36.なかなか会えないパパとモチ子
「……お尻もおっぱいも痛い」
夕食を食べ終えた夜。私はその痛みに泣きそうになっていた。
二日目の夕食は、
・ご飯
・彩り野菜のコンソメスープ
・サワラのカレーパン粉焼き
・じゃがいもとキノコのソテー
・オニオンサラダ
・オレンジゼリー
いつもどおり、とても美味しかった。
でもね、痛すぎて……完食できなかった。
お尻は、いくら痛くても時間にまかせ自然に治るのを待つしかない。
でも、おっぱいは……この入院中にしっかり助産師さんに診てもらって、良い状態にしておかないと、乳腺炎になるリスクが……!
そう思うと、焦る気持ちばかりが募っていた。
そんなとき──旦那からLINEが届いた。
『やっと休憩入れた! モチ子は!? モチ子は居る? 今ならビデオ通話できるんだけど!!』
メッセージを読んで、私はビデオ通話をつなげた。
スマホの画面に映った旦那の顔。
「お仕事、お疲れさま」
「それより……モチ子は!?」
(親子そろって、すっかり私よりモチ子に夢中だな……)
「横にいるけど、寝てますよ」
私はインカメラからアウトカメラに切り替えて、モチ子を映す。
「うわぁぁぁぁ! かわいい~!!」
……うん。私や兄ちゃんずに負けず劣らず、親バカ全開だな。
「モチ子ー! パパだぞー!」
呼びかけるけど、兄たちの騒ぎでも動じなかったモチ子だ。そんな声に反応するわけもなく、ピクリとも動かない。
「はぁ……モチ子ってほんと、かわいいなぁ……」
デレデレと「かわいい」を連呼する旦那と、まるで静止画のように微動だにしないモチ子。
しばらく見つめたあと、旦那が言った。
「明日は出勤、ちょっと遅めでもいいんだ。午前中ならお見舞い行けそうなんだけど」
「……え?」
モチ子が誕生してから、旦那はまだ一度も会えていなかった。
仕事の拘束時間が長く、いまだ親子の対面は叶っていない。
早く会わせたい。でも……よりによって明日なの!?
なぜなら明日は──出産のお祝い膳が出る日だから。
「それって……夜に来るのは無理だよね?」
「無理に決まってるだろ」
だよね、知ってた。だからこそ──
「来てほしいけど、明日は無理だよ。あなたが午前中に来ちゃうと、長男くんがお祝い膳を食べられなくなっちゃう」
この産院では、三日目の夜に「お祝い膳」としてコースディナーが提供される。
無料(というか出産費用に含まれている)のは母親のみだが、希望すれば家族の分も追加して用意してもらえる。
旦那の分はもちろん、なんと子ども用のプレートまで用意してくれるのだ。
──本来、計画無痛分娩が予定通りいけば、旦那も育休に入れた。
次男も含めて、赤ちゃん抜きで家族四人での“最後のディナー”になるはずだった。
けれど、その計画は崩れた。
家族会議の結果、今回は「私と長男だけの二人ディナー」に決定。
本当は次男も誘いたかった。でも、まだ幼児。言うことを聞かず、すぐ勝手なことをしてしまう。
普段なら私ひとりでふたりを見るけれど、今はお尻が重症の私……「ワンオペで次男ムリ!」というわけで、やむを得ず。
そしてもう一つの問題。
コロナ禍の緊急事態宣言は終わったものの、病院では妊産婦や新生児への感染予防のため、まだ制限が続いていた。
お見舞いに来られるのは赤ちゃんにとっての父親と兄弟、祖父母、叔父叔母──つまり、家族のみ。
しかも「一日一組」まで。
本来なら「パパが来るから、今日はモチ子に会うのはナシね」で済むところだが……
ダメ元で助産師さんに相談してみた。
「主人が明日の午前中なら来られそうなんですが、夜には息子とお祝いディナーの予定なんです。やっぱり、お見舞いは無理……ですよね?」
「うん。まだ一度も会えてないから、会わせてあげたいんだけど……ルールだから、ごめんね」
ですよねー……。
こうして、パパとモチ子の初対面は──退院の日までおあずけが決定した。
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