第13話 ユリア視点

 初めてその子を見た時、妖精界から人間の世界に迷い込んだ妖精かと思った。



 滑らかで柔らかそうな髪は金と緑のコントラストが、不思議な位にとてもキラキラ綺麗に輝いていて。

 白くて小さな顔に、大きくて綺麗な両眼が特に印象的だった。エメラルドとアメジストの瞳。

 オッドアイなんて初めて見た。


 私は最初直視する事が出来なかった。


 その子はあまりにも綺麗で、それでいてとても可愛らしかったから。



 でも、美しいのは外見だけじゃなかった。




 私はつい最近まで両親と幸せに暮らしてた。


 でも、ある日。

 突然、お父さんが死んだ。



 遺体は無かった。ダンジョンでの事故に巻き込まれて命を落としたと、ギルドから聞かされた。

 そしてその日を境に、元々身体の弱かったお母さんはどんどん弱っていった。


 数週間が経って、心配したルシータさんが様子を見に来てくれてた日に亡くなった。


 まるでお父さんの後を追うかの様に。


 お母さんは亡くなる直前、ルシータさんに私を頼むと言っていた。

 

 私には、「ごめんなさい」と言い残して。



 私はひとりぼっちになった。



 ルシータさんは懸命に私を慰めてくれた。


 ルシータさんも悲しかっただろうし、辛かったと思う。

 でもその時の私は、自分の事しか考えていなかった。


 ルシータさんはお母さんを村の墓地に埋葬してくれて、私を母さんの実家である辺境伯の屋敷まで連れて行ってくれた。


 初めて会うお母さんのお兄さん。でも、私の顔を見た瞬間、その顔を歪ませた。


 平民の子供を屋敷に入れるなとルシータさんに怒った。平民の子なのだから、孤児院に入れるのが当然だと怒鳴った。



 辺境伯の領主となったこの人にとって、お母さんはただの平民だった。



 その後は大変だった。

 ルシータさんがその言葉に逆上して大暴れしたから。


 あまりにも強いルシータさんを誰も止める事が出来ずに、急遽ルシータさんの夫であるアームストロング公爵が呼び出された。


 公爵様に助けを求めるなど本来なら有り得ない事なのは僕にも分かったけど、あのルシータさんを止めれるのは多分、凄く強い冒険者だったお父さん位だと思う。


 あのままだと屋敷が全壊しそうだったから、仕方が無かったのだろう。


 知らせを受けた公爵様は直ぐに駆けつけてくださった。


 多分高度な転移魔法か高価な転移石を使ったのだろう。流石はアトラス公国を統括する公爵の一つであるアームストロング公爵だと思った。


 ルシータさんは公爵様によってあっという間に落ち着きを取り戻した。


 事情を聞いた公爵様は、詳細を話し合う為に辺境伯に泊まる羽目になった。


 私はこれ以上辺境伯に居たくなかったけれど、泊まざるを得なかった。



 次の日の朝、ルシータさんと公爵様が私に言った。


 家族になろうって。


 一瞬何を言われたのか分からなかった。


 戸惑う私に、公爵様は微笑みかけてくださった。『もう大丈夫だ』と。


 そう言われて初めて、両親が亡くなってから出なくなっていた涙が溢れた。



 アームストロング公爵には子供が一人いるのだと言う。名をレイルーク。


 美しい容姿に生まれて、その上心優しく育った息子が常に心配だと言う。どうやらかなりの過保護でいらっしゃる様だった。


 私に、息子を弟として守ってやって欲しいと頼まれた。


 私はただ頷くことしか出来なかった。



 そうしてレイルークと出会った。



 公爵様のおっしゃっていた言葉に、嘘は一つもなかった。




 レイルークは会って間もない私をとても気遣ってくれた。

 小さな手で私を引っ張って、公爵の屋敷を案内してくれた。


 三歳とは思えない程にしっかりとしていて。なんでも聞いてくれて。


 気が緩んだ私は、気が付いたらレイルークに暴言を吐いてしまっていた。心の底に追いやっていた暗い感情が、一気に溢れてしまった。


 今でも悔やんでも悔やみきれない。


 でもレイルークは。私に本当の家族になって欲しいって言ってくれた。



 私はすごく嬉しかった。



 陰で聞いていたのであろうランディさんにも「優しい弟が出来て良かったな」そう言われた。


 直ぐにちゃんと謝りに行こうとしたのだけど、中庭からレイルークを抱いたシンリーさんが戻ってきた。どうやら疲れて眠ってしまったらしい。


 その後自分に宛てがわれた部屋で、どう謝ろうかと悩んでいると。レイルークが目を覚ましたとシンリーさんが知らせに来てくれた。


 昼食を一緒に取りたいとレイルークは言ってくれているらしく、食事の前に自分の気持ちを正直に伝えればどうか、とシンリーさんは提案してくれたので、私はその提案に飛びつく様に頷いた。


 レイルークの部屋に行って謝ったら、レイルークも何故か同時に謝ってきた。謝る事なんて何もないのに。


 私は、正直にありのままの気持ちをレイルークに伝えた。


 すると、レイルークは嬉しそうに『どう致しまして』と言ってくれた。



 妖精は天使だった。




 それから私達は、本当の姉弟の様に仲良くなった。

 何をするにも後を付いてくるレイルークが、愛おしくて堪らなかった。



 レイルークには誰よりも幸せになってほしい。



 でも……それ以上の気持ちが芽生え始めるのに、そう時間はかからなかった。



 願うならこのままずっと、……今以上に、そばに居て欲しいと思ってしまう。


 決して叶わない願いだけれど。それでも、思い続けることは……どうか許して。




 大好きだよ。


 私の初恋の人。レイルーク。

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