第5話 異動先は日本?

 「再会を喜び合っているところ済まないが、話を進めたいのだがいいだろうか」


 ハリス准将は、二年ぶりの再会にはしゃぎ合っている二人に釘を刺すように言った。


「これは失礼しました。嬉しくなってしまって、つい」


「ハッ、失礼いたしました」


 二人はハリス准将に頭を下げると、席に着いた。




 ウォレス大佐はハリス准将の隣に、エイミーは二人の向かいに座ると、ハリス准将はエイミーに聞いた。


「クリス大尉、退役後の身の振り方は決まっているのかね」


「いえ、まだ何も。蓄えはありますので、ゆっくり考えようかと」


「そうか……。君の退役願いは受け取ってはいるが、受理はまだされてはいないのだ。実は君にやってもらいたい任務があってな。

 ここからのことはウォレス大佐に話してもらおう」


ハリス准将はウォレス大佐を見ると、大佐はうなずいて話を引き継いだ。


「あなたが星間王国に来る切っ掛けとなった事件のことは、覚えていることと思います。当時の報道によって、一時地球人ブームが起きたこともね。そのことによって、それまで秘匿され、接触制限が掛けられた地球について広く知れ渡ることになってしまいました。

 文明レベルや科学技術レベルの差から接触制限が掛かっていることは今も変わりはありません。そこで、宙族による人身売買や密貿易などのこれまでの事例から、地球に王国航宙軍の駐在所が置かれる事となりました。そこによって、地球外からの無許可の接触を警戒、監視しています。駐在所の所在は日本国の東京という都市に置かれることとなりました」



 ここまでウォレス大佐が話したところに、准将の秘書官から三人の前にお茶が置かれた。

 ウォレス大佐はお茶を一口含むと、話を続けた。


「さて、これから話すことは第一級機密事項となります。軍歴の長いあなたには今更でしょうが、録音録画厳禁はもちろん外部への漏洩を一切禁じます。もし漏洩が発覚した場合は軍法会議によって裁かれることになります。よろしいですね」


「はい、了解いたしました大佐」


 エイミーは、第一級機密なんて久しぶりだなぁ、どんな事が聞けるんだろうと、ちょっとわくわくしながら話の続きを待った。



「これは地球と言う存在が広く王国民に知られてからも秘匿されているのですが、地球との、いえ、これは日本との交流はと言った方が良いのでしょうが、およそ四百年前から始まっています。先々代の王弟殿下、こちらは現公爵家になっていますが、この御方の乗艦が公務の移動中に行方不明になると言う事件が起きました。

 テロによる乗艦の破壊と、宙族による襲撃との両面で捜査は行われましたが、捜査は進展がなく行方は掴めぬまま年月が経つことになってしまいました。


 王弟殿下の乗艦発見の切っ掛けとなったのは、王国領域の外れ、そこから先の星間領域では文明を持つ星系は望めないだろうという場所での宙族とみられる不審艦艇の拿捕からでした。

 拿捕された艦艇は、武装し超長距離輸送に特化した改造をされた中型輸送艦でした。積載された貨物は多くは有りませんでしたが、これまで確認されている星間文明とは違った文化形態を持った物が多く、星間法では接触制限が掛けられる文明レベルの惑星であろうと推察されました。


 そして、その不審艦艇の航行記録から、一隻の艦艇の救難信号の受信記録とその位置が残されていましたが、この艦艇はそのまま放置してその星系を離脱しています。

 そう、この救難信号を発していた艦艇こそ、これまで捜索が続けられていた王弟殿下の乗艦のものだったのです。

 急遽捜索艦隊が組まれ、判明した救難信号発信位置の星系へと出発することとなります。しかし、この時点で行方不明となってから五十年が経っていました。生存は期待されぬまま現地で捜索が行われます。


 現地捜索はあっけないほど早くに発見され、終了してしまいます。

 微弱ながらも救難信号が発し続けられていたことと、六百ヤルド(≠五百四十メ-トル)もの金属構造物など当時の地球には存在しなかったからです。

 さて、行方不明となった原因ですが、艦艇を修理調査したところワープエンジンのシステムユニットがハードウェアとソフトウェア両面で、ほぼ同時に不具合を起こしてランダムワープをエンジン限界まで繰り返した事と判明しました。

 これは明らかにテロ行為であると、捜査が行われましたが、長く時間が経っていた為か犯人解明には至っていません。


 艦艇は日本と呼ばれる列島国家の東北部の湖底に秘匿され、王弟殿下以下乗員はその湖畔に集落を築き現地民とも交流を深めていました。この時はすでに帰還は諦めていたのでしょうね。現地の権力者とも誼を深めて、王弟殿下自身もその地の有力者の一人になっていました。

 王弟殿下を含め乗員の多くが、発見時には現地民と婚姻し子をなしていたと言うことから、王家と王国政府は地球を特別保護領として、秘密裏に保護、監視していくことを決定しました。

