第10話 3日目①


 【芦別市・上芦別公園キャンプ場】】


 テントの中に朝日が差し込んできた。まだ薄暗い幕の隙間から、柔らかな光が差し込む。


 オレは太陽の明るさで、5時に目が覚めてしまった。二人はまだ寝ている。寝ぼけ眼でテントの外に出ると、ひんやりした朝の空気が肌を包む。


 木陰の道を歩きながら、オレはあの"青"を思い浮かべていた。あの青い水面に少しでも近づける思うと、胸が少し高鳴る。


 6時半頃、タケシとケージが起きてきた。昨日の残りのおにぎりを分け合い、ぎこちない動きでテントの撤収を始める。


武「リョーの動き、ロボコップのモノマネの人みたいだぜ!」


涼「うるせぇ、タケシだってC-3POみたいだぜ!」


 3人は笑い合い、まだ少し疲れの残る体を引きずりながら準備を整えた。


 自販機で冷たい飲み物を買い、8時15分、またペダルを踏み出す。


 風が心地よくて、体の疲れも少しずつほぐれていく。


 約1時間ごとに休憩を挟みながら進む計画だ。遠くの山々や畑の風景が広がり、北海道らしい広さを感じる。


 ちょうど1時間ほど走って、オレたちは道端の木陰に自転車を止めて休憩することにした。


涼「ふぅ……やっと一時間か。ちょっと休もうぜ」


武「体バキバキだけど、漕ぎ始めると案外慣れるな」


慶次「オレもだ。最初は筋肉痛で『やべぇ』って思ったけど、今はペダル回すのが変に気持ちいい」


涼「そうそう、不思議な感覚だよな。止まってるときの方が痛いな?」


武「でも、無理は禁物だぜ。あとで響くからな」


慶次「まあな。今日はまだまだ先が長いし、のんびり行こうや」


涼「よし、じゃあ水分補給して、もうひと頑張りだ!」


 気づいたら、オレたちは休憩中に誰もタバコを吸わなくなっていた。3日目ともなると、それだけ体がキツかったんだろう。

 

 その時……

 

 林の向こうから5頭の鹿がゆっくりと姿を現した。


慶次「おい、あれ見ろよ!鹿だ、しかも5頭も!」


涼「え、ホントだ!こんな近くで見るの初めてだな……」


武「おい!リョー、写真撮れ!写真!」


慶次「そうそう、急げ急げ!早く巻け!」


涼「あ、ちょっと待っててくれよ……」

「ジィィ……ジィィ……ジィィ……」


「カシャッ!」


 5頭の鹿はゆったりと草を食みながら、静かに林を横切っていく。


 中でも一頭のオスは大きく立派なツノを持っていて、その迫力にオレたち3人は息を呑んだ。


武「このオス、すげぇな……ツノがまるで枝みたいに広がってる。あんなの間近で見たらさすがに怖ぇよな」


慶次「しかも体もデカいし。車で支笏湖の方行くとたまに見るけど、こんな間近は初めてだわ」


涼「ああ……自然の中にいるって感じがスゲェな。こいつらの領域テリトリーに入り込んだってことだよな」


 オレたちはしばらくその静かな光景に見入っていた。


涼「こういう瞬間があるから旅っていいんだよな」


武「確かにな。なんか気持ちがスッと落ち着くっていうか」


慶次「よし、休憩は終了だ。そろそろ出発すっか」


涼「OK!次はファーム富田だ。ラベンダーアイスが待ってるぜ!」


 再び自転車にまたがり、涼やかな風の中、再びペダルを踏み始めた。


 

 漕ぎ始めてから約1時間。中富良野のファーム富田に着くと、ラベンダーの香りがふんわり漂っていた。


武「この場所!確か『北の国から』に出てたよな?」


慶次「いや、知らねぇ?……北の国からってちゃんと見たことねぇな?みなさんのおかげですのパロディは知ってっけどな。」


武「いしだあゆみが、ラベンダーの中でしゃがんでたでしょぉが!まさに、この場所だろ!」


涼「熱量がすごいな……いしだあゆみって出てたか?」


武「五郎の嫁だよ、ヨ メ !」


涼「じゃあ、やっぱ知らない。五郎と純と蛍の3人家族って思ってたぜ」


武「意外に道民は見てねぇのか?中学生だからか?」

 

慶次「それにしても、思ったよりラベンダー少ないな……」


 オレたちは知らなかったが、7月の見頃は過ぎて、8月に入り刈り取りが始まっていたのだ。


 それでも売店で買ったラベンダーアイスは、香りが強くて甘くて美味しかった。


 オレは冷たさと優しい香りに、少しだけ旅の疲れが和らいだ気がしてた。


 

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