第22話 本条家初代

あたしの妹、本条菜津は葛野郎だ。あたしの幼馴染で昔から好きな人であった佐古新を寝取り奪ったのだから。許せない。22年間生きてきてこれ以上の屈辱を味わったことはない。ましてや、5歳下で新くんを惚れ込ませるなど飛んだ男たらしだ。これこそ代々裏で政に関わってきた本条家の恥だ。

本条家。

約1600年前。当時推古天皇という女性初の天皇がいた。彼女は即位した後に聖徳太子(厩戸皇子)を皇太子とし日の国の政に携わった。しかし、その短い平世は蘇我馬子によって殺害された。史実を辿れば上記が普遍的に学ぶ歴史の正解だ。しかし、推古天皇の政は短くも保てた理由は数々の家来達による支えがあったからだ。そしてその家来に1人、同じく女性でありながら力を持つ者がいた。当然彼女は史実に一切載っていない。そう、極秘で推古天皇を支えた彼女こそ、本条家初代、本条縫だ。

縫は人並外れた頭脳と予知能力を持ち合わせていた。

一見合点のいく力を持ち合わせている様だが

逆だった。

彼女の予知能力は、数秒後に起こるどんな予見事象に対していくら手段を講じても不可能だった。つまり、予知しようとも絶対に避けられないのだ。縫は死ぬまで何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も悩まされた。特に、推古天皇が殺害される予知には苔痩せる程悩みもがいた。小さい頃、孤児で餓死寸前だった縫を偶然推古天皇が救ってくれたことにはとても畏敬の念を抱いていた。

「彼女こそ、最上の恩人であり最上の天皇であり最上の神様だ」

飯も学業も生きることも支えてくれた縫にとって正に一番見たくなかった予見であった。そして縫は2つ決意した。

まず1つ目に、縫は推古天皇に皇居にて直談判した。

無論、本人に伝えようとも運命は絶対に変わらない。首を横に一刀両断される予見から胸を背後から刺される予見に変わったに過ぎない。たとえ、事象が起こった時と場所が違えど。事情を聞いた推古天皇はそれでも肝が据わっていた。恐らく推古天皇自身、予感があったに違いない。

「運命には逃がれられない」と。

そして2つ目の決意は、離居することだった。

自分の恩人を目の前で殺される姿を直に見る可能性があるくらいなら、近くで訃報を耳にするくらいなら、いっそのこと遠い地に離れて、恩人はまだ生きているという希望と想いと忘却に馳せ参じようと心みた。

離居当日、縫は推古天皇から一生使い果たせぬ金と宝鏡を献上され遠い地へ涙を流しながら渡り去っていった。

それから約1600年という長い年月が経った。いつしか本条家は莫大な資産を基盤に政界へ関わり、代々女性が当主として権力を振るっていった。しかし、ここへきて誤算が生じる。代々継いだ本条家に当主の座を明け渡す候補に越した頭脳を持つ少女が2人いたこと。そしてその者らは皮肉にも姉妹であったことも。

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