陥れられた10連覇王、蘇って復讐する

克全

第1話:10連覇王の決断

「連覇です、前代未聞の10連覇です!

 竜神輝騎さんがVRMMO『異世界大戦』のランキング戦を、第1回大会から負けなしの10連覇をされました!」


 アナウンサーが配信以来無敗を続ける竜神輝騎を褒め称えて絶叫する。

 10億人以上のプレイヤーがいる『異世界大戦』で無敗を誇る覇者を称える。

 

「ありがとうございます、皆さんの応援のお陰です」


 本名でプレイをしている竜神輝騎はとても謙虚だった。

 『異世界大戦』は他のプレイヤーからの投銭や案件でもお金を稼ぐことができる。

 だからこそ、単に強いだけでなく人柄も大切だった。


「竜神輝騎さんは、このランキング戦の賞金を難民基金に寄付されるそうですね?」


「はい、多くの企業が協賛してくださった賞金は全て寄付させていただいています。

 個人的に投げてくださったお金は、セキュリティーに使わせていただいています」


「この大会中も、多くの脅迫があったと聞きました、大丈夫でしたか?」


「残念な事に、私も家族も家から一歩も出られなくなっています。

 食料品も配達していただくしかない状況です。

 外に出られるのは、今回のように『異世界大戦』の開発配信企業であるアスガルド社様が、護衛を派遣してくださった時だけです」


「大変な状況の中で、10連覇という偉業を成し遂げられたのですね。

 今後のプレイ方針などをお聞かせください」


「ランキング戦はこれまでと同じようにあらゆる挑戦を受けさせていただきます。

 同時に『異世界大戦』の本筋であるクエストにも挑みます」


「そうでした、竜神輝騎さんはクランに参加されず、パーティーも組まず、ソロでメインクエストのトップを走り続けられていましたね。

 特級冒険者として、エルフと友好を結ばれるのですよね?」


「はい、魅力を上げてエルフとの友好クエストを達成する予定です」


「エルフとの友好クエスト、初完全達成の賞金も慈善活動に使われるのですか?」


 竜神輝騎の年収は5億4000万ドル(810億円もあった)

