第2話 どうぞ探さないでください②


 次の日の朝、尼姑の絶叫が寺院内に響き渡った。


「ど、どうしたの!?」

「何があったのですか!?」


 バタバタと他の尼姑達も悲鳴の元――芙茗の部屋へと駆けつける。そして最後に、一番高位であり、頬と眉間に深い皺が刻まれたが重々しい足取りで部屋に入ってきた。


ショウ様……」


 照様と呼ばれた比丘尼は「何があったのです」と言いかけ、部屋を見回して異変に気付いた。


「……茗茗がいませんね」

「そ、それが茗茗は……」


 半泣きになった尼姑が震える手で、一枚の手紙を比丘尼に差し出した。


「私が来た時には、それだけが机に置いてあり……」


 受け取り視線を落とした比丘尼は、次の瞬間、「な゛っ!」と尼姑達でもはじめて聞く野太い驚声を上げた。


 するとそこへ、尼寺には相応しくない声が入ってくる。


「どうした、何やら騒がしい様子だが」


 比丘尼の野太い声など可愛いと思える、低く逞しい男声だ。


「ハハッ、尼姑も普通の女人と同じように、バタバタと足音を騒がせるもんなんだな。寺も世俗と変わらなんな」


 声と一緒にひとりの男が部屋に入ってきた。

 比丘尼を含めた女人達が皆、その場で膝を折る。


 男は年の頃は二十半ばと、顔には青年の若々しさがあった。男は他を圧倒するような大きな体躯に長い髪を靡かせ、纏う羽織は一点の汚れもない白さで、袖や衿には金糸で龍の刺繍が施してある。


「それで、はどこにいる。わざわざ、俺自ら迎えに来てやったんだが」


 比丘尼は眉間の皺を深め、口角をぐぐっと下げると、手にしていた紙を男に手渡した。


「――っ!」


 男はグシャリと紙を握りつぶした。


「どういうことだ……っ」


 紙を握る拳は震え、声には苛立たしさが溢れている。

 男の声に尼姑達は肩をビクッと跳ねさせ、比丘尼もさらに頭を深く垂れた。


「申し訳ございません、……っ」




 

【お母様、妹達へ


 雄廉との結婚話がなくなりましたし、これ以上寺院にご迷惑は掛けられません。


 せっかく雄廉とお話をつけてもらったのに、申し訳なく思います。


 この先、そのような話があったとして、どうかそれは妹達にお願いします。


 きっとこの先、嫁のもらい手もないでしょうし、年長者の私は妹達の漬物石にはなりたくありませんし、この際、ひとりで生きていこうと思います。


 もう小娘じゃありませんもの、心配なさらないでください。


 今までありがとうございました。

 

 どうぞ、探さないでください。


 芙茗より】




――――――――――

新連載です。

明るい感じでやっていきますので、また楽しんでくださると嬉しいです(^^)

お仕事もの✕恋愛✕トラブルミステリーな感じです。

毎日1話、【21:10】更新です。


よろしくお願いいたします。

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