石
「みなさんこんばんは、初めまして『旅人』です」
旅人さんは驚いた風な顔をしたのもつかのま、すぐに私に合わせてくれた。
「旅人さんは、旅ができる特別な体質なんだよね」
「そう。『消滅の日』のまえは、みんなできたんだと思うけど、いまはできる人はすくないね。でも、『消滅の日』のまえだって、できる人はすくなかったとも言える」
「おお! いきなり意味深な発言!」
「ごめん、ちょっと格好つけてみました」
旅人さんは、『能力があってもその意思がなかったり、政治の問題だったり、人間関係がそれを許さなかったり、経済力の問題でそれができない人はたくさんいた』ということを臭わせたかったんだと思う。
でも、最初からそこまで踏み込むのは難しい。
あと、旅人さんが吸血鬼だってことはこの放送では言わなくていい。
「まあそこは置いといて、旅人さんのお名前は?」
「いろんな場所に行って、いろんな名前を名告ってきたから、なんでもいいんだけどね。ずっと昔はね、ペテロって呼ばれてたこともあったかな」
「ペテロって言ったら、石とか、岩のことだよね? 聖書にも出てきて、十二使徒とか」
「わたしはそんなたいそうなペテロじゃないけどね。ただのペテロ。わたしの生まれ故郷じゃ、珍しい名前でもなかったから。でも、旅人さんでいいよ。わたしは動かない石になって教会の礎になるよりは、転がる石になりたかったからね」
「じゃあ、旅人さん、あらためてよろしくお願いします。旅人さんはどうしてこの村に来ようと思ったんですか?」
これは私的核心の質問。
「ことづてを預かったからだね」
あ、はぐらかされた。
旅人さんは含み笑いでそう答えた。
簡単に解を与えてなるものか、っていう意地悪な顔。
「まあ、ひとことで言えばね、君に会いに来たんだよ」
私の体温が、ぽこんと上がった気がした。
身体はないんだけど。
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