異世界に勇者として召喚されていた僕と、幼馴染の彼女。
Yuki@召喚獣
神田宏斗
「待ってるから、早くしてよね」
染めているわけでもないのに綺麗な亜麻色の髪と、日本人らしい黒い瞳の可愛らしい女の子。幼い頃は一見すればお人形さんのように可愛らしい見た目をしていながら、その可憐な見た目とは裏腹になかなか気の強い女の子だった。
僕は小学校に入る前に親の都合で県外から引っ越してきた。それまで仲の良かった保育園の友達と離れ離れになって、これからの小学校生活に不安を抱えていた僕を引っ張ってくれたのは有紗だった。
僕が引っ越してきた家は有紗の隣で、小学校なんてものは近所の子供が寄り集まって登校する集団登校が当たり前だったから、僕と有紗もその例に漏れず一緒の登校班で小学校に向かっていた。
「ほら、いっしょにいきましょ!」
なんて有紗が僕に声をかけてくれたことを今でも覚えている。
近所の憧れのお姉さんと言うには歳が近すぎたけど、同級生の友達というわけでもない。家が隣同士ということもあって、僕と有紗の関係を表すにはやっぱり幼馴染という言葉がぴったりだった。
小さい頃は引っ込み思案だった僕は同じ登校班の子にからかわれても言い返すことができなくて、俯いてじっと耐えていたり。でもそんな僕を見つけて僕をからかってきた子に怒ったのは有紗だった。
「人をばかにするなんてかっこわるいわ!」なんて言ってその子たちを黙らせたり。
「言われっぱなしでくやしくないの?」
からかってきた子に怒るだけじゃなくて、有紗はそう言って僕にも声をかけてくれた。
「わたしはくやしかったから、いっぱい言いかえしてやったわ! わたしのかみをばかにするなんてゆるせないもの!」
有紗はその特徴的な髪の色のせいで、周りからいろいろと言われることが多かった。学校の先生とかは有紗の両親から地毛ということを聞いていたから何も言わなかったみたいだけど、小さい子供にはそんなこと関係ない。
自分たちと違う髪色の有紗に対していじめとまではいかないまでも、あることないことひそひそと噂したり、本人にぶつけたり。
そんな周りの子供たちに有紗は怒って言い返したりしていた。有紗の気が強くなったのは、もしかしたらこういったことにも要因があったのかもしれない。まあ元々強くないと言い返せない気もするけど……。
とにかく、そんな有紗に「くやしくないの?」と言われて、僕も心を奮い立たせた。
有紗が頑張っているのに、僕が頑張れないわけがない。怖くて人に言い返せないなんていうのは、ただの言い訳だ。
そんなの、有紗だって怖いに決まってるのに。それなのに言い返しているのは、それだけ自分の髪に誇りを持っているからだ。
だから僕も、その日から少しずつ自分を変えていった。自分の意見を言えない子供から、自分の考えを発信できる子供へ。
いきなりは変われない。小学校六年間をかけて、ゆっくりと。でも確実に。
中学に上がる頃には、それなりに誰とでも話せる人間に成長できていたと思う。
そこまでいけば人からからかわれることも無くなって、逆に友達は沢山できていた。
僕と有紗の関係は中学校に上がっても「幼馴染」という関係のまま続いていた。学年は違うから普段の学校でそこまで交流はないけど、休日や何か家族のイベント事にはお互いの家を行き来したり、時間が合えば一緒に登校したり帰ったり。
つかず離れず。姉弟のような幼馴染という関係のまま、進むことも戻ることもなかった。
ただ、中学生っていうのは大多数の人が思春期に入り始めるころで、小学校の頃までは一部のませた子しか興味のなかった「恋人」みたいなものにみんな興味が出始める年頃で。
これに関しては有紗も僕も例に漏れず、そういったことに興味が出始めた頃合いだった。
中学二年生になってすぐの頃、僕は人生で初めて女の子から告白された。一年生の時から同じクラスで時々話をする女の子からだった。
その子から呼び出されて告白をしてもらったときは、正直に言うととても複雑な気持ちだった。
僕のことを好きになってくれて嬉しいという気持ちは確実にあったけど、でもその子の気持ちにそのまま応えるにはすっきりとしないもやもやが僕の中には存在していて。
本当に心が痛かったけど、その子の告白はお断りをさせてもらった。涙を堪えながら歩き去っていくその子を見るのは心苦しかったけど、その時の僕の気持ちで付き合うのはその子に対して失礼だと思ったのは間違いじゃないと思っている。
それからどうして告白を受けたときにあんな気持ちになったんだろうと自分で考えたときに、その答えはあっさりと出た。
すごく簡単なことで、僕にはすでに好きな女の子がいたからだ。
僕は有紗のことが好きだった。幼馴染としてだけじゃなくて、一人の女の子として。
小さい頃から幼馴染として僕のそばにいてくれた有紗。面倒見が良くて、可愛くて、自分の芯とでもいうべきものをしっかりと持っている。
そんな有紗のことが僕は小学生の頃からずっと好きで、その気持ちに気付いていなかっただけなんだ。
だから言い方はよくないかもしれないけど、その気持ちに気付かせてくれた女の子には感謝もしてるんだ。その告白がなかったらこの気持ちに気付くのにどれだけ時間がかかったことだろうか。
でも気持ちに気付いたからと言ってすぐに有紗に告白したかっていうと、別にそんなことはないんだ。
だってその頃の僕と有紗は仲の良い幼馴染っていうだけで、「男女」として見た場合僕は明らかに有紗に釣り合ってなかったから。
派手な容姿で目立つ有紗の周りには、いろいろな人がいた。女の子の友達だけじゃなくて、男の子の知り合いとか。その中には運動部で活躍して目立つような男の子とかもいて、そういう男の子と比べると僕はまだまだひょろっとしていて頼りなかった。
小学校の頃ほどではないけど、やっぱり一年の差っていうのはまだまだ大きくて。
だから僕はその日から僕なりに努力することにした。運動も勉強も、最低限人並み以上にできるように。
「急になんか頑張り始めたみたいだけど、どうしたの?」
「ちょっと思うところがあってさ」
「ふぅん……よくわかんないけど、頑張ってね」
そうやって自分なりに努力をしているうちに有紗は中学を卒業して高校生になった。
正直に言って、僕が告白をする前に有紗に彼氏ができる覚悟はしていた。幼馴染のひいき目を抜きにしても有紗は可愛かったし、交友関係もそれなりに広かった。別に有紗の交友関係を把握しているわけじゃなかったけど、普段の雑談とかを聞いていればそれなりのことは察せる。あと何故か有紗の友達が僕のことを見に来たりしたこともあるし。
有紗に彼氏ができたら諦めよう。でもそうじゃなかったら高校生になったら告白しよう。
そう思っていた僕に、いつの日か有紗がそっと囁いた。
「待ってるから、早くしてよね」
それは同じ高校に来てほしいということだったのか、それとも――
なんて。どういう意味だったのかなんて、高校に上がってからすぐにわかったけど。
「ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
高校に上がってから少しして。
有紗に彼氏がいないことを確認してから、心を落ち着かせて。
放課後の帰り道、夕日で赤く照らされた近所の公園で、僕は亜麻色の髪をなびかせた有紗に告白をした。
「……待たせすぎよ、まったく」
「それって……」
有紗の顔は夕日のせいか、それとも別の要因か。
真っ赤になった顔で、僕の告白に頷いてくれた。
「これからよろしくね、有紗」
「うん。よろしくね、
それから、初めて有紗と恋人として手を繋いで家に帰った。
それが僕――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます