何だかんだで店長として上手くやってます


「今日もご苦労様。ユウタ」


「旦那様こそお疲れ様です」

 今日の営業が終わり俺を労ってくれたのは、村を滅ぼされて全てを失った俺をこのお店で雇ってくれた大恩人であり、この店含むこの町の主要なお店の1割を管理している優れた商売人。トマソン様だ。

 正直、俺はトマソン様に頭が上がらないくらい世話になっている。

 12歳、一応成人しているとはいえまだ成長しきっていない俺を同情的もあっただろうが正式な形で雇ってくれて、俺の能力を正当に評価し十分な給与も支払ってくれた。

 この世界では珍しい善性の強いお人であり、俺の滅んだ村含む様々な村に必要な生活物資を売りに来てくれていた。たいした利益にもならないだろうに感謝しかない。

 トマソン様がいなかったら俺の人生はもっとハードモードだったと思うし割と治安が終わってるこの世界だ。下手をせずとも野垂死にしていたと思う。


「今日もよく働いてくれたね。売上高は前年度の倍か。あれから1年・・・。同情心もあったが今なら断言できるあの時、お前を雇ったのは正しい判断だったよ」


「これも全て旦那様が私を店長にしてくださり権限をくださったからですよ」


「ハハハ。そうだな。能力のある者には相応の地位と対価を用意するのは当たり前の話だ。なあ、ユウタよ。しばらく私の世間話に付き合ってはくれぬか」


「もちろんです。旦那様」


「実は私にはな、一つ。夢があるんだ」


「夢ですか」

 

「ああ。そうだ。夢だ。誰もが飢えることも誰もが生まれで苦しめられることもなく、皆が平等で平和と娯楽を享受できるそんな世界にしたいという夢があったのだ」

 初めて聞いた。

 割と殺伐とした部分もあるこの異世界。それは夢物語に近いというのは今の私でも嫌でも理解出来た。

 それでも前世の日本の知識がある俺はそんな世界が100%不可能でもなく、ありえると思えた。日本がそういう国かと問われれば・・・だが、この修羅の異世界と比べたら100億倍優れている。


「驚いた。ユウタはそんなの無理だって顔をしないのだな」


「難しいかもですけど、100%無理とは思ってませんし、もしかしたらそんな世界があるかもしれないかなって思いまして」


「そうか。そうか・・・。とはいえ、私はこの夢を諦めた。こんなちっぽけな商会一つで変えられる程世界は甘くないと嫌という程理解はしておるかな。町の中はマシだが、外に出れば盗賊や兵士崩れが溢れ、簡単に全てを奪われる。

 何かを生み出せば利権を持った貴族に無理やり奪われる。

 何か事を成そうとすれば反乱を恐れる王族によって一瞬で処刑台の上だ。

 この世界は悲しい程に残酷だ」


「それは・・・そうですね」

 盗賊によって村を滅ぼされて天涯孤独になったのが俺だ。それは嫌という程理解していた。


「私はもう47歳と結構な年だ。妻は病で先立たれ息子は一人おるがどうしようもない馬鹿息子で10年以上昔に冒険者になると吠えてな、反対する私と妻の声も聞かずに家を旅立ち、行方不明だ」

 初めてトマソン様の口から家族の事を聞いた。

 息子さんのこと奥さんのこと噂には聞いていたけど本当だったのか。


「私の息子が旅立った時はちょうどユウタと同じ12歳の成人したての年だった。どこか息子とユウタを重ねていたのはあったと思う。

 ユウタが店に立ち仕事をしている姿は私がなんとか息子を引き止めれて後を継がせたあり得たかもしれない未来の様であった。

 ハハハ。なんとも身勝手だな」

 そう最後は消える様に呟いたトマソン様の眼には一筋の涙が浮かんでいた。


「旦那様・・・」


「なあ、ユウタよ。ローズ王国って知っておるか」


「ローズ王国ですか。確か人種差別も異形種差別もなく、税金も安く平和で王が非常に優秀な魔法使いであり民の為に魔法を行使し、民の為の政策を行う。誰もが認める最高の国でしたっけ。まあここから遠く離れた西の国の話なんで私達には縁はないでしょうけどね」


