7話 改革提案と会議のリアル

「で、これはなんだ?」




魔王ルシファリウスの声が、静かに会議室に響いた。




重厚な魔黒木こくぼく製の円卓。


その中央に、俺が提出した分厚い資料がずっしりと置かれている。




表紙には、シンプルな題名――


『魔王軍内政改革案 第一稿』




今日の会議は、魔王陛下の御前で行われる、いわば「公開試験」のようなものだった。


中央文官団、各軍将官、第一魔女官のリリス様に加え、珍しく陛下自身も参加している。




俺は深く一礼してから、口を開いた。




「本日は、魔王軍の内政と組織運営に関する現状の課題、




そしてそれに対する具体的な改革提案についてご説明させていただきます」




会議室の空気は重かった。




なぜならこの場にいる多くの者たち――特に年配の将官たちは、俺のような“突然現れた異世界人”が、


伝統ある魔王軍に“口を挟む”ことに対して明らかに懐疑的だったからだ。




案の定、始まってすぐに声が飛んだ。




「ほう……“出退勤管理の義務化”とな? 貴様、我らに人間の帳簿ごっこでもさせる気か?」




不快げに言い放ったのは、百戦錬磨の古参将・ゾルム。


灰髪を後ろで束ね、常に鎧を纏っている彼は、陛下からの信頼も厚い。




だが俺は微笑んで、反論した。




「人間の“帳簿ごっこ”ではなく、“戦略的リソース管理”です。


現在、各部隊の稼働率が明確でないため、戦力の再配分や人材教育の判断が困難になっています」




「机上の理屈だ。現場の事情を無視している」




「いえ、現場こそが主役です。だからこそ、数字と実態を結び付ける基盤が必要なのです」




俺は次のページを開き、図を示す。




「たとえば、昨年の東部防衛線における兵站支出。予算に対して実支出が125%を越えています。


しかし、それを裏付ける戦果報告はわずか6件。これは“使途不明金”の可能性がある」




「……!」




会議室にざわめきが走った。




「我々の改革は、現場の負担を減らすことが目的です。


“正直に働く者が報われる体制”を作りたい。それだけです」




俺は頭を下げた。




議論は約2時間にわたって続いた。




● 魔導資源の流通管理


● 兵の定期訓練の標準化


● 将官の再任評価制度の導入


● 予算申請の簡素化と透明化




反発もあったが、驚いたことに、若い文官の一人がこう言った。




「……俺は、賛成です。これまで資料を提出しても誰も見てくれなかった。でもこの案なら、評価される仕組みになる」




続いてリリス様も静かに口を開いた。




「確かに、手間は増えるかもしれない。でも、“職場で泣かなくていい世界”があるなら、私はそれを選びたいわ」




その言葉に、場の空気が少しだけ変わった。




会議の最後、魔王陛下が立ち上がった。




「改革案は、受理する。ただし――これはあくまで“試験導入”とする」




「……!」




「三ヶ月で成果を示せ。結果が出なければ、そのときは――この改革も、秘書も、いらぬ」




俺は立ち上がり、胸に拳を当てて頭を下げた。




「かしこまりました、陛下。必ず、結果をお見せします」




ルシファリウスはニヤリと笑った。




「この会議、なかなか面白かったぞ。お前は“喧嘩腰の官僚”には向いているようだな、秘書」




会議終了後、リリス様が控室で声をかけてくれた。




「……少しは、魔王城にも“風”が入ってきたかもね」




「風?」




「うん。“変わる”ってことは、息苦しさと背中合わせ。でも、風が吹かなきゃ、空気は腐るでしょ」




俺は少し笑って答えた。




「風を吹かせるには、扇風機だけじゃ足りませんね。……嵐ぐらい起こさないと」




リリス様が小さく吹き出した。




「あなた、魔王より魔王っぽいわね」




さて。




改革は、始まった。


だがこれは、まだ「資料を通した」だけの段階にすぎない。




次に待っているのは、


“対立勢力”との交渉――そして、“実行”だ。

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