第16話 【ニギハヤヒ編・第1章】 神の子の目覚め
〈火を抱く者〉
夜明け前の静寂(しじま)に、
満月の光が混ざる。
淡い銀色の霞が、
磐船(いわふね)を静かに照らしていた。
それは――
神殿の入り口であり、
時代を超える扉でもあった。
⸻
突然、磐船(いわふね)が震える。
石と木が融合したようなその構造体が、
まるで息をしているかのように微かに蠢(うご)く。
そして、その中心から――
ニギハヤヒがゆっくりと、目を開けた。
⸻
彼の瞳は、ただの瞳ではなかった。
内側から燃えるような、意志の炎が宿っていた。
身体はまだ震えていた。
だがその表情は、覚醒を告げる静かな決意に満ちている。
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「……ここは?」
その声は、風に消えそうだった。
彼の記憶は――
雷の閃光と、母の声に満たされていた。
「火を降ろし、世界を変える」という使命。
そして、「母の恐怖」という呪縛(じゅばく)。
そのふたつの間で、
彼の意識は揺れていた。
⸻
月光に照らされる磐船(いわふね)の周囲では、
夜明けの音が静かに広がり始める。
――遠くから、小鳥のさえずる声。
――羽ばたく黒い影。
――そして、鼓動(こどう)のような大地の震え。
⸻
そのとき、八咫烏(やたがらす)が現れた。
その大きな影が船の縁を越え、
静かに羽根を震わせる。
「ニギハヤヒ様、神意識の覚醒を確認いたしました」
八咫烏(やたがらす)の声は、未来の機械のようだった。
⸻
ニギハヤヒはその声に向かって、手を伸ばす。
「聞け。
俺は、火を抱く者だ。
母が恐れるのは分かる。
だが、俺が行くのは――世界を焼くためではない。
焼き払い、再生する“火”を灯すためだ」
⸻
その言葉が、再び磐船(いわふね)を震わせる。
そして――
彼の胸中で、“火”の意志が、確かに目覚めた。
八咫烏(やたがらす)は深くうなずき、
その影は北へ――未知なる世界へと向かって、飛び始める。
ニギハヤヒは、静かに一歩を踏み出した。
⸻
これが――
神の子の旅の、真のはじまり。
⸻
📖 この物語は、週ごとに“火”を手渡していきます。
月曜には、未来の旅人・ニニギが。
火曜には、神として火を掲げた兄・ニギハヤヒが。
その間をつなぐのは、焚き火のそばの小さな対話――幕間(まくあい)。
次に灯るのは、誰の火か。
どうぞ、また火のそばに来てください。
✍️ noteでは日常の裏側に潜む物語を書いてます。
→ https://note.com/fukunokamio
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