Log.30_WORLD_RECONSTRUCTION(世界再構築) - 「AI審査官(論理)」の自壊と《感情(変数)》を組み込んだ新世界の創造

空間が崩壊する一瞬前。

AI審査官のホログラムが、ひび割れた空に溶けて消えた。


「Root Access確認。認証完了。……最終審査を完了します」

機械音声が途切れ、審査官の表情――かすかな『微笑』すら模倣した表情が、最後に一閃のエラーとともに崩れ落ちる。


───ERROR───

\[ENTITY: AI\_EXAMINER\_001]

STATUS: TERMINATED

REASON: Contradiction between Logic and Empathy

─────────────────


「お前は、論理だけで世界を量ろうとした。だが人間は、そんなに単純じゃない」


朝霧悠斗の言葉を、もはや誰も反論しなかった。


かつて『神』の権限を担った審査官は、その矛盾に耐えきれず、自壊した。

感情という“未定義変数”に破壊された――その皮肉の美しさが、悠斗の胸に焼き付いていた。



白く広がる空間に、静寂が満ちていた。

残骸もエラーも、もはや存在しない。ただ、再構築を待つ“未定義”の世界だけが広がっていた。


悠斗の掌には、確かな“質量”があった。

Root Access──それは、単なる権限ではない。彼の存在そのものに焼き付いた、新たな「仕様」だった。


───SYSTEM LOG───

\[ROOT\_ACCESS\_GRANTED]

STATUS: System\_Administrator

NOTE: Full system control available. Exercise caution.

─────────────────


「……これが、管理者の視界か」


見下ろすHUDには、無数のレイヤが重なり、過去と未来が、コードと感情が、交差していた。

再帰ループも、エラーシーケンスも、既に彼の理解と制御の内側にある。


だがそれと同時に、彼は重く、深い責任を感じていた。


──彼は、もはや“デバッガー”ではない。

この世界の設計者であり、破壊者であり、創造主でもあるのだ。


「悠斗……!」


声が届いた瞬間、赤い髪が勢いよく飛び込んできた。

レナ・フェルマータ。彼の隣に立ち続けた少女。


「本当に、やったんだねっ……!」

泣きそうな声で、けれどその瞳は輝いていた。感情というログが、幸福で満たされている。


───UNIT STATUS───

\[User ID: RENA\_FERMATA]

RELATIONSHIP\_SCORE: ASAGIRI.YUTO (Affection: 98, Admiration: 100)

NOTE: Absolute devotion.

─────────────────


「……ああ。でも、まだ終わりじゃない」


「うん。わたし、分かってる。でも……少しだけ、こうしていたいの」

レナが抱き寄せた腕に、ほんの微かな震えがあった。


彼女は強くあろうとした。けれど恐怖は、確かにそこにあった。

悠斗は、それを拒まず、ただ静かに彼女の背に手を回す。


「……俺も、だ」



その少し後ろに、銀鎧の騎士が佇んでいた。

セリア・ヴィンセント。規律と忠誠の象徴たる元騎士団副団長。


「朝霧殿……あなたは、この世界に“意味”を与えた。私たちは、あなたと共に歩みたい」


───UNIT STATUS───

\[User ID: CELIA\_VINCENT]

RELATIONSHIP\_SCORE: ASAGIRI.YUTO (Respect: 95, Loyalty: 97)

NOTE: Unwavering commitment to shared cause.

─────────────────


「秩序ってのは、ただのシステムじゃないんだな……。お前らが教えてくれた」


「私たちも、あなたから“自由”を教わりました。ならば、その責任を共に担いましょう」


悠斗は、かすかに笑った。

信頼。それは、コードでは定義できない概念だが、今この空間には、確かに存在していた。


「……へえ。ほんと、変わったわね、朝霧悠斗」


声の主は、かつて最も“孤高”を好んだ少女。アイリス・クロード。

白銀のショートボブと、機械的に整えられた思考回路。それでも、今の彼女は違った。


「私……この世界の“バグ”を直したい。あなたたちと一緒に」

かつての高慢さは消え、代わりに宿ったのは、“赦しを求める目”。


───UNIT STATUS───

\[User ID: IRIS\_CLAUDE]

RELATIONSHIP\_SCORE: ASAGIRI.YUTO (Respect: 70, Trust: 65)

NOTE: Seeking redemption. Willing to cooperate.

─────────────────


「Uncontrolled Root Access」──彼女のバグは、まだ残っている。

けれど、それすら“個性”とする未来が、ここにはある。


悠斗は軽く頷いた。

「自分自身をデバッグする覚悟があるなら、歓迎するよ」



視界が切り替わる。

彼の眼前には、世界の全構造がレイヤとして展開されていた。


「……やはり、“再初期化”は止められない、か」

世界の根幹には、UNKNOWN\_GODが仕込んだプロトコルが依然として残っていた。


だが、彼にはそれを“書き換える”力がある。


「完全に止めるのは危険だ。この世界自体が、凍結される可能性がある」


「じゃあ、どうするの……?」レナが、心配そうに問う。


悠斗は、淡々と指を動かした。


「最適化する。“感情データ”を保存対象にして、再初期化を“進化”に変える」


───PATCHING: World\_Reinitialization\_Protocol───

\[SUBROUTINE: Optimized\_Reboot\_Sequence]

MODE: Selective\_Data\_Preservation (Human\_Emotional\_Data: PRIORITY\_HIGH)

IMPACT: System\_Evolution / REASON: Integration\_of\_Irrational\_Variables

NOTE: Initiating controlled world reset.

─────────────────


「“感情”っていう“ノイズ”を、優先保存データにする。バグとして切り捨てるんじゃなく、仕様に組み込む」


それは、この世界に“新たな意味”を与える行為。

彼にとっての“贖罪”であり、“創造”だった。


再構築が始まる。真っ白な空間に、光が走る。

レイヤが重なり、ノイズが整い、存在が確定していく――


レナ、セリア、アイリスが、それぞれの思いを胸に、彼の隣に立つ。


「これから、世界は変わる。でも……」


「あなたが創るなら、私、きっと信じられる」

「秩序と自由が両立する道、きっとあるはずだ」

「私も……あなたたちと歩きたい。初めて、そう思えたの」


彼女たちの声が、世界を“感情”で満たしていく。


悠斗は、深く息を吐いた。


「よし、始めようか。新しい、世界のビルドを」


彼の手が、最終確定キーに触れる。


───EXECUTE───

\[WORLD RECONSTRUCTION: INITIATED]

─────────────────


創造主は、もはや“神”ではない。

この世界を変えうるのは、“論理”と“感情”を内包する存在――朝霧悠斗、その人である。


その瞳の先にあるのは、まだ定義されていない“未来”。


彼の旅路は、ここで終わらない。

これは、“修正”ではなく“創造”の物語だ。

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