第109話

大型路線バスが、


プシュー…と折れ戸を開く。


駅名は、冒険者ギルド スイングドア前。


おっさんが事情を説明しようと、

受付嬢リリの元へ。


理解の早い彼女は、

乗客を一通り見て、ライオンギルドマスターの元へ。


未だ混沌としている奥の会議室から…


野球チームライオンズマスコットホワイトタイガーのようになったギルマスが現れ、


彼の方が死にそうなので、他を当たってくれ。


という目で訴えられたので、

他の知人…と浅慮し、教会へ向かった。


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ガタポコと石畳を揺らしながら、

バスはゆっくりと減速する。


「次は〜、光る女神像前〜、お降りの方は……って誰も起きとらんか」


乗客たちは疲労と安心からか、まだ目を覚まさない。


おっさんはトゥエラとテティスを連れ、そっと車外へ降りた。



教会の門を開けた瞬間──


中から、燃えるような髪と剛腕を振り乱しながら

「あぁあ〜〜あぁ〜〜ん! ウルトラ・ハレルヤ〜〜ッ!!」

と、讃美歌ともオペラともメタルともつかないシャウトが響く。


聖母ポーネポセイドンである。


礼拝堂の天井が震えていた。



その傍らには、すっかり“シスター”らしい姿になったエミリー。

かつての貧民くずれのようなボロ服は、

地味ながらも丁寧に整えられた白い法衣へと変わり、

髪もきちんとまとめられ、清楚な空気をまとっていた。


……おっさんは一瞬だけ、「誰だっけコレ」って顔をした。



ライブ聖歌が終わると、前に置かれた棺桶ギターケースにライスシャワーのようなお布施チップが舞い、


信者ファン達が捌けるのを待って、

ポーネに事情を説明する。


してるのは、一緒に乗り込んできた受付嬢リリだ。


おっさんは、今夜のラーメンの具材と味付けをどうするかで憂慮しており、

真剣に焼酎を啜っている。


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ポーネはさすがに神職で、

直ぐに休ませてあげましょう、と協力してくれ…


乗客を大聖堂の長椅子へ運んでくれた。


この長椅子だが…


実は個々に分かれており、

見た目ではただのベンチなのだが、


それはまるで、健康センターのリクライニングシートのように…


ゆったりと寝かされた被害者サウナー達に、


気前のいい奥の女神像が発光し、

神聖な霧スチームサウナを展開し、


なんならお香っぽい煙まで吹き出し…


おっさんの焼酎が乏しくなった頃には、


全員が目覚め、全てを、取り戻していた。


バスの乗客達は、皆々で手を取り合い、抱擁し、

慰め合い、この場に居ない人を悲しみ、

それでも笑った。


そうこうしていると、前に見たような鎧男たちが大勢現れ、

サ〜ソ までいそうなセバスチャン的な執事服達が乗客達を保護、誘導し消えていった。


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奇跡を見慣れているポーネ達でさえ、


女神像がスパ効果を出すのには驚いたらしく、改めて祈りを捧げていた。



おっさんも…


ポーネとエミリーの間に跪き、祈った。


「今日は担々麺がよかったんだっぺよぉ」




刹那…




女神像は優しく微笑み…


おっさんの前に、山盛りのスーパーのカゴを顕現した。



大喜びしたおっさんは、腰袋から、以前作業服屋で売っていた、工務店の忘年会で利用した

薄桃色のナース服を取り出し、

お礼に着せてあげた。


コンクリート強度検査にもつかう聴診器も首に掛けてあげ、

電動工具使用時に必要な保護メガネも、

縁が赤く少し斜めで、おっさんには似合わないのでかけてあげる。


ホクホク顔でカゴを抱え帰路に着くおっさん家族。




その後方には…


どう見ても如何わしいナースの女神像が、

頬を染めてカルテのような石板を持っていた。

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