第18話 新しい生活と術師の心得
「おいしい!!」
沈黙が続く朝食のひとときで、いつ話し出そうか考えていたにも関わらず、一口口に含んだ焼きたてのパンに身も心もほっこりした。
「素敵! こんなおいしいものを毎日食べていると言うの?」
「ええ、サントスシェフの焼きたてのパンはおいしいですね」
同調してくれたセレンに、うんうんと必死に頷く。
「温かいスープを朝から飲めるのも幸せだわ」
ただ昨日からほとんど何も食べていないため空腹ということですべてが美味しいと感じるのではない。
お給金が入るときは少しばかり奮発して(とはいえ、わたしなりに……ではあるけど)おいしいものを食べることもあったとしても、わたしの朝ご飯はいつも硬いパンをかじることが常で、やわらかなパンがあるわけでもなければ温かいスープなんてとんでもなく、心から感動してしまったのだ。
生きててよかった!などと単純にも思ってしまうほどに。
それでも、表情ひとつ変えることなく口に含むゼロやセレンは慣れ親しんだものなのだろう。
「あ、ごめんなさい……つい……」
思わずはしゃいでしまったけど、マナー違反だったかもしれない。いや、きっとそうだ。そう思ったら少し恥ずかしくなる。
「問題ないですよ。母上がおいしかったと言っていたことをあとでサントスさんに伝えます」
(あ……ああ、なんて素敵な子なのかしら……)
一生懸命わたしのフォローをしようとしてくれている姿にいたたまれなくなってくる。
ゼロは話す気はないのか、音を立てることなく黙々と運ばれてくる食事に集中している。
「あれ……」
そこでふと違和感に気付く。
「あなた、手は大丈夫なの?」
どうやら両手を使って器用にフォークとナイフを操っているけど、わたしを救うために一時的とはいえ、左手を失ったと言っていたような……
「問題はない。食事をするくらいなら何とでもできる」
仮に代用したものということだろうか。
すっと伸ばし、見せられた手は本物と遜色はなく、 昨夜触れた時に感触のなかったものとは到底思えなかった。
「……すごい。そんなこともできるのね」
当たり前ではあるのだろうけど、わたしが最強の術師と言われたのだ。
わたしの覚えている限り優秀だったゼロだって、覚えていないこの数年間の間にわたしが想像できないくらい力をつけているはずだ。
それをそばで見ていられなかったことをひどく残念だと思う反面、彼がどのくらい強くなったのも同時に知りたかった。
「どうやらわたしは身体だけではなく、力まで十五の現在のものに戻ってしまったみたいだから、自分がセレンに教えてもらったほどの術師だとは未だに実感が持てなくて」
今度は何かを答えるでもなく、ちらっとこちらに目を向けたゼロにありのままを伝える。
「いろいろと相談したいことがあるわ。今、もしまた命を狙われても自分では何にもできないからまたトレーニングをしなければいけないと思うの。夢で見たわたしはこのあと猛特訓したらしいのだけど、今のわたしにそのくらいの時間は与えてもらえるのかどうか……」
失恋を糧に相当努力をしたらしい。
その頃のわたしの気持ちは、わかるようで今のわたしにはわかってあげられない。
どのくらいつらくて、歯を食いしばる日々だったことか。
「夢……を、見たというのか?」
「ぼんやりしていてあまりよく覚えていないのだけど、強くなったのだと」
言ってしまってから聞いた話だったのか夢だったのか、どっちだったかと疑問に思ってしまったのだけど、たしかこれはセレンから教えてもらった話ではなく、自身が昨晩見た夢で知った出来事のように思う。
どんな夢だったかは、今ではほとんど覚えていないのだけど。
セレンならわかるかと彼の方に目を向けると、両手の動きを止め、ポカンとした様子でこちらを見つめる彼の姿が目に入った。
「ああ、セレン、ごめんなさい」
彼の存在を忘れていたわけではないが、彼を置いて話を進めてしまい、驚かせてしまったようだ。
「心配しなくても大丈夫よ。ただ、力のあるという自分が想像できなくて……今のままだと万が一に備えられないと思って」
そういえば、守られる側の王族も術を学ぶものなのだろうかとふと疑問に思う。
「えっと……セレンは術は使えるのかしら?」
「父上や母上ほどではありませんが、練習はしています」
「ええ、そうなの? 属性はなんなのかしら」
言いづらそうに告げ、恥ずかしそうにゼロは下を向く。
「火です」
「あ……ゼロと同じなのね」
「え……」
十二のときのわたしは本当にへなちょこで先輩の足ばかり引っ張っているダメダメ術師だったけど、そのころからゼロは優秀で先輩術師たちからも一目を置かれていたことを思い出す。
「あの……は、母上……」
「ん?」
「あの、その……ゼロ……とは……」
「……あっ!」
セレンが戸惑った声を出し、彼の視線がわたしと、すでに他人事のように食事を続けるゼロの方に移ったのがわかった。
状況は理解したけど、頭が追いついていかないのだろう。
「あ、ごめんなさい。彼……えっと、オースティン様のことよ」
「え、そうなのですか?」
「わたしたちは同郷のよしみなのよ」
聞いていない?と問うとセレンは、えっ……という言葉にならない表情を見せた。
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