第5話 目覚め

 転生して強くてニューゲーム、チート抜き。

 

 その可能性に気づいてしまった僕は、人生計画の大幅な建てなおしにせまられていた。


 基礎学習がすんでいる分だけ、小学生の間くらいなら俺強いできるかもしれない。

 だが、中学校に入ったらどうだ?

 ましてや高校からは、かなり努力しないとどうにもならないだろう。


「チートでひたすら楽して人生イージーモードじゃなかったのかよ!」

 

 自分のことは自分が一番よく分かっている。

 このまま過ごしていたら、前世と同じ社会的弱者男性にしかなれないだろう。

 前世で頑張っておけば、それだけ貯金があったはずだった。


「前世でやらなかった努力が必要だなんて……どうして僕にこんな理不尽なことが……」


 他の人からしたら、やり直せるなんてすごい幸運だと思うだろう。

 しかし、チートを理不尽に取り上げられたと思い込んでいた僕は。

 ただひたすらに不満だけがあった。


「あら聖ちゃん、どうしたの寂しくなっちゃった?」


 洗物や洗濯を終えて戻ってきた母に抱きしめられた。

 僕はようやく落ち着くことができた。

 

 一生をかけて流されるままではダメだと知ったのではなかったのか?

 

 前世のような後悔はしたくなかった。


 どうすれば後悔をしないで済むのだろうか。

 

 ――――そうだ!

 

 流されるままじゃなくて波に乗るんだ!


 何でもできるわけじゃないことは自分がよく知っている。

 1つだけでも難しいかもしれない。


 ――――それでも。


 1つだけでも自分が決めたことをやりきれたのなら。

 きっと。

 後悔することはないだろう。


 そこでふと、母から見た自分はどうなのか気になった。

 自分を一番よく見てくれているのは母である。

 人生を相談するのにこれ以上の人はいない。


「ねえ、ママ」


「なーに、聖ちゃん」


「僕って大きくなったら何になれると思う?」


「うふふ、聖ちゃんなら何にでもなれるわよ」


 母は役にたたなかった……。


 僕だって小さな子に聞かれたらそう答えるよ。

 君には無限の可能性あるんだよって。

 努力で何にでもなれるんだよって。


 でもね、違う、違うんだ。

 今聞きたい言葉はそれじゃないんだ。


 もう1人のアドバイザーにも話を聞いてみることにする。

 その人とは当然父のことである。


 いつものように父が帰ってくるまで四歳児ルーティンをこなす。

 今の僕は四歳児のプロだ。

 いつも通りなんなくこなしていく。


 四歳児に難があるわけないだろうって?

 そうでもないんだよ、以外に大変なんだ。

 主に親がね。

 

 玄関からドアの音が聞こえてくる。


「今帰ったぞー」

 

「あなたお帰りなさい」

「パパお帰りー」


「2人ともただいま」


 挨拶をしながら荷物を置きに向かう父に声をかける。


「パパ、今日も聞きたいことがるんだけどいーい?」


「もちろんだよ、手を洗ってくるからちょっと待っていてね」


 洗面所に向かう父を見送る。

 少し待つと着替えた父が出てきた。


「お待たせ聖太、何が聞きたいんだい」


「えーっとね、僕って何が得意だと思う?」


 同じ質問をしたら同じ答えが返ってくるだろう。

 前回の失敗から質問を変えてみることにする。


「お勉強の結果を見せてくれるのかい、今日も頑張ったんだな偉いぞ」


 新しく覚えたふりをするのはめんどくさいので慌てて否定する。


「お勉強じゃないよ、お勉強以外での得意なことだよ」


「んー、そうだなー」


 そう言うと父は部屋の隅のおもちゃ箱からボールをいくつか持ってきて。

 離れた位置から僕の足元にボールをコロコロと転がしてくる。


「パパにボールを投げ返してごらん」


 僕はボールを拾って力いっぱい父に向かって投げた。

 ポテンポテンとボールが転がっていく。


「すごいぞ聖太」


 僕の足元にボールを転がしながら、父がほめてくれる。


「聖ちゃんすごいわ、天才よー」


 いつの間にか母が横に来て応援してくれる。


 僕は得意げになって何度もボールを投げ返した。

 ポテンポテン。

  ポテンポテンとボールは何度も父の元に向かって行く。


 そのたびに父がほめてくれた。

 母も応援してくれた。


 面白かった。

 うれしかった。

 楽しかった。

 

 ――――これが僕の才能に違いない!

 両親に囲まれながら僕は将来への不安をなくしていったのであった。

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