第28話:灰の王、亡者たちの序列
奈落の門が静かに閉じた。
その瞬間、骸骨の足元から灰色の霧が立ち昇り、世界の色が淡く歪んでいく。
彼の身体には、もはやただの骨ではない“質感”が宿っていた。
骨の表面には黒い文様が浮かび、目窩には赤く燃える意志が灯る。
《進化完了──階位【灰の王】へ到達》
《自律権限拡大──亡者統制能力解放》
《スキル【死喰ノ咆哮】が派生進化します》
骸骨──いや、もはや“灰の王”と化した彼は、静かに拳を握る。
力はある。だが、それをどう扱うかが試される段階に入った。
「……王。貴様が?」
声がした。闇の中から、同じく骸の姿をした存在が現れる。
しかしそれは、明らかに“異なる”。眼光には獣のような知性がなく、ただ命令を待つ駒のようにたたずんでいた。
「これは……」
《亡者階層:第三階位・無言の従者》
続いて、さらに三体。
骸骨のようで骸骨ではない、腐敗しきった肉をまとった亡者が姿を現す。
各々が、王たる存在の命を受けるために這い出てきたかのようだった。
そして通知が入る。
《灰の王は、死者の列を正す権能を得ました》
《序列構築モード開始》
“王”とは支配する者である。
それは命令ではなく、意志による掌握。
彼らは生きた言葉では従わない。魂の奥底にまで届く、“王の在り方”が必要なのだ。
「……俺が王なら、まずはお前たちに“名”を与えるところから始めよう」
骸骨は、無言の従者のひとりに近づく。
手をかざすと、その存在にうっすらと蒼い光が灯った。
「──お前は、ラズ。死の中でも剣を手放さなかった者」
それは記録ではない。ただの命名でもない。
王として、亡者の魂に“意味”を与える儀式だった。
一体、また一体と名を授かり、彼の元に跪く。
《ユニット登録:ラズ/サヤ/ベンノ/グロス》
《眷属階位:灰王の従僕(しもべ)》
そして四人目に名を与え終えた瞬間、空が唸った。
――バキィィィィン!
奈落の上空を引き裂くような“光の亀裂”が走る。
そこから現れたのは、一体の禍々しい装飾を纏った亡者。
「ようやく“王”が現れたか。待ちくたびれたぞ、灰の新王よ」
その声には、殺気と嘲笑が同居していた。
剣を携え、亡者にはあるまじき“自我”を宿したその存在は、ただの敵ではない。
《灰王階層:旧王位保持者/四骸王の一角・トゥルク》
「かつての“灰王”だと……?」
「かつて? 違うな。今なお私は“灰”を喰らう王よ。貴様ごときが、“王”の名を騙るな」
剣を抜く音が空を裂く。
それはまさに、“王位継承”を巡る死者同士の戦いの始まりだった。
骸骨は剣を抜かぬまま、一歩前に進む。
「なら、奪うまでだ。お前の“座”を、力で証明してみせよう」
骸骨と旧王が激突した。
亡者の王国に、今、真の“序列”が刻まれようとしていた。
あとがき
ここからはいよいよ“王国”としての段階へ進みます。
単なる力の進化ではなく、支配と統制、そして“王の器”が問われるフェーズです。
次回は旧王との激突。魂を剥がすような戦いを描きます。
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