男女逆転の女性上位異世界に転生した俺が、何となく考えていることがわかる能力で成り上がっていく

bibi

第1話 新たな目覚め 女が支配する異世界

ファルクは、産声と共に絶望を味わった。肉体の外の世界とつながるその瞬間に彼の魂に直接響いたのは、彼をこの世に迎えた者たちの心の声だった。


「男の子…」

取り上げた助産師の声には、落胆の色が濃厚に滲んでいた。その心の声は、はっきりとファルクに届く。

(ああ、また男の子か。この家も、魔女が少ないのに…)


部屋に満ちた空気が、鉛のように重くなるのを幼いながらに感じ取った。この世界では、女だけが魔法を使え、社会のあらゆる階層で女が男に優位に立つ。

男は劣等な存在として扱われ、女の庇護のもとで生きることを強いられるのだ。


ルーア男爵家の次男として生まれたファルクとて例外ではない。3人の姉たちは皆、優秀な魔女として将来を嘱望されており、ファルクは彼女たちの陰で、常に肩身の狭い思いをして生きていく運命なのだと、生まれたばかりのファルクは直感的に悟った。


ファルクの頭上を覗き込む母の顔は、世間体を取り繕う微笑みを浮かべているが、その心の声は別の感情を語る。

(せめて、あと一人くらい、魔力のある子が欲しかったわ。男の子は、可愛らしいけれど…)

その声には深い諦めと、ほんの少しの憐れみが混じっていた。


ファルクは、その心の声を理解できる自分自身に、言いようのない孤独を感じた。この世界に転生したことで得たこの能力は、祝福というよりもむしろ呪いのように思えた。


乳母がファルクを抱き上げ、優しい歌を口ずさむ。その腕は温かく、心地よかった。

しかし、その心の声は乳母の優しさに反して、この世界の冷徹な現実をファルクに突きつける。

(この子は魔力がないのよ。本当に可哀想な子。こんなに可愛らしいのに、将来は姉君たちに頼るしかないのだから…)


ファルクは、乳母の腕の中で身じろぎもせず、ただひたすらに周囲の心の声に耳を傾けた。それは、赤子の彼にとってこの世界を知る唯一の手段だった。

そして、彼が知ったのは、男として生まれた自分が、この世界ではどれほど価値の低い存在として見られているか、という現実だった。


ファルクを見舞いに訪れるたびに、同じような心の声がファルクの耳に届く。彼らは皆、表向きはファルクの誕生を祝い、愛らしい赤子だと褒め称える。


しかし、その心の内では、ルーア男爵家の未来を案じ、魔力を持たない男児の誕生を密かに嘆いているのだ。

(男の子なんて、どうせ姉君たちの足手まといになるだけだわ。ルーア男爵家も、これでは先細りね)

(魔力がないなら、せめて賢く育ってくれればいいけれど…どうせ無駄だろうな)


ファルクは、これらの心の声を聞き続ける中で、自分がこの世界で生き抜くための術を、本能的に理解していった。

それは、感情を表に出さず、目立たず、周囲の期待通り「地味で目立たない男の子」を演じることだ。そうすることでしか、彼はこの冷たい世界で、ささやかながらも平穏を保つことはできないだろうと、生まれたばかりの彼は悟った。


ファルクが持つ「何となく心を読む能力」は、彼にとって常に諸刃の剣だった。

それは、頭の中で誰かの声が再生されるような、明確な読心術とは少し違う。むしろ、周囲の感情が、まるで風に揺れる木々の葉擦れのような「ざわめき」となって、彼の意識に流れ込んでくるようなものだった。


特に言葉の裏に隠された本音や、相手の感情の機微を強く感じ取る。

たとえば、表面上は笑顔で「可愛いわね」と言いながら、心の声が「魔力のない男の子なんて」と囁くとき、その矛盾がファルクの胸をえぐった。その瞬間、彼の心には言葉とは異なる、冷たい波のような感情が押し寄せるのだ。


この能力は、彼が意識的にオンオフを切り替えたり、特定の人物の声だけを選んで聞いたりすることはできない。常に彼を取り巻く環境から、無数の心のざわめきが流れ込んでくる。特に人々で賑わう場所では、そのざわめきは騒音となり、ファルクを疲弊させた。まるで、すべての感情が混ざり合った混沌の中にいるような感覚だ。


女尊男卑の世界で生まれ育ったファルクにとって、この能力は時に「呪い」でしかなかった。女性たちが彼に投げかける憐憫や軽蔑、そして隠された嘲笑の心の声は、幼い頃から彼の心を深く傷つけてきた。

それがファルクが感情を表に出さず、目立たぬよう生きる術を身につける大きな要因となったのだ。周囲の期待通り、地味で目立たない存在を演じることで、彼は心の傷が深くならないように自身を守ってきた。


しかし、この能力は彼が生き抜くための「直感」として、また、彼がこの異質な世界で新たな道を見つけるための「鍵」となる可能性も秘めている。ファルクの人生は、この「何となく心を読む能力」によって、どのように彩られていくのだろうか。


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