 配信収入に加えてスポンサー収入、グッズ販売や投銭収入も莫大な額だった。

 その半分を恵まれない人達に使う事が、広く世界中に知られていた。


「はい、虐めで引き籠もられた人達、パニック障害などで社会復帰が難しい人達のための、社会復帰事業を立ち上げる予定です」


「今も昔も変わりなく『異世界大戦』のヒーローであり続けられる、竜神輝騎さんのインタビューでした。

 私も配信を観続けさせていただきます、ありがとうございました」


「こちらこそありがとうございました」


 アスガルド社主催のパーティーを終えた竜神輝騎は、アスガルド社のボディーガードに守られて、何所にも寄らずに自宅に戻った。


 災害用の保存食を始めとした膨大な物資と共に自宅に戻った。

 10年間も世界1番のVRMMOで君臨し、莫大な富と名声を得ているのだ。


 脅迫や買収など日常茶飯事で、毎日命の危険を感じながら暮らしている。

 自宅に戻って直ぐに、家族が安全に暮らせるように手を尽くす。


「二条先生、脅迫や買収の対応はどうなっていますか?」


 竜神輝騎は、画像通話で顧問弁護士を相手に懸案事項について確認する。


「明確な殺害予告はもちろん、殺害を臭わせるような配信や書き込みは、全て運営だけでなく個人に対しても警告しています」


「即時対応しない運営や個人は全部裁判に持ち込んでください。

 裁判費用が回収できなくても構いません。

 両親や弟の命はお金に代えられません」


「分かっております、裁判の準備は整っています」


「買収の件はどうなっていますか?」


「多くのサーバーや仲介者を通しているので、明確な証拠がありません」


「状況証拠だけでは勝てませんか?」


「相手は多国籍に跨る大財閥で、弁護団も非常に優秀です、

 逆に名誉棄損や営業妨害で莫大な賠償金を請求されます。


「二条先生でも勝てないのですか?」


「厳しいです、絶対に勝てないとは申しませんが、負けた時が悲惨です。

 竜神さんは全てを失う事になりますが、そのお覚悟はありますか?」


「あります、世の中の不正義に目をつぶる気はありません。

 訴える事で家族に危害が及ぶなら、泣き寝入りする事もあるでしょう。

 ですが今は、訴えないと家族に危害が及びます、全部訴えてください。

 金山財閥の八百長依頼も訴えてください」


「分かりました、全て裁判に持ち込みます。

 私の事務所だけでは全ての裁判を抱えきれないかもしれません。

 その場合は知人の弁護士に依頼する事になります。

 金山財閥に関しては、企業訴訟が得意な弁護士に協力を仰ぎます、宜しいですか」


「構いません、全部訴えてください。

 費用は100億まで出します。

 成功報酬として、費用を差し引いた賠償金の30%を支払います。

 金山財閥に勝てるだけの弁護士を集めてください」


 竜神輝騎は裁判を二条弁護士に任せてゲームと配信に集中していた。

 11連覇に向けて、ステイタスとレベルを上げて万全を期していた。

 日々の食事は母親が愛情一杯の料理を作ってくれていた。


 食材はネットスーパーに注文して自宅に運んでもらっていた。

 莫大な収入をつぎ込んで建てた自宅は要塞のように丈夫だった。

 両親と弟を守るためのお金は惜しまずに使っていた。


 大財閥が放った刺客に狙われているので、外に出て運動ができない。

 仕方なく自宅に本格的なトレーニングルームを作っている。


 10階建ての自宅ビルには、最新のトレーニング機器だけでなく、通路を昇り降り周回するランニング路も造られている。


 竜神輝騎がこれほど本格的なトレーニングルームを造ったのは、『異世界大戦』に並みのVRMMOとは違う特徴があったからだ。


 普及版のヘッドギア接続器は使った場合は、本人の身体能力とは関係のない、全プレイヤー共通のステイタスしか与えられない。


 だが、カプセルベッド式の高級接続器を使った場合は、プレイヤーの筋力や神経伝達速度を計測して、本人と同じ能力を発揮できるようにしているのだ。


 更にアスガルド社の本社や支社、営業所に行って測定室で身体能力を計測した場合は、身に着けた武術を再現してくれるシステムになっていた。


 柔道や剣道はもちろん、西洋式の剣術や盾術、弓術やアーチェリーに至るまで、プレイヤーの能力を基本値よりも上方修正してくれるのだ。


 だから本気で『異世界大戦』に取り組んでいるプレイヤーは武術を学んでいた。

 一日中ゲームに没頭して身体を壊すようなプレイヤーはいなかった。

 コンマ1秒の速さがゲーム内の生死を決めるので、真剣に身体を鍛えていた。


「何時もお世話になっております、アスガルド社広報担当のリオナと申します。

 プレイヤーの竜神輝騎様でしょうか?」


 第11回『異世界大戦』ランキング戦の予選が近づいたある日、アスガルド社以外は誰も知らない竜神輝騎のスマホに連絡があった。


「はい、竜神輝騎です」


「ランキング戦の前に広報活動を行っていただきたいのですが、御都合は宜しいでしょうか?」


「できるだけ協力したいと思っているのですが、ラインキング戦が近づくにつれて、脅迫が激しくなっています。

 自宅からネット配信で参加したいのですが、いいですか?」


「脅迫と買収工作に関しては、我が社もできる限りの支援をさせていただきます。

 竜神輝騎様の安全に関しても、社の方で万全を期させていただきます。

 何時もより4人多い12人体制で護衛させていただきます。

 日本の警察にもSPを派遣してもらえるように交渉しています。

 ですので日本支社までお越し頂けないでしょうか?」


「僕の方はそれで良いですが、留守中の両親と弟の事が心配です。

 日本の警備会社に守衛を派遣してもらっていますが、単なる気休めです。

 日本の警備員は命懸けで依頼者を守ってはくれません。

 そもそも日本の会社は、命を捨てて依頼者を守れと社員に命令できません。

 僕は武術を学んでいますし、敵を殺す覚悟を持っていますが、家族は違います」


「分かりました、竜神輝騎様に来ていただいている間は、我が社の優秀な警備員、元海兵隊員の精鋭を自宅に派遣させていただきます」


「分かりました、そこまでしていただけるのなら支社に行かせていただきます」


 この決断が竜神輝騎を地獄に落とす事になった。

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