Log.13_EXPLOIT(脆弱性) - 「神速」に潜む遅延と《絶対防御(バグ)》の突破

───SYSTEM LOG───

\[MODE: Combat Observation / Target: AARDLEY\_VON\_GRANT, CELIA\_VINCENT]

STATUS: Running...

──────────────────


模擬戦を告げるホイッスルが、訓練場に鋭く響いた。

観客席では貴族騎士たちが気炎を上げ、戦場の空気は、既に熱狂と支配の色に染まっていた。


アードレイ・フォン・グラントが、剣を構えるセリアに薄ら笑いを浮かべる。


「せいぜい、このアードレイ様の剣の錆になれ、下民の分際でな」


その声には、明確な「上下」の認識があった。

彼の言葉に、数人の取り巻きが嘲笑を返す。セリアを“見下ろす”空気が、場を支配していた。


───UNIT STATUS───

\[User ID: AARDLEY\_VON\_GRANT]

SKILLS: Divine\_Sword\_Technique (Lv.5), Noble\_Lineage (Passive)

BUG: False\_Strength\_Assertion, Legacy\_Code\_Integration

NOTE: System integrity unstable. Overconfidence threshold exceeded.

──────────────────


悠斗の視界には、赤いエラーフラグが点滅していた。

セリアの過去の記憶──評価されなかった努力、踏みにじられた忠義──が、この場に「バグ」として累積している。


だが彼女は、静かだった。

無駄のない構え。深い呼吸。脳裏に浮かぶのは──


「呼吸を、もう少し深く」


あの男の言葉だった。



──前夜。


セリアは訓練場裏の焚き火を前に、静かに剣を磨いていた。

その横に、悠斗が座った。何も言わず、火の音だけが響いていた。


「昔、一度だけ、模擬戦で心が折れたことがあるんです」


「理由は?」


「……私より下手な貴族の子息が、上官に褒められたんです。私は完璧な受けに徹した。でも、“目立たない”と却下されました」


「合理性のない評価指標、ってことか」


「はい。私は数字で強さが決まるなら、証明できると思っていました。でも──あのとき初めて、“証明しても無駄な世界”があると知りました」


悠斗は言葉を返さなかった。代わりに、自分のHUDを表示してみせた。


───BUG LOG───

\[BUG: Socio-Cultural Authority Bias Detected]

SCOPE: Systemic / Reproducible / Multi-Nodal

──────────────────


「“証明しても無駄”な構造ごと、俺が変える。それが最適解だ」


セリアは黙って頷いた。火が、わずかに揺れた。



──訓練場、現在。


アードレイが動いた。


「神速の突き〈ゴッドスピード・スラスト〉!」


稲妻のような突き。観客席から歓声が上がる。

だが悠斗のHUDには、ある文字が点滅していた。


───ACTION WARNING───

\[Skill: Godspeed\_Thrust]

BUG: Input\_Lag

NOTE: Pre-computation delay. Exploitable by predictive movement.

──────────────────


「――無駄だよ」


悠斗の指が、空気をなぞるように動く。視界のコードが再編され、アードレイの演算に0.2秒の“乱数”が注入される。


次の瞬間。


セリアの剣が、最小限の角度でアードレイの剣を逸らした。


「なっ……!?」


アードレイの顔に、初めて“理解不能”の色が走る。

セリアの動きに、彼の完璧なシナリオが“齟齬”をきたした。


だが、それはまだ始まりに過ぎない。


「絶対防御〈アブソリュート・ディフェンス〉!」


アードレイの全身が光の膜に覆われる。観客たちが安堵の息を漏らす中、悠斗のHUDが新たな警告を叩き出す。


───SKILL DATA───

\[Skill: Absolute\_Defense]

BUG: Frame\_Skip\_Vulnerability

NOTE: Vulnerable frame at 0.01s post-activation.

──────────────────


「……やれるか?」


悠斗は、セリアの行動予測ラインを組み立てながら、ほんの僅かに“サジェスト”を投げる。脳に直接コードが流し込まれるような感覚が、セリアの意識を刺激する。


セリアは無意識に構えを変えた。

彼女の剣は、“彼女のもの”でありながら、“かつてない動き”を持っていた。


「──今なら、届く気がする」


刹那。


光の防御膜を突き破るように、セリアの一撃がアードレイの脇腹をかすめた。


「ぐっ……!」


わずか数センチ。されど“絶対防御”に傷を刻んだ現実が、観衆に戦慄を与える。


───ERROR REPORT───

\[BUG: False\_Strength\_Assertion - CRITICAL]

EGO\_CORRUPTION: Escalating

──────────────────


アードレイのステータスが赤く染まっていく。

彼の虚飾の剣が、今まさに崩れようとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る