(3)現地で収集した校則群とその実影響③

 3.2.2. 学習活動および学校生活への影響

 校則は,児童生徒の学習意欲や学校への適応にも負の影響を与えていた.


 ①学習意欲の低下

 「両刃鋸の使用限定」など,学習活動にまで細かく介入する校則は,児童生徒の自主性や探究心を阻害する要因となっていた.また,不参加の場合に成績に影響が出るとされる「夏季サマースクールへの積極的参加」は,学習への内発的動機付けを損ない,強制的な学習時間として認識される傾向にあった.さらに心身の拘束である行動規則は児童生徒の家庭学習意欲を妨げるものであった.


 図4.行動規則の運用個数と想定家庭学習時間の相関

(作者:記載に当たり図表が使用不可のため、以下に図表の様子を出来る限り詳細に記します)

 ・縦軸に想定家庭学習時間(h)を記載した学校毎の箱ひげ図。

 ・行動規則の個数が多い順C中学校>D中学校>A小学校>B小学校の順番で想定家庭学習時間は少なくなる傾向がある。

 ・B小とC中、B小とD中間で有意差(U検定:有意水準5%)が認められた。


 表2.各学校関係者による家庭学習に関する単語*¹の感性的正負*²割合

 【A小】正:負=41.96:58.04

 └行動規定=7

 【B小】正:負=47.12:52.88

 └行動規定=5

 【C中】正:負=23.11:76.89

 └行動規定=13

 【D中】正:負=36.78:63.22

 └行動規定=10

 *1:アンケート結果の自由記述欄およびインタビュー内容から単語を抽出した.

 *2:一般的にポジティブな用法で使用される単語を正,一般的にネガティブな用法で使用される単語を負とした.


 ②学校への不信感

 多くの児童生徒や保護者が,校則の不合理性を認識しながらも,それ長年校則の改定を行わない学校への不信感や諦念を抱いていた.特に,特定の校則が一度廃止されても短期間で再制定されるケースは,学校運営の透明性や合理性に対する疑問を深める結果となっていた.


 表3.1時間中の保護者インタビュー中の不信感を類する単語の使用頻度

 コントロール*¹:6.4回/h

 学校関係者への話題中:48.0回/h

 Y氏への話題中:67.98回/h

 

 *1:数値比較として、子どもの学校での様子や学校行事に対する話題中での単語使用頻度を計測した.


 ③教師との関係性の悪化

 校則の厳格な運用は,教職員と児童生徒間の関係性を「指導する側/される側」という画一的なものに固定化し,信頼関係の構築を阻害する側面があった.教職員が校則の合理性を十分に説明できない状況は,児童生徒の教職員への敬意を損なう原因ともなっていた.

 (別紙1:元教員A氏インタビュー)


 3.2.3. 家庭および地域社会への影響

 校則は学校内だけでなく,児童生徒の家庭生活や地域社会のあり方にも間接的に影響を及ぼしていた. (別紙2,3,4)


 ①家庭内の負担増加

 「傘の常時携帯」や「梅干しの義務化」など,保護者も校則遵守のために日常的な配慮を強いられていた.

 ②地域社会の閉鎖性

 「潮干狩りの禁止」や「校門前の水撒き義務」といった校則は,地域住民が共通して特定の行動を避ける,あるいは義務を負うことで,鴉在町が外部からは理解されにくい閉鎖的な共同体としての性質を強める一因となっていた.また、「盛り塩の禁止」のような一般的な慣習の否定は,地域の生活文化にまで影響を及ぼし,住民間の意識にも一定の歪みをもたらしていたことが推察される.

 ③潜在的な倫理的葛藤

 「特定の動物の生体処理」や「殺生時の身体処理の義務」といった校則は,児童生徒だけでなく,その行為を指導・黙認する教職員や保護者に対し,深い倫理的葛藤を引き起こす可能性が指摘された.これらの行為が,地域社会全体に共有される「常識」として受け入れられていることは,外部の視点から見れば極めて異質な教育環境を形成していることを示している.


 表4.平成30年金田井市内主要地域および鴉在町未成年犯罪数*

  【金田井市】

  総件数:653件

  内未成年:156件

  【鴉在町】

  総件数:378件

  内未成年:151件

  【稲守町】

  総件数:26件

  内未成年:1件

  【大盛町】

  総件数:28件

  内未成年:0件

  【児乃郡】

  総件数:204件

  内未成年:1件


 *北海道金田井市鴉在署公開の資料より抜粋


 上記の結果は,鴉在町の特異な校則群が,児童生徒個人の成長と幸福,そしてそれを支える家庭や地域社会の健全な機能に対し,看過できないほどの負の影響を与えている現状を浮き彫りにしている.

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