 しかし、この時は王家と王国政府は、星間王国からの距離を考えると、他勢力からの接触は無いだろうという油断があり地球外への監視体制は厳重には行われませんでした。これが、後に地球人の数度にわたる大量拉致を引き起こしてしまいます。

 あなたも関係する、あの事件以降は地球には密かに衛星軌道上に、監視衛星が置かれ、地球内外を常時監視するシステムが置かれています。そして、それを管理するためと、日本に在住する王国民とその係累を保護するために日本に王国駐在所が設立されています」


 ウォレス大佐は、ティーカップを手に取ると一口お茶を含んだ。



「これまでのお話で、先程准将が仰っていた私にしてもらいたい任務というのは、その駐在所に行けということなのでしょうか?」


 エイミーは手にしたティーカップをテーブルに置くと、目の前に座る二人に聞いた。


「うむ、今地球には、病気療養と言うことで第三王女のエレナ殿下がいらしていてな。

 療養と言うのはもちろん表向きのことなのだ。ご本人曰く、百年休みなく公務を続けたのだから、今後五十年は遊ばせてもらってもいいだろうと仰っているのだよ。

 屋敷の中よりも外に出たがるお方でな、姫様付きの警護員の配置には女性駐在員がいないということもあって、苦労しているところなのだよ」


「では、その姫様の警護が私の主任務ということでしょうか?」


「いや、姫殿下の警護はその任務の一つと考えてもらいたい。君にやってもらいたいのは、東京に置かれている駐在所の最上位責任者として赴いてもらいたいということだ。今その任についている者が任期を満了して帰国を希望していてな、その後任の選考にも、地球と言うデリケートな問題もあることから苦慮していたのだよ。そこに君の退任願いだ。日本は君に縁のある地でもあるし、ぜひこの任を引き受けてもらいたい」


 准将の言葉を引き継ぐように、ウォレス大佐が言葉を続ける。


「駐在所所長の任と言ってもね、はっきり言わせてもらうと部下の管理以外の仕事の無い閑職と言っていいものなのよ。退任を希望していたあなたに、里帰りしてもらってのんびりしてもらいたい、というのが私の本音でもあります。

 姫殿下の警護は外出時のみのことですから、常時付いていてと言う事ではなく依頼があった時のみとなります。

 任期は三年、地球時間では四年になります。希望すれば延長も可能です。

 あなたに了承してもらった場合、あなたの階級は少佐として赴任してもらうことになります。これは小さな駐在所であっても航宙軍内においては地方駐屯地と同等の扱いになるために、その最高責任者には佐官が必要になるためです。

 

 どうかしら? あなたにとっては悪い条件では無いと思うわ。ただ、申し訳ないのだけれども答えはこの場でもらいたいのよ」



 六十年ぶりの日本か……、ちょっと興味はあるかな。エイミーは考えた。それに少佐の階級は、任期を全うすれば退役後の恩給は今よりずっと多くなる。姫様の護衛はちょっと面倒だけれども、アスティの言う通り悪い条件では無い。ただ、答えを急ぐのはちょっと気になるが。


「わかりました。その任務お受けいたします。それで、任地への出発はいつごろになるのでしょうか?」


「そうか、受けてくれるか。感謝するクリス大尉いやクリス少佐。地球での姫殿下が早急な女性護衛官をお望みでな、すこぶる御機嫌が悪いとのことなのだよ」


 ハリス准将は立ち上がり、エイミーに握手を求めた。エイミーはそれに応えるように立ち上がり握手をする。


「それで、出発は……」


「うむ、出発は明日の1600時の出発となる。諸々の手続きは全てこちらでやっておくので、明日の朝一番にこちらにもう一度寄って欲しい」


「えっ……、ちょっ……、明日っていくら何でも……」


「急なことで少佐には申し訳ないとは思っている。本来は次の三か月後の地球への定期便を考えていたのだよ。しかし地球の姫殿下の方が早急な対応をしろとせかしてきてな、こうせざるおえなかったのだよ」


「はぁ、まあ、こういうことは作戦行動には、ままある事なので慣れてはいますが……」


「急な話でごめんなさいねエイミー。細かい話はこの後にお昼でも食べながら私からさせてもらうわ」


 ウォレス大佐も立ち上がるとエイミーに言った。


「では、よろしく頼むウォレス大佐。クリス少佐は明日ここで」


 准将は二人に言った。


「はっ、失礼いたします」


 エイミーは准将に敬礼をする。


「それでは、私も失礼いたします。行きましょうかエイミー」


 ウォレス大佐も准将に敬礼をすると、エイミーを促しオフィスを出た。


「ひどいよアスティー、久しぶりに会えたっていうのに」


 オフィスを出た廊下から、二人で食事が始まるまでエイミーの愚痴は止まらなかった。

 


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