第15話:恐怖の出会い
「シノノメ様ですね。お初にお目に掛かります、
私、当プッセン王国魔導師管理委員会本部の
本部長を務めております、クルト・アドラーと申します」
立派な建物、見かける人全員が正装、
それに貴族の礼儀作法を習っているから分かる。
上流階級の貴族にも引けを取らないレベルの、美しい所作。
うぅ。1年間、頑張って礼儀作法の練習をしてきたつもりだけど、
一瞬も気を抜けない。
「はっ!初めまして。ハ、ハーゲンドルフ特師級魔導師が弟子、
ミオ・シノノメと申し、ます」
と、頭を下げる。今日は動きやすい服装をしてるから、
貴族式のお辞儀、カーテシーだっけ?はできない。
師匠が、学生服に似た服を沢山用意してくれたのはありがたいんだけど
アレは、運動向きじゃないから。体操服とかだったら、動きやすいんだけど。
でも、あれを学校の外で着て運動する勇気は、私にはない、かも。
なんて考えていると、扉を蹴破って二人の人影が堂々と建物の中に入ってくる。
警備役の騎士の人が、剣に手をかけた。
っ!この二人、多分強い。なんとなくだけど、そんな気がする。
警戒して構えようとする私を、アドラーさんが制止する。
そして、私の前に出て二人の女性?の前に立つと、大きな溜息をつく。
「黄金の魔女様、紅蓮の戦姫様、ようこそ、お待ちしておりました」
っ?!二つ名持ちの魔導師。なるほど、だから何となく強そうな感じがしたんだ。
師匠と対峙した時程じゃないけど、それなりの威圧感がある。
今の私じゃ、確実にこの二人には勝てない。
それにしても、扉を蹴破って入ってくる意味ってあったのかな?
もしかして、怖い人達だったりするのかな?
だとしたら、目を付けられないようにしないと。
と、考えていると。早速、黒髪の目つきが怖い方の人と目が合ってしまった。
ど、どうしよ。目を逸らす?いや失礼かな。笑う?笑顔ってどうするんだっけ?
結局、どすればいいか分からなかった私は、彼女の目を見続けてしまった。
結果、彼女は不愉快そうに睨みつけて来た。私は怖くて慌てて目線を逸らす。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い。ゴブリンと初めて戦った時くらい怖い。殺される。
「アドラーさ~ん、その呼び方はやめてって、言ったよね?」
私はずっと下を向いたまま、目を瞑ってその場でジッとしていた。
そのせいでアドラーさん?と女性二人の会話が耳に入って来る。
・・・私と目の合った黒髪の怖い女性が紅蓮の戦姫、
フィリナ・ウィンセントさんで、
金髪で大人しそうな女性が黄金の魔女、
フィリス・ウィンセントさんって言うらしい。
何か、盗み聞きしてるみたいで申し訳ない気持ちになってくる。
耳を塞いだ方がいいかな?いや、聞いたことを全部忘れればいいかな。
なんて思っていると、いつの間にか目の前に金髪のお姉さんが立っていた。
驚いて一歩下がろうとした時、お姉さんは私の腕を掴んで顔を覗き込んでくる。
どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。
涙目になりながら、子鹿の様にプルプルと震えていると頬を揉まれる。
「ねぇ。化粧を一切してないのに、この綺麗さは反則でしょ?
そもそもアナタ、化粧必要なのってくらい全てが綺麗なんだけど。
どこの化粧水使ってるの?一日にどれくらいお肌のケアに時間かけてる?
あっ!・・・コレも!アレも!ソレも!ココも!云々かんぬん」
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどっどっど、どうしよう?!?!
わ、私、魔法と礼儀作法のことで頭が一杯で、
どんなお化粧を使ってるとか、訊いたことない。
お、お姉さんの質問に答えられない。どうしよう、どうしたらいいの、ううぅ。
しょ、正直に、答えるしかない、かな。それしか、ない、よね。う、うん。大丈夫。
黒髪の人は滅茶苦茶怖そうだけど、この人はちょっと優しそうだし。
「黄金のま・・・」
「アドラーさ~ん?私の名前はフィリナよ~?」
アドラーさんがお姉さんを黄金の魔女と呼ぼうとした瞬間、
お姉さんが信じられないくらいの強力な圧を飛ばす。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
このお姉さん、黒髪の人より怖い。
もしかすると、怒った時の師匠と同じかそれ以上に怖い。
怒らせたら、確実に殺される。どうしよう。怖い。
そう思った時、私の体は本能に従って、無意識に動いていた。
「も、もももももももも、申し訳ございませえええん!!!!」
そう。土下座だ。頭を地面に擦り付ける土下座。
これ以上に、最適な謝罪方法はない。
頭を地面に擦り付けながら、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、
謝罪する。
人目があって、滅茶苦茶恥ずかしいけど。頭を下げるのには慣れている。
毎日のように下げていたから。・・・でも、土下座は流石にちょっと恥ずかしい。
で、でも。死ぬことと比べたら、こ、これくらい、耐えられる。
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