全てが中途半端な俺のお見合い顛末
黒木メイ
第1話
嫌な内容程耳に入る。
「あいつだろ?」
「そうそう。あいつが例の『ダヴィデ団長の世話係』」
「へえ~。うわさどおり弱そっ」
嗤い声が癇に障る。が、無視する他ない。
あれは確か……第二騎士団の連中か。
「だろう? あれで俺たちよりも高い給料もらえてんだぜ? なんていったって副団長様だからな」
「実力はなくても、運はあるって? たまたまダヴィデ団長の目に留まっただけのくせに、うらやましいぜ全く。代わってほしいくらいだ」
「よせよせ。いくら羨ましくても、ダヴィデ団長の下に直接就くのは悪手だ。命がいくらあっても足りない。先輩たちも言ってただろ?」
「え? あれって本当だったのかよ。だからあんなやつでもなれたのか。『副団長』はむしろ危険手当代わり?」
「そういうこと」
歩くスピードを速めた俺の横にピタリと部下が並ぶ。
「エミリオ副団長。いいんすか? あいつらに、あんなこと言わせておいて」
「かまわない。だいたい、おまえも最初は同じような反応だったじゃないか」
「あ、あれはまだ自分がなにも知らないガキだったからっすよ!」
必死に言い訳を並べる部下を見て、思わず笑ってしまった。正直、あいつらよりおまえの方がひどかったぞ。とは口にせず。コイツは自分の間違いを他人に指摘されるのを嫌うから。
「あいつらも同じ。だから気にしなくていい」
――どうせ、もうすぐ辞めるから。
肩を竦め、この話はこれで終わりだと強制終了させた。
俺の名はエミリオ・イデム。イデム伯爵家の四男だ。生家はここ数十年目立った功績はないが、特に問題も起こしていない中立派の家門。野心家の「や」の字もない父の影響か、領地民は穏やかで治安もいい。税も毎年きちんと納めている。
そんな家で育った俺は、わが家の教育方針『学ぶ機会は皆平等に』のおかげで四男でありながら不相応の知識を得た。が、その知識を自領で活かせずにいた。
堅実家の長男は後継者として父の手伝いをし、次男は将来長男の補佐役となれるように実践込の研修を受けている。三男は早々に自分の役割を理解し、家の利になりそうな商家に婿入りした。
そして、四男の俺はというと……家のためにできることを一つも見つけられず、王国軍騎士団に入団した。せめて生家の金喰い虫にはならないようにと悩んだ末の結果だった。
だが、残念ながら剣の腕はいまいち、銃はそこそこ。これでは昇進は望めまい。それでも一介の騎士として働けばいい。そう思っていたのになぜかダヴィデ団長に目をつけられ、副団長になってしまった。
いったいダヴィデ団長は俺のどこに目をつけたのか?
自分でもわからない。俺にいいところなんてあるのだろうか。
ダヴィデ団長は聞いても教えてくれるような性格ではない。しいていえば事務仕事が他のものよりできることくらいか?
ダヴィデ団長は『鬼才』なんて呼ばれているが、俺からすると『戦闘狂』だ。戦闘時は、普段の王子様のような姿からは想像できないようなくらい暴れる。下手をしたら味方も巻き込む勢いで。ダヴィデ団長の動きをある程度予測して動けば問題ないが、部下曰くそれが難しいらしい。
(たしかに、最初は俺も必死だった。生存率を上げるために団長の動きを徹底的に調べあげたのが、遠い昔のことのようだ)
後始末はいつも俺がしている。ダヴィデ団長程ではないが、部下たちもなかなか個性が強いので任せるのは難しいのだ。俺がした方が早い。
そして、ダヴィデ団長は協調性が皆無。仕事以外はどこかにふらふら消えていく。前線に出る以外の仕事は嫌がる。特に事務仕事なんて絶対にしない。先任の副団長は「死にかけた後にこんな雑務を……お、俺はこんな仕事をしたくて軍に入ったんじゃない!」と早々に他部隊への異動を願い出たんだとか。さもありなん。
ダヴィデ団長を筆頭に個性豊かな第三騎士団。まとめるのは本っ当にたいへんだ。他団の団員たちはそのたいへんさがわからないから好き勝手言っているが、俺だって代われる者なら代わってほしい。なんなら騎士団を辞めてもいい。最近の俺はそんなことまで考えるようになっていた。
そんな時に降って湧いた見合い話。しかも、ダヴィデ団長と一緒らしい。
――はあ?! 二組同時見合い? しかも、あのダヴィデ団長が仕事を辞める?!
ダヴィデ団長は公爵家の嫡男。いずれそういう日がくるとは思っていたが、早すぎる。なにより女性に興味がないんじゃなかったのか?
どんな令嬢に声をかけられてもピクリとも興味を示さなかったダヴィデ団長。というか、国王陛下はこの話を知っているのだろうか。俺はともかく、ダヴィデ団長が辞めるのはまずいのでは……騎士団の戦力を一気に削ぐことになる。
心配にはなったが、仲介人は総長の奥様。俺ごときが口を挟めるわけがない。と、思っているうちに正式に見合いが行われることとなった。国王陛下も承知の上らしい。なにより驚いたのは、団長が乗り気なことだ。ありえない。見合い当日は空から剣が降ってくるかもしれない。気をつけなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。