「縁がないか。まあ、確かにそうじゃな。私もそう思っていた。あの噂を聞くまでは・・・ローズ王国の王様は国民の願いを叶えてくれるそうじゃ」


「まさか・・・」


「ああ。そうじゃ。私は身辺を整理したとはローズ王国に向かい、王様に私の息子を探してもらうつもりだ」


「旦那様それは、それって」


「もちろん言いたいことは分かっておる。息子はもう死んだ。諦めろだろ。そんなことは私が一番分かっておる。分かってはいるんだ。でもな、私は諦めきれないんだ。どうしようもない馬鹿息子で、親不孝者だけど私が心の底から愛した妻の忘れ形見であり、亡くなる妻が最後私にあの子にもう一度だけ会いたかったと言った言葉が忘れられないんだ」

 

「旦那様」

 俺は旦那様の悲痛な叫びを前にそれ以上の言葉が出なかった。


「最初、私の夢が誰もが飢えることも誰もが生まれで苦しめられることもなく、皆が平等で平和と娯楽を享受できるそんな世界にしたいと言ったのを覚えてはおるか」


「はい」


「その夢をローズ王国内で叶えたのが、ローズ王国国王なんだよ。誰もが夢物語と思えるようなものを叶えたお人がこの世界にはいるんだ。これを縋らずにはいられるか」

 感情的になって叫ぶトマソン様を俺は今日初めて見た。


「でも、旦那様。店は店はどうするのですか。私含め118名の従業員は旦那様がいなくなった後どうすればいいのですか」


「ユウタ、お主に継がせようと思っておる」


「私にですか、無理ですよ。私はまだ13歳。経験も人脈も知恵も何もかも足りていません。それに他の店長たちが納得しませんよ」


「そうかもしれないな。でもそれは他のどの奴らでも同じこと。誰がなっても禍根が残るのなら私が最も信頼する者に後を託したい」


「いやいや。旦那様。長年一緒にいたカルエ様じゃないんですか」

 カルエ様、この商会の財務部として長年旦那様と一緒に商会を盛り上げて来た御年43歳の大ベテランだ。


「あ奴は、横領をしていたから駄目じゃ」


「え?そうだったんですか。じゃあバリアス様は」


「あ奴は不倫をしており女関係で揉めておるからなしじゃ」


「ではカルニック様やテグラ様は」


「ギャンブルで借金がある。昔詐欺を働いて捕まった経歴がある」


「それならばビーズ様は」


「アイツは個人で独立するといって来月にはやめる」

 あれ?おかしいな想像以上のうちの商会終わってるかもしれない。


「それは・・・かしこまりました。謹んでお受けさせていただきます」

 とはいえ、トマソン様には恩もあるしな。


「おお。そうかそうか。それなら安心だ。引き継ぎ業務の為暫くは忙しくなると思うが頑張れよう。私はそこまで薄情というわけでもない今から半年、お主に全てを教え引き継がせてから旅に立つ」


「旦那様、これからよろしくお願いします」


「ああ。そうだな」



――――――――――――――――


 補足説明

 そんな終わってる人間を店長にすえてるけどおかしくねに対してのアンサー。

 この世界の識字率はクッソ低いです。5%くらいです。

 数学を理解出来る人はもっと少ないです。四則演算出来るだけで超エリートです。

 そのため文字が読めて数字が出来る人間は優秀な人材となります。

 で、そんな優秀な人材が割と年いってるのに独立もせずにさほど大きくない上に現時点で将来性もない商会で店長やりますか?

 ノーでしょう。

 だから、必然的に何か傷がある人、問題を抱えてる人しか残らないってわけです。まあ、うんそれはそうだよねって話。


 主人公はこの世界基準でいえば学力という一点において上位0.1%には入るくらいには優秀です。

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