女王陛下は紅茶を片手に微笑む~可愛い妹が婚約破棄をされたので、建国してみました!~

星雷はやと@書籍化作業中

第1話 目覚め


「……っ?」


 不意に、霧が掛かっていた意識が鮮明になる。


「なんでしょう……?」


 私は自身が絨毯の上に倒れていることに気が付く。手触りの良い絨毯に手を着き、身体を起こす。何故、私は倒れていたのだろうか。不思議に思いながらも立ち上がる。すると豪華なドレスが揺れた。

 瞬きをして周囲を見回すと、西洋風の応接室であることが分かる。そこで今日は王城で行われるパーティーに参加する為に登城していたことを思い出す。


「あぁ……そうでしたわ……」


 ローテーブルの上にグラスが割れている。そのグラスの破片に今世の私、リリアンヌ・ドレミュント公爵の姿が写る。銀色の長髪に赤い瞳を持つ、容姿端麗な女性だ。前世平凡な会社員の私とは、地位も容姿も雲梯の差である。


 私には前世の記憶がある。前世では現代社会にて会社員として働いていた。その日も普通に仕事を終えて自宅のベッドで寝た記憶を最後に、目覚めるとこの世界に公爵令嬢として生まれ変わっていたのだ。要するに私は転生者である。アニメやゲームではそういう類の話があるとは聞いていたが、実体験するとは予想外だ。

 因みに、この世界は漫画の『悪役令嬢は楽園追放』という世界である。私は漫画を読んだことはなく、会社の後輩が語っていたのを聞いていただけだ。

 転生してからはこの世界に馴染み前世のことはすっかり忘れ、次期公爵として精進してきた。そんな私も成人し公爵家を継ぎ、公務に従事しているのだ。この世界では女性当主は珍しいことではなく。公爵という立場もあり、私には一応ゲイン・ダール伯爵子息という形だけの婚約者が居る。


 しかし二十三年間も忘れていた前世の記憶を何故、今になって思い出したのか不思議でならない。


「それにしても……何故、私は倒れていたのかしら?」


 首を傾げるとシルクのような銀髪が揺れた。パーティーに参加する筈が、王城の応接室で居眠りをしていたとは考えられない。私は実直で品行方正な人物として勤めているのである。体調不良でもない限り、怠惰な行為をするとは考えられない。最後の記憶は、この国の王太子殿下と婚約者に呼ばれてワインを振る舞われたことだ。


「見てみましょうか……『真実を映し出せ』」


 私は右手の人差し指で宙に円を描き、魔法を発動させる。淡い水色の魔法陣が浮かび、王太子たちと私が居る状態の部屋が映し出された。過去にこの場で何が起きたのか、真実を映し出す『水鏡』の魔法だ。前世の記憶が戻っても魔法が使えるようである。


「毒ですか……」


『水鏡』に映し出された『真実』の内容に眉をひそめる。


 王太子と婚約者は私のワインに毒を盛り、苦しむ私を嘲笑い。その上、放置したのだ。如何やら私が前世の記憶を思い出したのはこれが原因のようだ。毒を盛られ生死の堺を彷徨したことにより、魂が刺激された結果だろう。口元に着いた血を拭う。

 以前からも王太子は王の器に相応しくないとは思っていたが、公爵でありこの国の国防を担当している私を暗殺するとは呆れる。加えて婚約者であるゲイン・ダール伯爵子息も暗殺の片棒を担ぐなど、一体何を考えているのか分からない。私と彼とは愛のない婚約ではあるが、一応は婚約者なのだ。王太子と共謀し私を排するなど何を考えているのか分からない。きっと愚か者のすることなど理解することはできないだろう。

 それにしても『悪役令嬢は楽園追放』にこのような事態が発生するなど、後輩からは聞いた覚えがない。そもそも私こと、リリアンヌ・ドレミュント公爵の存在についても聞いたことがないのだ。漫画では描写され知らなかったのか、それとも後輩の伝え忘れかは分からない。


「サファリエールは無事なのかしら?」


 私は周囲を再度見渡し、妹の姿を探す。今日は妹も王城で行われるパーティーに参加しているのだ。ここ数年は激務で中々、直接会うことは叶わなかった。確か王城で会おうと手紙で約束をしたが、私は王城に着いて直ぐに王太子と婚約者に呼ばれ別行動をしている。私の護衛騎士も妹の元に向かうように指示をしている為、危険には晒されていない筈だ。だが、心配である。

 妹は王太子殿下の婚約者であり、その王太子との仲は良くない。妹が悪いのではなく、王太子が聖女に夢中で妹を遠ざけているのだ。可愛くて優しく、頑張り屋で気遣いが出来て器量も良い自慢の妹である。最高に可愛い妹を差し置いて、聖女に現を抜かすとは断じて許し難い。サファリールの姉である私が苦言を呈しても、王太子殿下は私の言葉に聞く耳を持たなかった。

 そして私の存在を鬱陶しく思い、国中を動き回る激務を言い渡されたのだ。国土に侵入する魔獣の討伐する日々の連続で、妹と会うことも出来ていない。勿論、形だけの婚約者にも手紙を書いたが返事はなかった。


「さてと……」


 私に対して毒を盛ったということは、彼らは妹にも危害を加える可能性がある。護衛騎士たちは皆優秀で信頼できる者たちだが、王太子という権力を振るわれれば対抗する術がない。


「杞憂で終われば良いのだけど……」


 加えて私には心配事が浮かぶ。私の妹はサファリエール・ドレミュント公爵令嬢である。前世で後輩が仕事からの現実逃避に読み漁っていた、『悪役令嬢は楽園追放』に登場する悪役令嬢の名前と同じなのだ。妹は悪役令嬢などと言われるような子ではない。しかしこの世界が前世の記憶通り『悪役令嬢は楽園追放』漫画の世界と同じならば、妹は悪役令嬢ということになる。


「如何か無事で居て頂戴……」


 妹の安否を確認するためにも、一刻も早く合流するべき出来だ。

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