『スキルの裏に潜むバグを直したら、異世界の理まで書き換えられる件』──この世界は、動いている。コードのように。
Log.13_EXPLOIT(脆弱性) - 「神速」に潜む遅延と《絶対防御(バグ)》の突破
Log.13_EXPLOIT(脆弱性) - 「神速」に潜む遅延と《絶対防御(バグ)》の突破
───SYSTEM LOG───
\[MODE: Combat Observation / Target: AARDLEY\_VON\_GRANT, CELIA\_VINCENT]
STATUS: Running...
──────────────────
模擬戦を告げるホイッスルが、訓練場に鋭く響いた。
観客席では貴族騎士たちが気炎を上げ、戦場の空気は、既に熱狂と支配の色に染まっていた。
アードレイ・フォン・グラントが、剣を構えるセリアに薄ら笑いを浮かべる。
「せいぜい、このアードレイ様の剣の錆になれ、下民の分際でな」
その声には、明確な「上下」の認識があった。
彼の言葉に、数人の取り巻きが嘲笑を返す。セリアを“見下ろす”空気が、場を支配していた。
───UNIT STATUS───
\[User ID: AARDLEY\_VON\_GRANT]
SKILLS: Divine\_Sword\_Technique (Lv.5), Noble\_Lineage (Passive)
BUG: False\_Strength\_Assertion, Legacy\_Code\_Integration
NOTE: System integrity unstable. Overconfidence threshold exceeded.
──────────────────
悠斗の視界には、赤いエラーフラグが点滅していた。
セリアの過去の記憶──評価されなかった努力、踏みにじられた忠義──が、この場に「バグ」として累積している。
だが彼女は、静かだった。
無駄のない構え。深い呼吸。脳裏に浮かぶのは──
「呼吸を、もう少し深く」
あの男の言葉だった。
◆
──前夜。
セリアは訓練場裏の焚き火を前に、静かに剣を磨いていた。
その横に、悠斗が座った。何も言わず、火の音だけが響いていた。
「昔、一度だけ、模擬戦で心が折れたことがあるんです」
「理由は?」
「……私より下手な貴族の子息が、上官に褒められたんです。私は完璧な受けに徹した。でも、“目立たない”と却下されました」
「合理性のない評価指標、ってことか」
「はい。私は数字で強さが決まるなら、証明できると思っていました。でも──あのとき初めて、“証明しても無駄な世界”があると知りました」
悠斗は言葉を返さなかった。代わりに、自分のHUDを表示してみせた。
───BUG LOG───
\[BUG: Socio-Cultural Authority Bias Detected]
SCOPE: Systemic / Reproducible / Multi-Nodal
──────────────────
「“証明しても無駄”な構造ごと、俺が変える。それが最適解だ」
セリアは黙って頷いた。火が、わずかに揺れた。
◆
──訓練場、現在。
アードレイが動いた。
「神速の突き〈ゴッドスピード・スラスト〉!」
稲妻のような突き。観客席から歓声が上がる。
だが悠斗のHUDには、ある文字が点滅していた。
───ACTION WARNING───
\[Skill: Godspeed\_Thrust]
BUG: Input\_Lag
NOTE: Pre-computation delay. Exploitable by predictive movement.
──────────────────
「――無駄だよ」
悠斗の指が、空気をなぞるように動く。視界のコードが再編され、アードレイの演算に0.2秒の“乱数”が注入される。
次の瞬間。
セリアの剣が、最小限の角度でアードレイの剣を逸らした。
「なっ……!?」
アードレイの顔に、初めて“理解不能”の色が走る。
セリアの動きに、彼の完璧なシナリオが“齟齬”をきたした。
だが、それはまだ始まりに過ぎない。
「絶対防御〈アブソリュート・ディフェンス〉!」
アードレイの全身が光の膜に覆われる。観客たちが安堵の息を漏らす中、悠斗のHUDが新たな警告を叩き出す。
───SKILL DATA───
\[Skill: Absolute\_Defense]
BUG: Frame\_Skip\_Vulnerability
NOTE: Vulnerable frame at 0.01s post-activation.
──────────────────
「……やれるか?」
悠斗は、セリアの行動予測ラインを組み立てながら、ほんの僅かに“サジェスト”を投げる。脳に直接コードが流し込まれるような感覚が、セリアの意識を刺激する。
セリアは無意識に構えを変えた。
彼女の剣は、“彼女のもの”でありながら、“かつてない動き”を持っていた。
「──今なら、届く気がする」
刹那。
光の防御膜を突き破るように、セリアの一撃がアードレイの脇腹をかすめた。
「ぐっ……!」
わずか数センチ。されど“絶対防御”に傷を刻んだ現実が、観衆に戦慄を与える。
───ERROR REPORT───
\[BUG: False\_Strength\_Assertion - CRITICAL]
EGO\_CORRUPTION: Escalating
──────────────────
アードレイのステータスが赤く染まっていく。
彼の虚飾の剣が、今まさに崩れようとしていた。
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