第3話 難民から市民への手段

「事件のあらましはこんなところです。

 ここからは、あなたのこれからのお話をしましょうか。

 あなたは王国政府によって難民認定されました。これによってあなたが正規の職業に就くまで必要な学習支援と職業訓練が与えられます。そして最低賃金規定に従った一定の金額が、毎月支給されることになります。この病院を退院した後に難民居住区に移動してもらって、そこで生活してもらうことになります。

 ただし、難民でいる間は行動に制限が掛けられます。居住区以外への移動が一切できません。このお話の詳しい所は、この後にくる難民管理局の担当官が説明してくれると思います」


「難民でいる間はってことは、難民で無くなる方法はあるってことですね」


 エイミーは、その言葉に食いつくようにウォレス中尉に聞いた。


「その通りありますよ」


ウォレス中尉はよく気が付いたとばかりに、にっこりと笑うと話を続けた。


「その方法は王国市民権を得るということです。そのために必要なことは、一定期間以上の国に対する労務を負うこと。それと定められた水準以上の教育を受けていることが必要条件になっています。その条件を満たすことによって、下級、中級、上級と段階的に市民権が与えられていきます。その段階によって、受けられる市民サービスの質や負担税率の軽減、移動制限の緩和などの恩恵が受けられるようになります」


「それは難民居住区でも受けられる物なんですか? それに支給されるお金で、ある程度の高等教育を受けるだけの資金に足りるのでしょうか?」


「難民居住区にいるうちは無理でしょうね」


「じゃあ、どうしたら・・・」


 話を聞いていくにしたがって、エイミーの気持ちは落ち込んでいく。


「一番の早道は、軍役を受けることでしょうね。あなたは、今回の事件によって戦闘用身体強化処置を受けています。それに兵士の規格に合わせた体格調整処置もね。あなたにとっては、自分の意にそわない勝手にされた身体改造でしょうが、この件に対しては逆に有利になると思いますよ。まだしばらくは体の治療のために病院にいることでしょうから、その間に考えておくといいでしょう」


「分かりました、よく考えておきます。それと、これは話を聞いた当初から疑問に思っていたことなんですけど、身体強化処置を受けるとは今までの体とはどう違うんでしょうか?」


 エイミーは当初から思っていた疑問を口にした。


「ああ、そこからですか。そうですよね、地球にはまだ無い技術ですものね。身体強化処置は王国人であれば、ほとんどの人間が成人前の十三歳から十五歳のうちに処置を受けます。中にはナチュラリストと呼ばれてあえて受けない人などもいますが。処置を受けることで、遺伝子疾患を除くほとんどの病気を克服したと言われています。そのことで、人の寿命も処置を受けていない人が百歳から百五十歳に対して三百歳から五百歳へと大幅に伸びることになりました。

 それから戦闘用処置ですがお見せした方が早いですね。私も受けていますので」


 ウォレス中尉は自分の制服の腕をまくり肌を出すと、腰に付けたポシェットから出した折り畳みナイフを開いて刃を出しエイミーに見せると、その刃を自らの腕に当て強く切りつけた。


 エイミーは思わず「あっ!」と声を出してしまったが、その腕を見ると傷は一切付いていなかった。


「このように戦闘用処置は実体弾までは防ぐことができます。戦場に出るときは光学兵器用にさらにコーティング処理などをしますけどね。今のあなたの体もこれと同じだと考えてください」


「びっくりしました。これと同じ処置が私にもされているんですか・・・。それに寿命が三百年とか、日本に戻れることになっても色々と問題がありそうですよねぇ」


 エイミーは自分の腕の皮膚を抓ったり引っ搔いたりしている。


「日本に戻りたいですか? いえ、戻りたいですよね」


「うーん、どうでしょう? 私には両親はすでにいませんし、身内と言える人もいませんので、帰っても状況的にはこちらにいるのとさほど変わらないような気がしますけど。いえ、むしろこちらで国にある程度保護されて色々学ばせてもらった方がいいように思うんです。それに、寿命がだいたい六十歳ぐらいの日本に三百歳まで生きる人間が帰っても、問題起きまくると思うんです」


「そうですか。それに寿命の問題ですか。いえ、これはまだ決定した話ではないのですが難民をそれぞれの母星に帰還させようかと言う話もあるのです。

 日本の寿命は六十歳ですか・・・。

 宙族から押収した記録から、あなたがたが拉致されてから発見保護されるまでの期間はおおよそですが三十年と見られています。我々の時間の感覚と地球での時間感覚ではかなりの差がありそうですね。帰還させても世代が変わっていることもありますか・・・。これは上の方に提言しておかなければいけませんね」


ウォレス中尉は考え込むように黙ってしまった。


「三十年も経ってるんですか、これはまさに浦島太郎状態だわ。浦島さんとは違って寿命は逆に伸びたのは幸運だったけど。これは、なおさら帰ることを考えるよりもこちらにいた方がよさそうですね」


 地球での時間の経過の話を聞いたことで、エイミーの気持ちはほぼ決まったと言ってよかった。


「ウォレス中尉、お話を色々聞かせて頂いてありがとうございます。おかげでこれからの身の振り方の目途がたちました。まずは市民権取得を目指してみようと思います」


「それは、軍役を受けると言うことでいいの」


「はい、それが一番の近道なのかなって思うんです。これはこの後にくる難民管理局の人に話を通してもらった方がいいんですか?」


「いえ、本当にその気があるのなら私が推薦人として募兵局に紹介してあげるわ。難民管理局には、あなたの意志を伝えてもらえばいいです。その時に私の名前を出してもらってもかまいませんよ。これを渡しておくので担当官に見せてあげて。それに、入隊時に必要になる身体データを取っておくように病院には言っておきます」


 ウォレス中尉はアドレスカード名刺をエイミーに渡しながら言った。


「有難うございます、ウォレス中尉。私、お金もない、着る物もない身一つですけど大丈夫なんでしょうか?」


「心配いらないわ、エイミー。衣食住に関しては軍が全て面倒を見てくれます。お金も難民管理局から支給金が出るはずです。退院の日付が決まった時にそのカードにある私の連絡先に連絡を下さい。入隊手続きには私も付き添うわ」


ウォレス中尉はエイミーの手を取り、安心させるように両手で包み込むと優しい口調で言った。



 この時より、エイミー・クリスとアストリット・ウォレス中尉は連絡を取り合うようになり、よき友としてこの後も長く付き合うこととなる。


 


 

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