第161話
──おっさんは、死にかけていた。
カツオの刺身が美味すぎたせいか。
家族の笑い声に酔ったのか。
それとも、調子に乗った自分のせいか。
「おっさんの〜♪ちょっといいとこ見てみた〜い!」
──などと自ら音頭を取り、
セーブルのグラスを奪ってグビィィッと煽った記憶だけが、かすかに残っている。
そして現在。
──危篤状態である。
全てがおかしいのだ。
敵の気配の起こりすら察知するセーブルが、
咄嗟におっさんの背に回り、両腕を拘束。
テティスも「
毒焼酎のグラスに即座に結界を張った。
──なのに。
「おめたづは〜……ほんっに、めんごいなぁ〜〜〜」
おっさんは陽気に笑い、
そのまま拘束ごと前進し、
結界ごとグラスをつかみ……飲み干した。
拘束も、結界も。
最初から無かったかのように。
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夜会は中断され、慌てふためく家族達。
セーブルは…
「この
テティスは…
「パーパ死んでほしくないけど…赤ちゃんになっちゃうし…」
と、苦悩する。
トゥエラはミロとカツオで満腹で、
みーくんを抱きしめて眠っている。
おっさんの顔色は、見る見るうちに血の気が引き、
セーブルにとっては、仕事柄見慣れている…
もう、間違いなく助からない状態。
へと落ちていった。
その土色の唇に………
パステリアーナ王女の桃色の美唇が重なった。
パステルは首元の
おっさんの体内の毒を吸い出し…
ネックレスへと送り込んだ。
永遠かとも思える十数秒…
「ぷはっ」
と顔を上げた王女。
その下には…ただの酔い潰れた中年男性がいた。
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残った五人は夜更けに反省会を開いていた。
「申し訳ありません…私が…毒などを飲まねば…」
「いえ、セーブル伯爵の食事は皆把握しておりました…食器の配置も、
「マジありえないんだけど?結界魔法握り潰してたし!?」
「ん〜?もう朝ごはんなの〜?」
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──なんてこった…酔っ払い過ぎたのか…
まさか自分が急性アルコール中毒で死ぬとは…
モヤモヤとした
おっさんは漂っていた。
「しくじったなぁ…せっかくあんなにめんこい家族と巡り会えたっちゅーのに…」
恥ずかしいし情けない…
まぁ、あの家はストーンウッドは無理でもセーブルが完成させるだろうし、
黄金の詰まったフレコンも地下の隅っこに置いてある。
あいつらがこの先食っていくのに困ることはないだろうが…
ただ、横っちょでその風景をもっと見て居たかったなぁ。
酒での失敗談は、若い頃から何度もあった。
スナックで調子に乗って騒いでいたら、怖そうなサングラスのおっさんにボコボコにされたり、
飲み過ぎてまともに歩けず、畦道から田んぼに落ちて、そのまま寝てしまい…
パトカー数台に囲まれて居たり。
だが、今回の失敗は…取り返しがつかん。
まぁ、異世界に来て何年経ったのかは判らないが、日本で独りぼっちだった時よりは、
最高に楽しい人生だった。
トゥエラも、テティスも、リリも、パステルも、セーブルも…
ん?
セーブル?
──すると、視界が急に開けた──
立派な一枚板のテーブル。
レジン液で川を模して固められた美しい蒼。
その向こうには、大きな石で組まれた暖炉が見える。
「樹海のログハウスであんめか?」
辺りを見回そうとすると、また景色がボヤける。
今度は、街が見下ろせる割と高い景色…
遠くにポツンとお城が見える。
「王都け…?どうなってんだこりゃ?」
そして、ガバリ、と起き上がれば…
いつもの家族、いつもの仮設住宅が目に映った。
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「朝け…」
急アルで死んだ夢を見たおっさんは…
必ず訪れる筈の、戒めの頭痛と胸焼けもなく、スッキリと目が覚めた。
いつも自分が最初に起きて、朝食を作るというのに、
何故か今朝は家族の皆がおっさんを囲んで変な顔で見ている。
「どうした?おめたつ、腹へったんけ?
…なんで泣いてるんだっぺ?」
モゾモゾと起き上がると、突然、皆に
ことの顛末を、皆々から
申し訳ねかった。と床に頭をつける公爵閣下。
食材を豊富に使った、贖罪の朝食を皆に振る舞い、
パステルには、
「気色悪りいことさせちまって済まなかった。」
と何度も頭を下げた。
王女は頬を赤らめ…
「お気になさらないでくださいまし…
その……初めてでしたの…」
と、おっさんにトドメをさした。
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毒酒を吸い出した、姫の体調は無事なのか?
と心配になり聞いてみると、
全てをネックレスに封じ込め、それをセーブルが飲み干して処理したとの事。
「しっかしよぉ……セーブル。」
おっさんは徐に弟子の顔を見つめ、
「毒ってのぁ…本当にうめぇだなぁ…
死にたくねぇからもう飲まねぇけど…」
ニヤリと笑い背中を軽く叩き、腰袋を締め直す。
──今日も気持ちの良い一日が始まった。
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