第13話 仲良くなれた!

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「お姉さん、大丈夫ですか?」

「うん、平気だよ。よっと」


 木の上から真っ逆さまに落ちた私。

 だけど不思議な力に助けられたみたいで、怪我はしてない。

 心配そうに顔を近付ける金狐ちゃんと銀狐ちゃんに見守られながら、スッと立ち上がった。


「ねっ、心配いらないでしょ?」

「「お姉ちゃん、凄いね」お姉さん、凄いね」

「えへへ、どうして褒めるの?」


 分からないけれど、何故か褒められた。

 つい照れてしまうと、二人は私の後ろを見ていた。


「「だって、みんながお姉ちゃんに懐いてるから」お姉さんに懐いているからです」

「えっ、それって……」


 私は恐る恐る振り返った。

 分かってはいるけれど、分かってはいるんだけどね、そうハッキリ言われると怖い。

 ユックリ背後を確認したけど、やっぱり何も無い。


「私には見えないよね」

『でも感じるよ』

「電磁波だよね、スワン。ん、ありがとうみんな」


 見えないけれど、最大限感謝した。

 助けて貰ってなかったら、今頃死んでいたよね。

 この訳の分からない世界で命を落したら、きっとみんなに迷惑が掛かっちゃう。


「でもお姉ちゃんのおかげで、大切なお姉様の下着が無事でよかったぁ」

「本当、お姉さんのおかげです。一時はどうなることかと思いました」

「あはは、喜んで貰えてなによりだけど……」


 まさか下着一枚でこんなに感謝されるなんて。

 正直腑には落ちないけれど、珠狐さんって、この世界の人達にとっては凄く重要で偉い人なんだ。それもそうだよね、だって“様”付けだもんね。私、失礼なことしちゃってるかな?


「ねぇ金狐ちゃん、銀狐ちゃん」

「「はい?」」

「珠狐さんって、どんな人? 凄い送り狐なのは分かったけど、やっぱり凄い人なの?」


 うーん、人なのか狐なのか、自分で言っておいて区別が付けられないよ。

 だって私は狐の姿って言うより人の姿しか知らないもん。

 表情が鈍る中、金狐ちゃんと銀狐ちゃんはパッと表情を明るくした。


「もちろんだよ、お姉ちゃん。お姉様は凄く偉いんだよ!」

「この世界の要そのもの。この世界の皆が、お姉様を尊敬しています」

「ふ、二人共テンション高いね。もしかして、推しみたいな感じかな?」


 ちょっとだけニュアンスをマイルドにしてみた。

 だって金狐ちゃんと銀狐ちゃんの目がキラキラしてる。

 推しを目の前にしたファンの人達みたいで、キラキラして生き甲斐を感じた。


 こんな言い方失礼かもしれない。

 だけどハッキリ言わせて欲しい。凄く元気貰える。

 目の前の全てが視線を向けて、たった一つのものに虜になっちゃう。

 そんな景色を私は知っているからこそ、珠狐さんの凄みが伝わる。


「二人にとって、珠狐さんは凄くカッコよくて眩しい存在なんだね」

「「はい!」」

「あはは、元気がいいね。いいことだよ。きっと珠狐さんも嬉しいと思うよ」


 誰かに応援されるって凄く嬉しいこと。

 だから応援される側も応えようと頑張れる。

 本当にいい関係で、私は誰よりも何よりも理解できた。


「だけどお姉ちゃんもカッコよかったよ」

「えっ、私も?」

「はい。私達の代わりに、お姉様のお召し物を取って来てくれたこと、本当にカッコよかったです」


 金狐ちゃんと銀狐ちゃんはそう言ってくれた。

 私の顔をジッと見ると、目がキラリと光る。


「えへへ、ありがとう。でも私は大したことしてないよ?」

「そんなことないです」

「銀狐ちゃん?」


 予想の斜め上だった。

 まさか銀狐ちゃんが否定してくれるなんて想像もしてない。


「お姉さんの行動は私達のためにしてくれた行動です。ありがとうございました」

「銀狐ちゃん……」


 銀狐ちゃんがこんなに私を褒めてくれるなんて。

 正直意外だったけど、凄く嬉しい。

 クールでサッパリしているから接し方が難しかったけど、何だか胸がポカポカする。


「珍しいね、銀狐が懐くなんて」

「金狐、私達が人間に会うのは初めてだよ」

「それもそっか。でもお姉ちゃんは銀狐に気に入られたんだね。……あっ、そうだ!」

「どうしたの、金狐ちゃん?」


 銀狐ちゃんの顔色を見た金狐ちゃん。

 何か思い付いたみたいで、ポンと手を叩いた。


「お姉ちゃん、いい所に連れて行ってあげるよ」

「いい所?」

「そうだよ。この先に、凄く綺麗な池があるんだ。一緒に行ってみようよ!」


 金狐ちゃんが私の服の袖を掴んだ。

 軽く引っ張ると、私を連れて行こうとする。

 うーん、行ってみたいかも? でも、大丈夫なのかな?


「私も行きたい……けど、行ってもいいのかな?」

「心配しないでいいよ、お姉さん」

「銀狐ちゃん?」

「私達がいれば迷いません」


 そう言えば、珠狐さんも言っていた。

 二人がいれば迷わないから大丈夫だって。

 私は二人を信じることにして、ギュッと手を掴んだ。


「じゃあ行ってみたいな。お願いできるかな?」

「「はい」」


 私は二人に連れられ、池に行ってみることにした。

 何だか少しだけ仲良くなれた気がする。ほんとう、そんな気がする。

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