第31話 思わぬ告白
「わぁ!すごい!」
「最後の夜は花火がいいかなと思いまして」
各々好きな花火を掴んで、火を点けていく。
「危ないから振り回したりしちゃダメだからね」
私がそういうと「はーい」と弟たちは元気に返事はするが、視線は花火に釘付けだ。
「ったく、返事だけはいいんだから」
苦い表情をした私に
「まぁまぁそんな顔せずに楽しもう」
航平に促されて、花火を火をつける。
赤、黄、緑、青と次々に色が変わって行く。
「あ…」
そしてあっという間に終わってしまう。
綺麗だけど儚いなと思いながら、次の花火をとろうすると、
海生は怖いのかへっぴり腰だ。
そんな海生を岳が後ろから花火を一緒に持っている。
「大丈夫だ、俺がそばにいる。絶対怖くないから」
海生は怯えながらも花火を少しずつ火に近づけていく。
花火に火がついて、パチパチとカラフルな花を咲かせる?
「やるじゃん!」
岳に言われて嬉しそうに海生はこちらを自慢げに見て手を振っている。
「すごい、すごい」
私も手を振ると、近くのベンチに腰かけた。
弟たちのことは任せても大丈夫そうだ。
楽しそうな弟たちを見ていると、本当に来てよかったと思える。
(お母さん、私達幸せだよ)
空を見上げると、星が瞬いたように見えた。
「何してんだ?」
岳は隣にどかっと座った。
「ちょっと疲れたなぁーと思って」
「いつも弟たちを一人で見てるんだよな」
「そうだよー、いつも振り回されっぱなし」
「お前の親はどうしてんだよ」
「お母さんは小さい時に亡くなったし、お父さんはお母さんが亡くなったのが受け入れられなくて放浪してる。毎月お金は振り込まれてるからどこかで生きてるんだろうね」
「なんだよ、それ」
「私もそう思う。お父さんのことは今でも許せない。でも…」
弟たちのはしゃぎ声と青波が楽しそうに遊んでいるのが目に入る。
「でも今私は幸せだよ。弟たちとこうやって楽しく元気に過ごせているし、青波くんとはお父さんがいたから会えたわけだしね。そう考えたら、岳もか」
「・・・呼び捨てかよ」
「まぁ今の現状に嘆いても仕方ないし、運のいいことに私は周りに恵まれているから、助けてもらえてるしね」
「遊びたいとか思わないのか?」
「今遊んでるじゃん。岳のおかげだよ、ありがとう」
「いや、別に俺がここに来るついでだし」
「ついででこんだけの人呼ぶって無理あるでしょ」
「う、うるせー」
「顔赤いよ?」
「見るな、こっちを」
「渚―!津久井!」
航平に呼ばれていくと、線香花火を渡された。
みんなで円になって、火を点けていく。
「花火の火種を落とさずに最後まで残った人が勝ち。線香花火は願いが叶うと言われているから、しっかり願いを込めるんだよ」
航平に言われて、願いを込めて花火に火を点けていく。
火種が落ちないように弟たちは真剣に自分の線香花火をみている。
なんだかその姿が面白い。
私は何を願おうかと考えながら、線香花火を眺める。
花火がパチパチと様々な形に変わりながら花を咲かせている。
派手ではないが、静かに儚げなのに綺麗に最後まで花を咲かせる線香花火は花火の中でも私は一番好きだ。
一人、また一人と火種が落ちていく。
「あぁ・・落ちちゃった」
海生は悲しそうな声を上げた。
見てみると、残っているのは私と岳と青波だ。
岳は真剣な表情で火種を見ている。
何を願っているのだろう。
「あ・・・」
青波の火種が落ちた。
私と岳の線香花火だけが小さくパチパチと音をさせている。
「ねえねの花火頑張れ!」
海生が声を上げる。みんなも花火を見ながら、楽しそうに声を上げる。
(この時間がずっと続けばいい・・・)
私がそう思った瞬間に、「ぽたり」と火種が落ちた。
「岳兄ちゃんが1位だ」
海里が声を上げる。
やがて岳の線香花火は火種を落とすことなく、静に消えた。
「最後までなんてすごいな」
「日頃の行いがいいからだな」
「それはどうでしょう」
「どういう意味だよ、青波」
「で、津久井は何を願ったんだ?」
航平が岳に問いかけると、岳は少し黙ってこちらを見てきた。
「え?何?」
「俺と渚がずっと一緒にいられますように」
一瞬の沈黙の後に弟たちのギャーギャーと驚いた声が夜空に響いた。
「暑いぃいいい」
「そりゃそうだよ、今年は37度くらいまで上がるみたいだし」
「クーラー欲しい!なぁ、みんな」
海がそういうと、弟たちも大きく頷いている。
「姉貴!クーラー買おうぜ!」
「・・・」
「姉貴!」
「え!あ、ごめん、何?」
「クーラーの話聞いてなかったのかよ」
私は最近なんだか色々考えてしまって、心ここにあらずになってしまうことが多い。
岳に告白されたあの日から、どうも心が落ち着かないのだ。
「今すぐじゃなくていいから、渚が俺と一緒にいたいのかどうか教えてほしい」
あの後岳にはそう言われている。
岳のことは全く考えてなかった。
いけすかない奴だと思っていたが、話すうちに優しいところや子供扱いが上手なところなど様々な良いところが見えてきた。
でも、岳のことはそんな風に見たことがなかったからビックリしてしまった。
「クーラー買わないと病気になりそうだもんね・・」
私もクーラーは買うべきだと思っていた。
海生はまだ5歳だ。
気を付けてはいるが、熱中症が怖い。
「ただお金がなぁ・・・」
そんな話をしているとインターホンが鳴った。
「はーい」
ドアを開けると、青波が立っていた。
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