第20話:押し付けられた仕事

~ 魔導師試験が終わってから約1週間後 ~


なんとか魔導師試験に合格し、私は二級魔導師としてのライセンスを手に入れた。

魔導師管理委員会から与えられた二つ名は『漆黒の魔女』。

・・・なんだか、恥ずかしい名前だ。

それに、二級魔導師になることで世界中に魔導師としての

私の情報が出回ることになる。

これからもっと頑張って、魔法を身に着けて行かないと。

でも、今はそんなことより師匠の機嫌が

ものすごく悪いことが気になって仕方がない。

最近、何度も王城から呼び出しがかかって、魔法の研究ができないせいかな?


「おい、ミオ。少し手伝え」


師匠に呼ばれた。何だろう。まさか、八つ当たりされたりしないよね?

ビクビクとしながら近づくと、師匠は大量の書類を私に差し出してきた。


「この中から、70名の優秀そうな魔導師を選出しろ。

終わったら俺のところに来い」


とだけ言うと、どこか。恐らく、自分の研究室に行ってしまった。

・・・この書類の山から、70人の優秀そうな魔導師を探し出さないといけないの?

はぁ。まあ、地球でバイトしてた時も、似たような経験をしたことがあるし、

問題ない、かな。

正直、早朝から仕事しろって言われるより、

書類の山を整理しろって言われる方が辛い。

あの時は、家に持ち帰って徹夜で書類を整理したんだっけ?もう、覚えてないや。

素早く終わらせるためには、無駄を省くのが重要って言うのは、

バイトの時の経験で分かってる。

つまり、今回は魔法適性・保有魔力量、魔導師としての経歴の項目だけを確認する。

書類全体に目を通していたら、多分、数日は余裕で掛かるから。

・・・そう言えば、このお屋敷に来てから

一回もお給料をもらっていないような・・。

まさか、宿代と食事代、お化粧代とかで、全部消えちゃってる?!

だとしたら、貯金ができない。つまり、仕事を辞められない。

うぅ。師匠にクビって言われないように、今まで以上に頑張らないと(涙)。


~ 翌、明朝 ~


「お、終わった~」


何百って書類から、最も優秀な魔導師70人を選ぶ。ホントに辛い作業だった。

体をグッと伸ばして解す。やっぱり、長時間座ってると体が痛くなってくる。

休もうと思った瞬間、扉が叩かれた。ど、どうしよう、ミュラーさんだ。

徹夜したことがバレたら、「お体が!」とか「お肌が」とか、説教されちゃう。

ま、まあ、私のことを思って怒ってくれているのは分かるから、

嫌ってわけじゃない。

でも前に、師匠から研究の手伝いをさせられて、徹夜したことがあったんだけど。

ミュラーさんが、物凄く師匠に怒っていたのを覚えている。

私は「徹夜は慣れてるから問題ありません」って言ったんだけど

「そういう問題ではございません!」と師匠にも説教をしていた。

その時の師匠が終始不機嫌そうに見えたから、

今回ももし、私の徹夜の原因が師匠だってバレたら。


「失礼いたします」


ど、どうしよう。机に突っ伏して寝たふり?いや、ミュラーさんには通用しない。

じゃ、じゃあ、書類を隠して、個人的な用事で徹夜したって言い訳をする?

ああ、兎に角、書類を隠して寝たふりをしよう。後は、な、何とかする!


「ミオお嬢様?」


声に反応しちゃダメ。ミュラーさんを騙すのは心苦しいけど、仕方ないんです。

あくまで寝たふりをして、ミュラーさんが私を起こそうとするのを待つ。

寝たふり、起こされるのを待つ、寝たふり、起こされるのを待つ・・・。

少しずつ足音が近づいて来る。耐えるんだ、私。


「ミオお嬢様・・・起きていますね?」


ミュラーさんの言葉に、ビクッと反応してしまった。バレてた?

私はゆっくりと体を起こして、ミュラーさんの顔を見る。

お、怒ってる?と、とりあえず、謝らないと。


「そ、その。す、すみません」


この後、いつものお肌の手入れやお化粧中にずっと説教されました。

なんとか、徹夜の理由は自分のせいだってことで

納得してもらえたからよかったけど。

まあ、それはさて措き。書類を師匠に提出しに行こう。研究室にいるかな。

と考えながら廊下を歩いていると、対面から師匠が歩いて来た。

凄い、完璧なタイミング。

私に気が付いた師匠は、足早に近づいて来る。


「ミオ、その書類。もう終わったのか?ならちょうどいい、一緒に王城まで来い」


師匠は戸惑う私の腕を掴むと、そのまま強引に玄関へと歩いて行く。

ああ、何度か経験したことがあるから分かる。

こうなった師匠は、ミュラーさんにも止められない。

でも、王城か~。この世界に召喚された時以来になる。

私、行っても大丈夫なのかな~。

なんて考えていると、師匠が急に足を止めて私の顔をまじまじと見つめてくる。

うぅ。他人に顔を直視されるのは元々苦手だったけど。

さらに『イケメン』になってくると・・・。


「お前、俺のところから出て行きたいと思うか?

怒らんと約束してやるから、正直に答えろ」

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