第九章:金銀の意味

桃太郎は、小鬼の後を追い、岩陰からそっと覗いていました。


小鬼は山のふもとに倒れ、

すでに冷たくなった鬼の長老であった温羅の口に、

金銀のかけらを押し込んでいました。


「父さん、命の源だよ……食べて……お願い……」


父鬼が金銀を口に出来ないとみると、

小鬼は頬や肩を何度も叩き、ゆすり、

その冷たくなった大きな鬼を何とか生き返らせようとしていました。


桃太郎は胸が締めつけられました。


桃太郎にとって、戦った鬼たちは、ただの「悪しき存在」でした。

ですが、桃太郎の目に映る小鬼の姿は、「悪」とは到底思えない、

ただひとつの命の姿でした。


桃太郎はそっと小鬼に近づいて行きました。


桃太郎に気付いた小鬼は顔を上げ、涙を流しながら桃太郎に問いました。

「なんで……なんで父さん達を殺したの?」


桃太郎はしばらく沈黙した後、答えました。

「鬼が人間を襲うからだ」


「違う!僕たちの島にいきなり来て、僕たちを襲ったのは人間達じゃないかっ!」


小鬼は泣きながら大声で叫ぶように答えました。


「父さん達は人間達に何度も話を聞いてくれ!って言ってた!

 でも、人間達は何も聞いてくれずに、

 僕たちを襲うばかりだったじゃないかっ!」


「……でも、鬼たちは金銀を独り占めしていたんだろう?

 金銀があれば、人間の村は豊かになり、みんなが幸せになれるんだよ……」


桃太郎はそう言いながらも、自分の言葉に違和感を覚えていました。

本当に、これが正しかったのだろうか?と。


小鬼は涙をこぼしながら、金銀のかけらを握りしめ、答えました。

「これは……僕たちの命の源なんだ。

 僕たちはこれがないと生きていけない。

 なのに、なんで人間は奪おうとするの?」


桃太郎は言葉を失いました。


金銀は、鬼たちにとって食料と同じ

——いや、それ以上に、生きるために不可欠なものだと知り、驚愕しました。


金銀を奪うということは、鬼たちの命を奪うことと同じ事だと知ったのです。


「……じゃあ、俺たちは……俺は……間違っていたのか……?」

桃太郎は立ち尽くしてしまいました。


小鬼は、冷たくなった父鬼の手を握りしめ、震える声で呟きました。

「人間が怖いよ…話しも聞かずに…いつも殺しに来る…」

その言葉は、桃太郎の心を鋭く突き刺しました。


鬼が悪で、人間が正義——

それは本当に、ただの思い込みだったのではないか?



カンカンと甲高い音が響き、

村人たちの歓声が遠くから聞こえてきました。

山頂で、村人達が金銀を掘り始めたのでしょう。



桃太郎は、拳を握りしめたまま、

悲しみに打ちひしがれる小鬼の横で、ただ立ち尽くしていました。




続く~第十章へ~



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