第5話 ちゃくちゃくと進める計画犯


 そうして換金を追えた芙茗は、両手大の布袋いっぱいの朱銅銭を得ることができた。

 朱銅銭は国で一番流通量が多い、もっとも市井で使われている銅銭である。その分、一枚の価値は低く随分とかさばるのだが、これから町を離れる芙茗にとって、どこへ行っても使用できるというのが重要だった。


「あ、それと買い物も一緒にしたいのですが」

「おうっ、何が欲しいんだい」


 手に入れた装飾品の山をうっとりと眺める店主に声を掛ける。


「そうですねえ……」


 店の中には壺やら碁盤やら、中には柄の折れた鋤など、使い道がわからない物まで色々と雑然と置いてある。

 芙茗はぐるりと見回し、その中のひとつを指さした。


「こちら、お願いします」

「はえ?」


 芙茗の指は、店主を指さしていた。




        ◆




 馬の蹄の音が大地に響き、頭上の高いところで旋回するトンビの、笛のようなピーヒョロロという鳴き声が空に響く。


 春の長閑な空気の中、芙茗は荷車の荷台で、遮る物がなにもない世界をぼうと眺めていた。


 芙茗が町を出てから、随分と経っていた。太陽の陽射しはすでに朝の柔らかなものから、生きとし生けるものに活力を与える力強いものへと変わっている。


「それで、京州ケイシュウまで何しに行くんだって?」


 御者台で馬の手綱をとっていた男が、肩越しにチラと芙茗を見やった。


 換金を終えた芙茗は、ちょうど町に来ていたかくしょう――物資を運ぶ商人――と行き先が同じということを知り、換金したての銭を払い荷車に乗せてもらっていた。


 客商なのに荷車がすっからかんなところを見ると、町へは農産物の買い付けではなく、品を卸しに来たのだろう。おかげで、足を伸ばして荷台に座ることができて助かった。


「京州へは、州試を受けるために」

「州試って、あんた官吏を目指してるのか!」


 男は、今度はしっかりと振り返って、芙茗を頭のてっぺんから足の先までまじまじと見つめた。その目はまん丸に見開かれており、口からは「はぁぁ」と、感嘆と呆れ半々といったため息が漏れている。


 おそらく、お古感丸出しの格好を見て、『こんな金もなさそうな奴が!?』と思っているのだろう。


 男はもう一度視線を芙茗の上から下まで往復させると、「まあ、頑張りなよ」と適当な応援を口にして前を向いた。


 官吏――中央政府の役人――になるには、科挙という試験を受けなければならないのだが、その前に各地で州試という選抜試験が行われる。これに合格した者だけが、王都で行われる科挙を受験することができるのだ。


 厳密には、科挙の受験資格を得る方法は他にもあるのだが、今の芙茗にはこの道しかない。




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