(3)現地で収集した校則群とその実影響①
3.1. 現地で収集した校則群
本研究の現地調査により,北海道金田井市鴉在町に所在する複数の小・中学校において,共通して極めて特異かつ不合理な校則が多数運用されている実態が明らかになった.これらの校則は,一般的な学校における児童生徒指導の範疇を大きく逸脱し,児童生徒の日常的な行動や生活様式,さらには彼らの精神性や身体性にも深く介入するものであった.収集された校則群は多岐にわたるが,その内容と影響範囲に基づき,以下の主要なカテゴリーに分類した.
3.1.1. 身体と行動への過剰な制約に関する規定(以下,行動規定と称す)
児童生徒の身体や日常的な行動に対し,明確な教育的合理性を欠いたまま,広範かつ厳格な制約を課す校則群である.
①登下校時の傘の常時携帯
天候の如何を問わず,登下校時には必ず所定の黒い傘を携帯すること.使用しない場合でも,常に手元に持つか,ランドセル・通学カバンに外付けすることが徹底される.
②金属製品の視認化義務
服装規定に関わらず金属類を必ず服の外に見える形で身につける,あるいは持ち歩くことが義務付けられている.
③特定の獣毛の携帯
児童生徒は,狼や犬の毛を挟んだ栞や小物を日常的に持ち歩くことが推奨され,事実上義務化されている.
④弁当への梅干しの義務化
給食がない日や弁当を持参する際には,必ず「種ありの梅干し」を入れることが義務付けられている.
⑤飼い犬との触れ合いの義務
家庭で犬を飼育している児童生徒は,一日に最低1時間,飼い犬と触れ合うことが推奨され,家庭での実施が求められる.
⑥両刃鋸の使用限定
授業や家庭での工作課題などにおいて鋸を使用する際は,両刃の鋸のみが使用を許可されている.
⑦満月と新月時の外出禁止
満月と新月の日には,学校以外の不要な外出が厳しく禁じられている.
⑧潮干狩りの禁止
児童生徒による潮干狩りは厳しく禁止されている.
⑨バス最後部座席の禁止
スクールバスや路線バスを利用する際,児童生徒は最後部の座席に座ってはならないとされている.
⑩背中が開いた服装の禁止
水着や普段着を問わず,背中が大きく開いた衣服の着用は厳しく禁じられている.
⑪水玉模様の着用禁止
衣服や持ち物において水玉模様のものを身につけることが禁止されている.
⑫扉の開閉管理の徹底
学校内外を問わず,扉は開けたままにせず,常に閉めることが義務付けられている.
⑬校内特定箇所での鏡の設置禁止と持ち込み制限
学校の一部のトイレや特定の教室には鏡が設置されておらず,また児童生徒による学校への鏡の持ち込みも厳しく禁止されている.
3.1.2. 児童生徒の「名」と情報に関する規定(以下,情報規定と称す)
児童生徒の識別情報や口頭での伝達に関して,独自の制限や手順を課す校則群である.
①「呼び名」の義務化とその構成
小学校入学時、初日のクラス会において,児童全員が互いに本名とは関係のない「名字と名前」で構成された「あだ名」を付け合い,以降,学校内ではこの「あだ名」のみで呼び合うことが義務付けられている.転入生も初登校時に同様の儀式を行う.
②落とし物の焼却
町内で落とし物をした児童生徒は,原則としてそれを学校に持ち込み,学校内の焼却炉で焼き捨てることが義務づけれらている.
③落とし物をした際の特定文言口上
児童生徒は町内で落とし物をした際に「クテケワオヤㇷ゚アトゥイコㇿカムイオㇿワアコレㇷ゚ネ」あるいは「クテケワオヤプーアトーイコーカムイオラコレップネ」と特定の文言(呪文)を口で唱えることが義務付けられている.
3.1.3. 生物に対する特異な規定(以下,生物規定と称す)
学校が関与する生物の扱いに関して,一般的な教育課程では見られない,特異な行動を義務付ける校則群である.
①特定の動物の生体処理
学校で飼育するメダカなどの小動物は,飼育期間終了時に約2割の個体を校庭の中央に生きたまま埋めることが義務付けられている.埋葬時には,飼育を行った児童生徒が全員参加することが求められる.
②殺生時の身体処理の義務
人間を含む四足動物を誤って,あるいは意図せず殺してしまった場合,その遺体を最低20個のパーツに分けて町の中に均等に埋めることが義務付けられている.
3.1.4. 地域と学校の境界・管理に関する規定(以下,環境規定と称す)
学校と地域社会の接点,および児童生徒の集団的保護に関する,特異な管理・義務を伴う校則群である.
①校門前の水撒きと環境維持
児童生徒が当番制で,登下校時に校門の前に必ず水を撒くことが義務付けられている.校門前が乾燥している状態で登下校することや,海水で濡れている状態は厳しく禁じられる.
②盛り塩の禁止
一般的な慣習として知られる盛り塩は,鴉在町内で厳しく禁止されている.
③夏季サマースクールへの積極的参加
7月から8月にかけて実施されるサマースクールへの積極的な参加が求められ,不参加の場合には学業成績に影響が出ることが示唆される.
上記に挙げた校則群は、その不合理性や児童生徒への介入の度合いにおいて共通する特徴を持つ。次章以降では,これらの校則がどのように形成され,いかなる思想的背景を持つのか,そしてそれが児童生徒の生活にどのような影響を与えているのかについて,詳細な分析を進める.
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