043 新月①
「申し遅れました。私は神の代理人であり、神罰の執行者。名はありませんが……そうですねえ、『新月』とでもお呼びください。」
「シンゲツ…………うーん、聞いたことないね。カミってのも誰なんだかピンとこないや。ハーシェルはわかる?」
「……そんなことどうでも良いだろうが。おいてめえ、よくもカスみたいな真似してくれたな。」
「ぼっーと突っ立ってねえでてめえも怒れよ、異世界人とやらもよぉ!」
「……!あ、ああ。すまん。ちょっと考え事をしてた。」
今のやりとりの中で気になることもあったが、それは後回し。未だ泥沼に足を取られ、抗っている二人を視界に入れ、深い呼吸をする。
「……いつからだ?」
「いつから。とはどういった意味で?」
新月って奴はニタリと気持ち悪い笑みを浮かべる。沸々と込み上げてくる怒りをどうにか抑えながらそいつを睨む。
「操ることができるんなら、行動の誘導だってできるんじゃないかって話だ。」
「リベルテを出て一晩明けた辺りから佳澄の様子がおかしかった。エルファスに入ってからの、ガープスやマリの行動に白藤の動揺。メーフィの、まるで人が変わったかのような憤怒。お前らのせいじゃねえのか?」
……駄目だな。押さえ込もうとしてもちょっと許せそうにない。これは明確に一線を越えている。剣に岩を纏わせ、対してありもしない筋肉を無理に動かしてでも剣を振り上げ……!
「胴がガラ空きですよ。武術の基本も忘れましたか?」
冷たい槍が右から左に振り払われる。通り道にあった俺の腹は少し凍っているものの、傷は……何もない。
「おっと、いけませんいけません。あなたは"そう"なのですから、こちらもそれにあった攻撃をすべきでしたね。いやぁ、失敬失敬。」
「……もしかして、もう気づいてましたか?自分がマイノリティであり、異常であることについて。」
「お前、何を…………!」
「愚かしいですねぇ。その、威勢。」
槍を持っていたその右手ばかり視界に入れていたせいで、死角からの左手に気づかず、そのまま首を握られる。このヒンヤリ通り越してカチコチな感触……まさか!
「外傷が付かないのなら内側に焦点を移す。容易容易、大いに容易。これができなかったなんて……。おや、逃げていましたか。」
「?…………あ!本当だ!メーフィ、いつの間にかどっかいってる!」
星月夜のメーフィとやらは……混乱に乗じて抜け出してたみたいだ。……こんなあっという間に……コソコソ逃げおおせるなんて、魔王軍幹部……なんて肩書きが恥ずかしくなるぞ。
というか……気道が冷えていくのが直に伝わり……恐怖を誘うな。冷えてきたからか知らないが無性に眠くなってしまう。
「……イヤ!………………せて!」
「…………マイ……。そんな……を…………。」
遠くの方で……レイシャとハーシェル……が、なにやら……重要なことを叫んで…………いるみたいだ。けど、それもモヤがかかったようで碌に聞こえない。
モヤがかかったよう……つい最近そんな思いをしたばかりだってのに……。また……かかっちまう…………なんてな。
「体の位置を入れ替えて。リバース。」
ああ、体の感覚というのがなくなってきているようで、いつの間にか地に伏していた。大自然の暖かさを感じるな。
……地の温かさっていうか、俺横になってないか?さっきまで首をがっしり掴まれて氷漬けにされようと……。
「私こそが爆弾兵。いまこそ身を爆ぜて道を拓くとき。ブレイブリーボンバー。」
何が起こったのか理解を追いつかせようとしていたら、真後ろあたりで爆発が起きる。この声、まさか……!
「光の大精霊の巫女の家系……まさかそれで!」
「ライヤ様は……私がお守りします。」
操られていたはずのマリ・プリズマイトがあたかも何も起きなかったかのように、爆発を喰らった新月が見上げていた。
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