第3話 ハプの店にて

『ハプのスパイスとお茶とハチミツのお店』に着くと、店主のハプがトコトコと小走りにナナに近づいて来て、にっこりと笑った。


「さぁさぁ見せて見せて!」


 ナナは布に包んだ瓶をカウンターの上に出す。


「今日は2つだけ持って来ました。全部は持って来られなかったんです」


 大きな色鉛筆の束でできた椅子に、小柄なハプが腰掛ける。すると、カウンターの上に丁度よくハプの上半身が出る。ハプは布に包まれた瓶を見て微笑む。


「あら可愛い袋だこと。こうやって保存されていたの?」


「あ、いえ。これは枕カバーなんです。瓶が割れたら嫌だなと思って。包めるものが、これしかなかったから」


 ハプは「ナナらしいわ」とニッコリした。ナナは少し顔が赤くなった。


「あ、瓶を出しますね」


 ナナは草花とナッティの模様の枕カバーから瓶を出すと、ハプの表情を見つめた。どうかお茶でありますように、と強く願った。


「これはお茶ね」


 やった!ナナは心の中で両手を上げた。お腹の火もチロチロと嬉しく揺れる。ハプはお茶から目を離さずに、ナナに聞く。


「……この他にも同じような瓶があと2つなかった?」


 ナナは驚いた。家にある後2つの瓶が頭に浮かぶ。


「なぜ分かるんですか?」


「このお茶はね、4種類揃って初めて完成するのよ」


「そうだったんですね」


 ナナは2種類しか持ってこられなかったけれど、家に置いて来たもう2種類のことも知ることができそうで嬉しかった。


「ねぇナナ、まだいつくかおばあちゃまが残されたものがあるのよね?」


「はい、あります」


「もしナナが嫌じゃなかったらなんだけど」


 ハプはお茶から目を離してナナを見た。


「私、ナナのお家にお邪魔してもいいかしら」


 いつも柔らかいハプの表情が、少しキリリとりんして見える。ナナは、ハプの目がとても強く色づいているように見えた。


「もちろん良いですけど。お店、閉めるんですか?」


「今週来る予定のお客さんたちは皆んな昨日までに来たし、今日は特別。特別な日はいいのよ。私のお店だもの」


 そう言ってハプはにっこり笑った。




 ナナは自転車の後ろのかごに店主のハプを乗せて、家へと向かっていた。前のカゴに1瓶、ハプの腕の中に1瓶。枕カバーに包まれたお茶の瓶たちも一緒。


「ナナの、お家は、元々、おばあちゃまの、お店だったのよ、ね?」


 カゴの中で揺れながらハプがナナに聞く。


「そう、です」


 ナナも揺れながら答える。なにせ古いレンガ道を通っているのだ。2人はガタガタと揺れながら話を続ける。


「引っ越した、時に、床にカ、カーペットが敷いて、あったん、じゃない?」


「そう、です」


「そのカー、ペットは、まだ、そのまま?」


「はい」


「それ、は楽しみだ、わ!」


 ナナは、カーペットの何が楽しみなのかよく分からないけれど、ハプの明るい声にワクワクした。

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