38.セクシー広告は求めていません


さて、今の私の一番の問題。


「乳腺炎になりそう」


……いや、もうなりかけてる。


前にも経験したけれど、やっぱり痛い。

何もしなくてもズキズキする胸。ちょっと動いただけで、揺れや下着との擦れが激痛につながる。


あまりの痛さに、私の頭の中はもう「おっぱい」でいっぱい。


助産師さんにアドバイスをもらいつつ、スマホでも「乳腺炎」「授乳 痛い」「おっぱい マッサージ」など、関連ワードを検索しまくる。


……で、思い出した。


次男のときも同じように検索して、気づけば検索履歴も広告も「おっぱい」一色になってたんだった。

育児に真剣なだけなのに、やたらセクシーな広告が増えて戸惑った記憶。


さて、授乳の調子はというと……昨日よりはちょっとマシ。でも相変わらず吸う力は弱いし、本人もやる気なさげ。


それなのにさ、なぜ乳首は切れそうなほど痛いの!?

ものすごい勢いで吸ってくれてるならまだしも、大して飲んでくれてないのに痛いなんて、理不尽にもほどがある!


そう心の中で文句を言いつつ、今日もなんとか授乳を続ける。


授乳のたびに、廊下にあるベビースケールで体重を測っているけど、いつも「プラマイゼロ」。


さすがに「毎回そんなことある?」と疑問に思い、助産師さんに聞いてみたところ──


「そのスケール、5g単位だから、微妙な変化は出ないかもね」


……なんですと!?


そりゃ変わらなくて当たり前だわ。誤差レベルの変化なんて表示されない仕様なんだもん!


思い返せば、長男のときもそうだった。


彼もあまり母乳を飲んでくれなくて、A総合病院にいたころは、授乳のたびにベビースケールで前後を測ってた。あっちは1g単位で測れる高性能なやつ。


けど、毎回「+2g」とか、変わったんだか変わってないんだか分からない数値ばかり。


あの頃は、ほんとにキツかった。


産後のボロボロの体で、寝不足。おっぱいは張って痛いし、乳首は切れそう。

何も分からないまま、言われるがままに授乳して、必死に頑張って──


20分授乳して測ってみたら、3g減ってたときのショック。


「え、うそでしょ!? 頑張ったのに!? むしろマイナス!?!?」


その場で崩れ落ちたくなった。


「こんなに頑張ってるのに……なんで……」と、泣きながら授乳していたっけ。


でも今は、知ってる。


あれが「生理的体重減少」ってやつだったと。


赤ちゃんは生まれたばかりの頃、胃が小さくて、飲む量より出る量(汗とかおしっこ)のほうが多い。だから一時的に体重が減るのは、自然なこと。


それが分かっている今の私は、モチ子(第三子)には焦らず言える。


「ちょっとしか飲めなかったね。じゃあ搾乳したのがあるから、それを飲もうね」


こんなふうに、余裕を持って対応できるのも、過去の経験があったからこそ。


ちなみに、第一子と第三子は飲みが弱かったけど、第二子の次男は違った。


生後2日目、1回20gくらい飲めたら十分って言われてた中で、なんと──


+23g。


「おおっ、すごいじゃん!」と喜びつつ、次の授乳では──


+38g。


……え? 計算間違えた?と思い、メモを見返す。


疲れてるから勘違いかもしれない……と、次はベビースケールの数値をスマホで撮影して記録。


授乳後も撮影して、電卓で計算してみた。


結果──+43g。


どうやら間違いじゃなかったらしい。


第一子のときに、


「最初から上手くいかなくて当たり前。体重が減っても気にしない」


そう思って大らかに構えていたのに、

軽々と必要量を上回る量を飲み続けた次男。


あのときは本当に拍子抜けしたけど、ありがたかったなぁ……。


もちろんちゃんと「次男くん……優秀じゃん!」


と、ぽやっと顔の新生児を褒めまくった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る