いじめ抜かれた男が、ある日地球の救世主となる話し。

久遠 れんり

第1話 転校生と生活の変化

「えーと、こんな時期ですが、転校生です。皆さん仲良くするように」

 そう言った先生。担任板井 浩幸いたい ひろゆきの顔は、かなり引きつっていた。


 今ここは、高校二年生のクラス。


 そこに立っているのは、制服を着たコスプレのような人達。

 男二人と女の人が一人。


「田中君と、佐藤君。それと鈴木君だね。指定されたようにしてあるから、席についてください」

「「「はい」」」

「ご配慮をいただきまして、ありがとうございます」

 そう言って、彼等はびしっと敬礼を行う。

 夏前なのにジャケットを着て妙に左胸が膨らんでいたり、鈴木さんは背中側が膨らんでいる。


 その後彼等は、今朝になって突然席替えがされ、俺は教室の後ろ側中央に座っている。周りを囲むように不自然に空いた席へ彼等は座る。


 女性の鈴木さんが俺の前の席。

 左右の席には、田中君と、佐藤君が僕に対して、少し背を向けるように座る。そうベランダと廊下を気にしながら。

 当然だが、教室のざわざわは収まらない。




 ―― 話は、昨日の晩へと遡る。

 俺は大木 晩生おおき かげお

 親が大器晩成を意図して付けた名前らしい。


「夜分に失礼します。我々は厚労省の者。そしてこちらが、警視庁の警備部警護課に所属する者達でこれから、大木 晩生君をお守りします」

田中 孝一たなか こういちです。よろしくお願いいたします」

男の人二人は、一八〇センチ以上ありがっしりタイプ。


田中 孝一たなか こういちさんは二十八歳。短髪。

佐藤 浩二さとう こうじさんは二十六歳で、ツーブロックで真ん中ちょい右くらいで髪を分けている。 奥さんと子どもさんが居るらしい。


 ぱっと見で、佐藤さんの方が少し細面で、優しそうな感じがする。

 田中さんは、立派な顎でこめかみにボルトがついていれば、まんまフランケンシュタインだ。


 そして、鈴木 蜜子すずき みつこさん。二十八歳。自称十六歳。童顔。どちらかと言えば、年よりも若く見えて、かわいい系? スポーツは得意だそうでショートヘア。

 身長一六五センチだそうだ。

 他のデータは、「気になるのであればお答えしますが、必要ですか?」と聞かれて、「いえ結構です」と思わず答えてしまった。

 そう、達人の気合い。

 彼等は剣道や合気道の黒帯。それも三段以上であるそうだ。



 それでまあ、厚労省 上杉 修一うえすぎ しゅういちさんから説明を受ける事になる。


「非常に遅くなり、申し訳がありませんでした」

 そう言ってあやまる上杉さん。




 世界中で静かに広がった病気。

 感染方法や何時からそれが広がったのか分からない。だが発症は今、全世界でそれは起こっている事が認められている。

 脊椎動物門哺乳網霊長目ヒト科ヒト属ホモサピエンス突然死症候群。なぜか突然、全身のイオンチャネルが不全を起こすとされている。意識の消失や心停止が発生。その個体は死亡する。


 その病気は、何の症状も出ずに潜伏をして、発病すれば即死状態。

 それは、乗数的に発症者を増やしていると類推されている。そして、危険であるためそれに対するバックアップが必須であり、気がついたときにはインフラが維持できなくなっていく。


 そう交通機関は、運転手がいれば発症して、致命的な事故を起こす。

 それは何時から始まったのか分からない。だが死亡者数の違和感から研究が始まり、未知のウィルスが発見された。そこから三年。急ぎ自動運転が許可されて何とかなっているのだが、今や、流通は停滞気味で、世界は危機を迎えている。


 そんな中で、色々な薬剤がテストされていくが、思ったような結果がでない。


 そして彼等は、人の可能性に望みをかける。

 そうそれは、以外と古くからある、技法。

 試される膨大な検体。


 血液製剤。そう血清療法だ。

 北里柴三郎先生が一九八九年に、破傷風菌の純粋培養に成功し、翌年には破傷風の血清療法を開発したのが有名だ。


 現在では、細菌やウィルス等の感染症を予防や治療する目的で、人の血液から取り出された抗体。免疫グロブリンが医薬品として使用されている。


 世界中で、秘密裏に、それと知らせずに血液サンプルが集められて検査されていた。だが、予算の兼ね合いで、新薬開発が優先されたため、昨今では後回しとなっていた。初期に大量のテストがなされたのだが、良い結果が出なかったためだ。

 今は世界的混乱が起こり始めたため、症候群の存在が公示されたのだが、その頃は秘匿されていた。


 そう情報が広まると、各国で終末信者があふれて、自暴自棄になった人による暴動が起こる。

 日本と後いくつかの国以外では、かなり悲惨な状態である……


 そんな中で、ある検体が奇跡を起こす。

 J―K―JHS―六六六。

 日本の中校生。関西エリア。

 検体ナンバー六百六十六番。

 無論彼は、血液採取時に貼付ちょうふシールを見られて、悪魔だと虐められた。


 そう彼は、引っ込み思案で要領が悪く、工作物や絵に対して製品クオリティを求めた。さらに賢く、おとなしかったために標的とされた。

 少しあれだが、実は天才といえる彼。幾人かの著名人が告白をしているように、小学校三年生で世の中に対してすでに絶望をしていた。小学生の頃から虐められて教師などに救いを求めても、お前の方に非があるのじゃないかと言われた。

 無論いじめっ子達の言い訳による物だ。

 だがそれを幾度か繰り返されて、信用してくれない大人に彼は絶望をした。

 そう、大人などに救いを求めても、そこには絶望が広がるだけ。

 実際、助けを求める度に虐めはひどくなっていった。そう誰も助けてなどくれない。この世界には救いがないことを理解した。


 日常的に虐められて、小さな打撲や裂傷。足の指などの骨折。

 奇妙な物を食わされたりしたが、彼は健康体だった。

 そう神から与えられたような、人の究極体だった。


 サンプルは集められて極秘にテストされていたのだが、スタッフも少なく、効果の発見まで三年かかってしまった。


 だが優先的に予算を回しても思ったように薬ができず、絶望していたところに降って湧いた朗報。

 しかしこれがバレれば、拉致などと言う物騒な心配がある。

 そのため、急遽決定されたのが、なるべく若い者を送り込み、彼の生活をあまり壊さずに警護すると決まった。


 彼は、丁度国の保護プログラムが始まった頃から、急激に身長を伸ばして、チビデブから脱出。当然、金銭的な保護も開始されて、文字通り世界から重要視される人物となっていく。


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