14.余裕の無痛分娩と念願のごはん


旦那にLINEを送るため、スマホを開いて気がついた。


診察後、「本陣痛だから、このまま入院ね」と言われた私は、痛みに耐えながら母と旦那とのグループLINEに報告を入れていた。


『本陣痛でした。子宮口3センチ。このまま出産になります』


──と、その前後のやり取りを何気なくスクロールして見てしまった。


母「今、B産婦人科医院にあきを連れていきました。陣痛かもしれません」


旦那「了解です。早いよ〜(泣くスタンプ)」


母「もしかしたら、ただの便秘かもね」


旦那「(笑うスタンプ)だったらいいんですけど笑」


私『本陣痛でした。子宮口3センチ。このまま出産になります』


旦那「あちゃー。同じ誕生日なくなった(泣くスタンプ)」


……おい。人が苦しんでるときに、便秘であってほしいと祈ってたんかい!


そして、再びLINEを送る。


私『無痛分娩の麻酔入れてもらって楽になりました』


旦那「了解。どれくらい時間かかるのかな?」


私「分からない。経産婦の無痛分娩は平均6時間くらいみたいだけど、促進剤使ってないから、何とも……」


旦那「今日は予約いっぱいだから、スマホ見てる余裕もないかも」


クソーー! 実況中継もできないのか!


とりあえず、深夜に出産になれば立ち会いも可能なこと、もしそれまでに生まれるなら出産時のビデオ通話はOKとのことを伝え、ひとまず会話は終了。


そして私は──寝た。


無痛分娩のおかげで、陣痛中なのにほとんど痛みがなく、スヤスヤと眠ったのだった。


 ◆


……はっ!


ふと目覚めてスマホを見ると、もう夕方。


相変わらず痛みはなく、余裕でスマホをポチポチ。


そこへ助産師さんがやってきて、内診をしてくれた。


「うん、子宮口4センチだね」


……寝る前から、全然進んでない!!


まあ、痛くないからいいけど……。


これで痛みにのたうち回った末に「進んでません」だったら絶望だわ。


そういえば第二子のとき、めちゃくちゃ痛くて歩かされて、でも結局まったく進んでなくて、泣きそうになったっけ。


そんな記憶を思い出していると、助産師さんから提案が。


「うーん、やっぱり無痛で促進剤使ってないから、時間かかりそうね。夕飯、どうする? 食べるなら麻酔を一旦止めることになるけど……」


ええー。やっぱりそうなる?


麻酔を止めるなんて恐ろしい……でも、確かにお腹は空いてきたし、なにより──


ここのご飯、B産婦人科医院のご飯を食べたい!!


助産師さんからも「長丁場になりそうだし、体力つけるためにも食べたほうがいいよ」と勧められる。


……よし、食べよう!


決意して、夕食をとることに。


麻酔を中断する処置を受け、助産師さんは言った。


「じゃあ、夕食持ってくるね」


そうして私はLDR室にひとり取り残される。


(早く……早くご飯持ってきて……!

ダッシュで食べて、早く麻酔を再開してもらうんだ……!)


実際にはすぐに持ってきてくれたはずだけど、待ってる間の時間がやたら長く感じた。


──そして、ついに届いた夕飯。


白米、けんちん汁、焼き魚二種、鶏肉とかぶ・蓮根の煮物、ほうれん草と舞茸のポン酢和え、フルーツ。


お、美味しそう……!! やっぱりこの産院にして良かった! ありがとうシェフ!!


……っ! ちょっと、お腹痛くなってきた……っ!


早く食べねば……いただきまーす!!


こうして私は、出産前のごちそうをしっかりいただくことにした。


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