終わりの見えないワルツ メディアと民意の不況和音

薄暗い照明が揺れるダンスホール。重く単調なビートが、この国の停滞を暗示している。フロアを漂う人々は、どこか諦めたような顔つきで、見えない鎖に繋がれているかのようだ。

DJブースには、影絵のように悪魔が佇む。彼の存在自体が、この国を蝕む疲弊と、人々の心に巣食う無関心の具現化である。彼はフロアで踊らされているかのような人々の姿を眺め、その口元には薄い笑みが浮かんでいる。

悪魔の言葉が、重低音のビートに乗ってホール全体に響き渡る。その声には、深いため息と、隠しきれない嘲りが入り混じっていた。

「つい最近も、皆様の中に、この停滞のワルツのBPMを少しばかり上げようとした者がおりましたな。そう、菅義偉と申しましたか。彼は、皆様の暮らしに直接触れる変化をもたらそうと、まことに実務的な施策をいくつか打ち出しました。携帯電話料金の引き下げなど、まさに皆様の生活に直結する改革でございましたな。」

悪魔は薄ら笑いを浮かべる。

「しかし、どうでしょう? 皆様は、彼がどれほど真剣に改革を試みたか、正しく理解なさいましたかな? 結局のところ、彼はたった一年ほどで舞台から降りざるを得なかった。まるで、新しい曲をかけようとした途端、フロアの皆様がざわつき、メディアという名の雑音に耳を傾けた結果、彼のディスクが飛んでしまったかのようでしたな。」

彼の視線はフロアで踊る人々へと移る。

「あの頃、メディアは連日のように彼を叩き、些細なスキャンダルや説明不足といったレッテルを貼り付け、あたかも彼こそがこの停滞の元凶であるかのように喧伝しました。そして、フロアの皆様もまた、見事にそれに踊らされましたな。**『地味だ』『発信力がない』**などと、本質を見抜くことなく、ただ表面的な言葉に流されていった。」

悪魔は、少し間を置いて、まるでとっておきのジョークを披露するかのように、口角を上げた。

「しかし、どうです? 時が経ち、ようやく皆様も気づき始めたようですな。あの頃、彼がやろうとしていたことは、実は皆様の利益に繋がっていたのだと。携帯料金が実際に下がったとき、初めて**『ああ、あの時、彼は本当に私たちのために動こうとしていたのか』**と、遅まきながら理解した。誠に、愚かでございますな。」

そして、悪魔はさらに声の調子を上げ、ホール全体に響き渡るように語った。

「そして、この愚かさは、メディアとやらも同じこと。あの頃の彼らは、さも自分たちがこの国を動かせると増長し、横柄に振る舞っておりましたな。まるで、このダンスホールの照明を、自分たちの都合の良いように勝手に明るくしたり暗くしたりできるとでも思っていたかのように。まさに傲慢の極み、無礼千万でございました!」

悪魔はフッと鼻で笑う。

「だが、おや、滑稽なことですな! 彼らは気づいていなかった。いや、気づこうとしなかったと言うべきでしょうか。水面下で蠢く、ネットの海の底に広がる新たな潮流に。フロアの片隅で密かに囁かれていた『本音』の声が、やがて大きな波となり、彼らの足元をすくうことになろうとは。あの頃、彼らはネットなど所詮、些末な『便所の落書き』程度にしか思っていなかった。全くもって、愚かなことです。彼らの影響力が、いつの間にか、その『便所の落書き』とやらによって、徐々に侵食されていたことに、最後まで気づきませんでしたな。さぞかし、心地よい夢から覚めて、現実の冷たさに震えていることでしょう!」

「本来評価すべき政策よりも、安易な言葉に流され、目先の不満に囚われては、いつまで経ってもこのダンスホールから抜け出すことなどできはしませんよ。自ら可能性の芽を摘んでおきながら、後になって『あれは良かった』などと嘯(うそぶ)く。誠に、残念なことです。皆様が自ら招いた結末に、我々悪魔はただ、慇慃無礼に笑うばかりでございます。」

その一言が、ホール全体に、妙な、そして不気味な笑いを誘った。人々は、その言葉の意味を深く考えず、ただ漠然とした同調の笑いを浮かべる。彼らは、自分たちが悪魔の掌の上で踊らされていることに、まだ気づいていない。

フロアには、相変わらず沈鬱なワルツが響き渡る。人々の足音は、以前にも増して重く、そして疲弊しきった音を奏でているかのようであった。彼らは、悪魔の言葉が突きつけた真実から目を背け、ただ目の前の、しかし決して満たされることのない日常のダンスを続けている。

DJブースから悪魔の声が再び響く。その声には、諦めにも似た響きが混じっていた。

「皆様は、この白昼夢からいつお目覚めになるのでしょうか? それとも、このまま永遠に、心地よい幻影の中で朽ち果てていくおつもりでしょうかね。」


未だに自分たちが日本を動かしてると勘違い

しているアナウンサー、


誠に滑稽、実に滑稽。

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