第15話 釣りをしよう
「どうしよう、本当に釣ることになっちゃったよ」
私は今一人だった。
金狐ちゃんと銀狐ちゃんの胸に火を点けちゃった。
そのせいかな? 私一人じゃ帰れないのに、二人は走って何処かに行っちゃった。
『大丈夫だよ、結葉』
「そうだといいんだけどね」
これから釣ろうとしているのは正直見たこともない魚。
私、釣り番組のロケには参加したことないんだよね。
だけど芸能界の友達が、釣りロケは大変だって言ってた。
上手く釣れるのかな? 楽しみたい気持ちがあるけれど、不安な気持ちもあった。
「って言っても仕方ないよね。楽しもう!」
何だかこの世界にいると、気持ちがドンドンブルーになる。
ううん、ちょっと違うのかも。
霧が掛かったみたいに、自分が分からなくなりそうで怖かった。
「お姉ちゃん、お待たせ!」
「釣竿を持ってきましたよ!」
そんな中、金狐ちゃんと銀狐ちゃんの声が聞こえた。
二人共戻って来てくれたみたいでホッとする。
だけどその肩に担いであった物には、全然ホッとできない。
「二人共ありがとう」
金狐ちゃんと銀狐ちゃんの頭を撫でた。
今度は撫でさせてくれるんだ。それじゃあ尻尾も……とは行かない。
パチンと弾かれると、代わりに釣竿を渡される。
「お姉ちゃん、はいコレ」
「釣竿です。使ってください」
二人に手渡されたのは例の釣竿。
ぎこちない表情を浮かべつつ、私は震えた指で受け取る。
「ありがとう……って言いたいけど、これが釣竿?」
「「はい」」
「えっと、本当に?」
疑うのも無理はないよ。だって見たこともない釣竿なんだから。
それこそ、ガチの最新釣竿じゃないのは承知してた。
きっと世界観に合わせて竹竿を持って来てくれる。そう思っていたんだけど、ちょっと違う。いや、竹製ではあると思うんだけど、糸と針がとにかく太くて怖い。
「コレ、本当に使うの?」
「そうだよ、お姉ちゃん」
「こんなに分厚い糸と針を使うんだよ?」
「そうです、お姉さん。寧ろこれだけの道具を用意しないと釣れません」
そんなにヤバい魚を釣ろうとしているの?
自分で言っておきながら、凄く怖くなって来た。
「そんなに凶暴なの?」
「凶暴だよ。後、凄く大きいんだ」
「最悪食べられてしまうかもしれないです」
「食べられる!?」
嘘でしょ? 全然そんなに大きくは見えないんだけど。
もしかして私の目がおかしいのかな?
改めて水の中を凝視したけど、やっぱり大きくは無いよね?
「とりあえず釣ってみよう」
「そう、釣ってみたらいいです」
「えっ、ちょっと、二人共!?」
金狐ちゃんと銀狐ちゃんは背中を押した。
釣竿を投げないとダメなの? 餌も付いてないのに釣れるの?
絶対無理だよ。魚だってバカじゃない、賢いんだから。
「「ほら、せーのっ!」」
「えっ、せーのっ!」
初めてのフィッシングが霧の世界になるなんて。
しかも普通じゃない凶暴な魚を相手にするんだ。
本当に釣れるのかな? 私は半信半疑になる。
「これ、本当に釣れるのかな?
『分からないけど、釣れたら面白いよね』
「うん。でも餌も付いてないんだよ?」
『……あっ、来るよ結葉』
「えっ、来るって……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然釣竿が重たくなった。
何かが針に掛かったみたいで、糸が一気に水の底へと引っ張られる。
腕が抜けそう。体が水の中に連れて行かれそうになると、靴が滑って体が前傾になった。
「「お姉ちゃん!」さん!」
「うっ、お、お腹が、い、痛い」
池に引き摺り込まれそうになった私。
金狐ちゃんと銀狐ちゃんは助けようとしてくれる。
だけど小さな体じゃ限界があって、池の中にジリジリと飲み込まれ掛けた。
『結葉!
「ぶ、武器? そっか、スワンガンマイク!」
咄嗟になってスワンがアドバイスしてくれる。
こんな時、変身すれば早いけど、カートリッジを取り出せない。
それならせめて武器だけでも。スワンガンマイクを喚び出した。
(ぶはっ……って言っても、水中でどうすればいいの?)
池の中に引き摺り込まれた私達。
金狐ちゃんと銀狐ちゃんは目を瞑っていて、藻掻くだけで精一杯。
耳も尻尾もシナシナになっちゃって、まともに戦えるのは私だけだ。
(って言っても、戦う必要ってあるのかな?)
魚は普通に泳いでいるだけ。
気泡を食べて呼吸しているみたいだけど、つまり私達には意味がない筈だ。
(きっとないよね? 大丈夫だよね?)
『油断しないで、結葉』
(スワン? 油断しないでって……うわぁ!)
咄嗟に口を開いちゃった。
口の中に水が入って来る。
だけどそんなの如何だっていい。私が安全だと思っていたものは、一気に崩壊した。
『ほら、襲って来たよ』
(ほらじゃないって、ああどうしよう!)
色とりどりの魚達が一斉に襲い掛かって来た。
しかも口を開いて、鋭い牙を見せつける。
あんなのに噛み付かれたらひとたまりもないよ。
私が咄嗟にスワンガンマイクを構えることになると、まさかの本当に戦うことになっちゃった。
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