)



結果……


(クイント・サティナ女王)

こっ、これは……


(サドム・イスティニア国王)

同数……


(セツナ)

引き分けですね、良い勝負でした。


(クイント・サティナ女王)

ならばもう一回!


(セツナ)

ダメです。


(サドム・イスティニア国王)

勝負が着いておらぬではないか!


(セツナ)

いえ、引き分けです、これはルールです。

それに一回勝負のルールですよ。


(クイント・サティナ女王)

ならば、非公式なら良いのだな!


(セツナ)

戦争になりそうなのでやめてください!


(サドム・イスティニア国王)

しかし、非公式なら戯れよの。


(クイント・サティナ女王)

なんだかんだと付き合いはある(ニヤッ)


(サドム・イスティニア国王)

奇遇ですな、今後もお付き合いはしなければならないゆえ(ニヤッ)


(セツナ)

恨みっこ無しですよ!

それと、記録には残しません!


(クイント・サティナ女王)

構わぬ(ニヤリ)


(サドム・イスティニア国王)

我らは、ただ楽しみたいだけだ(ニヤリ)


(セツナ)

ホントかよ!(ため息)



結局、朝までやって、30勝30敗25引き分けだったそうだ、よくやるよ(ため息)

で……


(セツナ)

さてと……


(グレン・ケインズ宰相)

我々ですな。


(セツナ)

えっ?


(グレン・ケインズ宰相)

我々ですな!(鼻息・鼻血・血走り目)


(セツナ)

あゝ、はいはい。



セツナのボロ勝ちだった。

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