第10話:実戦訓練

1年という月日を費やして、私の魔力量はA-までに成長し、

闇魔法も初級から上級まで使えるようになっていた。

魔力治癒速度も、半日で完全に回復するようになった。

師匠曰く、これで二級魔導師試験を合格出来れば、

私は新米魔導師を名乗れるらしい。


(※魔導師の階級には

『特師級・一級・準一級・二級・準二級・三級・準三級・四級・準四級』

がある。


特師級:世界を探しても二桁もいない、大英雄の領域にいるとされる。

(現在のレオポルトは、この特師級にいる。正真正銘、世界最高峰の魔導師。)


一級:世界最高峰を名乗っても文句は言われない。

特師級に行く大英雄にはやや劣るが、英雄級と言って差し支えない。


準一級:ここに到達できれば、貴族位を与えられることもある。

無論、特師級や一級よりも人数は多いが。並大抵の人間では、到達できない領域。


二級:二級に合格した場合、魔導師管理委員会から『二つ名』が与えられる。

二つ名を持つ魔導師は、世界中にその情報が提供される。

貴族や豪商に次ぐ権力を有すると同時に、世界中に警戒される存在となる。


準二級:熟練の魔導師。国に仕える者の多くは準二級以上である。


三級:一流の魔導師。ここまでくれば、魔導師として問題なく一生食っていける。

王(プッセン王国)立魔導学園の教師は、皆、三級以上。


準三級:ここまで到達できれば『一人前』を名乗っても差し支えない。

四級・準四級の者は、最初はここを目指して努力する。


四級:魔導師育成機関を出た者や、師匠がいる者。

要は、魔導師として訓練を積んだ者は、ここから始める。


準四級:最も下の階級。師匠がいない者や、魔導師育成機関を出ていない者。

主に、独学で魔導を学んだ者が、ここから始まる。


つまり、何が言いたいかと言うと。

二級を初の試験で合格する者は、人間ではないと言うこと。

前例が全くない訳ではないが、その前例が

レオポルト・フォン・ハーゲンドルフである。

(だが、この世界に来て1年しか経っていない、さらにその殆どを、魔法と

貴族の礼儀作法の訓練に費やしてきた澪が、知る由もなかった。)


それはさて措き、私は今、師匠と一緒にダンジョン?に向かっている。

そう。試験前の実戦だ。

ああ・・・切実に帰りたい。と言うのもつい先日、師匠とここを下見に来た時に

ゴブリン?緑色の小鬼みたいな生物に出会ったんだけど。

奇声を発しながら、血走った目でこちらに全力で向かってくるそれを見て

私はあまりの恐怖に腰を抜かしてしまったのだ。

・・・でも師匠は、そんなゴブリンを一瞬で、殺した。

下級魔法で、心臓と頭を撃ち抜いて。

・・・あの時の、無表情の師匠。未だに頭から離れない。

生き物を殺す。まあ、台所に出てくる害虫とかは退治したことあるけど。

動物。しかも人型のを殺さないといけないなんて。私には無理だよ。


「ミオ。魔物と魔獣の差を知っているか?」


不安そうにしている私を気にしてか、それとも単純に勉強としてか。

師匠はぶっきら棒に、そんなことを聞いて来た。魔物と魔獣の差?

・・・そもそも、地球で暮らしてたら、普通そんな言葉聞かないよ。

私は首を左右に振りながら「い、いえ」と小さく震える声で答える。


「そうか。なに、魔物と魔獣の違いは単純で分かりやすい。

大まかに言えば、魔物は言語を有する程度の知識を持っている『魔の者』。

魔獣は、言語を有する程度の知識を持たない『魔の獣』。

魔物の多くは人型だが、龍・竜の非人型種や、

ケンタウロス・人魚などの半人型種も存在する。

魔獣は、その殆どが非人型種だが。稀に、人型種もいる。と聞くな。

ああ。この前殺したゴブリンは、魔物か魔獣か議論されている存在だ。

人型種でありながら、獣程度の知能しか有していない、稀有な存在らしいぞ」


この後も、師匠の話は長々と続いた。

・・・やっぱり、怯えている私に気を遣ってくれたのかも。

でも、怖いことも言っていた。例えば

「魔獣は魔法を使ってこないが、魔物は使ってくる。

出会ったら、人間と戦うつもりで臨め」

とか。

「稀にだが、魔物もダンジョンで生まれることがある。

まあ、その殆どが魔法もロクに使えない雑魚だがな」

とか。

師匠が私を安心させたいのか、知識を身に着けさせたいのか、

不安にさせたいのか、正直分からない。

話を無心で聞いている内に、ダンジョンの入り口が見えてきてしまった。


「最後に。ダンジョンからの帰り道に、移動系の魔法を教えてやる。

この部類の魔法は魔力消費が激しい。魔力欠乏症を引き起こしたくないなら、

魔力の消費を抑えて戦うことを心掛けろ」


ええ?!ただでさえ、命懸けの訓練なのに。

魔力消費を抑えることも考えないといけないの?

少し前から考えていたんだけど。師匠ってもしかして、スパルタなのでは?

でも、師匠の言うことには逆らえないし。・・・従うしかない(涙)。

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