連絡して断られたってそれはそれでよい、と今の俺は思う

俺は、世界史学習帳に描かれた太平洋上の奇妙な落書き「酒」の文字を見つける。友人からの返信で、「酒」が「酒井」のことではないかという指摘を受ける。そして、高校二年生の冬に転校してしまった憧れの酒井陽毬のことを思い出す。当時、転校を知って呆然とした俺は、世界史の授業中に酒井の名前を書こうとしたものの、自分の気持ちに気づくのが怖くて「酒」で止めてしまったのだった。
今連絡をしても、世界史を揺るがす事件にはならないし、断られたらその時までの事。もし高校時代のまま男同士みたいな友情で終わったとしてもそれはそれで良いと俺は思い、「酒」の字の後に「井」の文字を付け加えた。
紙の教材を選んだ先生の意図「人との距離なんて実はすごく近い」を思う。
この俺は、きっと彼女に連絡を取るのでしょうね。お題の「酒」が飲む「酒」ではなくて、彼女の「名前」でしたね。すごくおもしろい小説。