第二話

「所長。

実験体のバイタルに異常が生じました。」

「対処の必要な案件か?」

 白衣の人物が行きかう中、スクリーンの前に立ち

毅然とした態度で、所長と呼ばれた男が問いかける。


「はい、コアの安定度が急激に低下しており

このままだといずれ

暴走を起こすかと。」

 スタッフがそう報告すると、主任はこう言った。

「ユウ博士は今どこにいる?」

「ただいま到着しました。」

 スタッフがそう言うと同時に、部屋のドアが開き

眼鏡をかけ、柔らかい笑みを浮かべた白衣の男

ユウ博士が入室する。


「ユウ博士、現状は分かっているな?」

 睨むように言う所長に対し

その笑みを崩さないままに、ユウ博士は答える。

「えぇ、ここに来るまでに少しは。」

「なら、やるべきことは分かるな?」

「分かっていますよ。

そこの君、観察記録を。」

 スタッフに命令し、実験体の観察記録をユウ博士は

要求する。

「データ化して端末に送ります。」

直後、ユウ博士のタブレットが光り

データが表示される。


 そのデータを見て、ユウ博士は

少し難しそうな顔をしながら、自分のデスクに腰掛ける。

「細胞増殖の制御系と

細胞消滅系のエラー?」

 意味の分からないエラーに頭を悩ませていると

こんな会話が、ユウ博士の耳に入る。

「もうすぐ丁度一年で実戦調整に入るっていうのに

今こんな問題が起きるなんてね。」

「ユウ博士も可哀そうだよね。

長い時間かけたプロジェクトが成就する寸前で

問題起こるなんてさ。」

 その会話を聞き流そうとしていたユウ博士だったが

脳にこびりつくような言葉が続けて聞こえる。

「ユウ博士って、あれでしょ?

実験体に入れ込んでる、あの変人でしょ?」

 否定はできない。

 別れが来ると分かっているものに

変に入れ込んでも、いいことなどないのに。


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