fragment 2 誘惑論

その魔女ははみかみながら俺の出口を溢れ出る涙で塞いだ


俺がいつも逃避していた安息の隠れ家の出口を無慈悲にも


夢だって飲みかけの空き缶のように自身の捨て場を求めて


震えながらもやがて覚醒へと続く道を見つけるというのに


俺には覚醒などは程遠い永遠の螺旋階段をのぼるに等しい


行き場を失った俺のその宙を彷徨う瞳が好きだと告白する


魔女たちはいつも俺を誘い愛し合えるようにと涙の舞踏を


ひとつの決まりごとのように戯れという名のロンドを踊る



それは素材ではなく加工の違いなの 俺の哀しみは悦びに


加工された郷愁の津波となって桃源郷の市場に出荷される


出荷された俺の悦びはマーケットから全て直ぐに消え去る


魔女たちは正装して古代の全てを支配する魔王の前に立ち


忠誠を示す口づけに添えて俺の加工された悦びを贈るから


何故魔王はあなたの加工された悦びを好むのかしら魔女は


そう言った直後あなたは私の専属に成りなさいとも言った


決して後悔なんかさせないわ私の可愛いベビードールさん


さああなたがかつて生まれた場所に私と一緒に戻りますよ


その魔女の誘惑する甘い言葉にまた俺の郷愁が情念の炎と


化して愛はやはり戯れの儀式に過ぎなかったことを知った

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