第27話 勝負再び

海里かいりがつまらなさそうな顔をして、ゲームをしている。

一緒に遊ぼうと声をかけたが、大丈夫と言ってそっぽ向いてしまう。

ツレない態度だ。

海斗かいと青波あおばに連れられて出かけてしまった。

海里はついて行きたそうにしていたが、海斗と喧嘩した手前言い出せなかったようだ。

海斗と海里は歳が近くて仲がいい。

双子のようにいつも一緒にいて、ふざけ合っていた。

そんな2人がしばらく口も聞いていない。

今までも兄弟なのでもちろん多少の喧嘩はあるものの、こんなに長引いたことはない。

仲直りさせたようかとかいに話すとほっておくように言われた。

「下手に姉ちゃんが手を出したら余計に長引くだろ」

そう言って、やめとけと手を振られた。

海二に話した時も「まだ大丈夫だと思うよ」と言ってやんわりそっとしておくように言われた。

海里の寂しそうな姿を見ると心が痛むが、今はほっておくべきなのだろう。

私は背を向けると、今日も大量に積み重なった洗濯に取り掛かった。

海斗のズボンがまた裏返っている。


(そう言えば、海斗は青波と何をしているのだろう)


水着を持っていたから、泳ぎの練習をしているのだろうけど、あの運動オンチを青波は直すつもりなのだろうか。


(青波・・・)

青波が美しい女性をエスコートしている姿が思いだした。

私だけでなく、兄弟にも優しくしてくれる。

それは私が婚約者だからだ。

そうなるとあの女性とはどういう関係なのだろう。

考えても答えは出ないとわかっているのに、ずっと考え込んでしまった。


「ねぇね。ご飯の時間だよぉ」

海生かいせいに言われて時計をみると、12時になっている。

「あ、ほんとだ」

海里の様子をみると、一人で遊ぶのに飽きたのか眠ってしまっている。

「さっさと作りますか」

ご飯を作り始めると、インターホンがなった。

「誰か来たー!」

「海生!待って」

私が出ようとする前に、海生が扉を開けた。

「だぁれ?」

扉が邪魔で誰がいるのか見えない。

「ねぇ、だぁれ?」

海生がもう一度問いかけている。

海生の知らない人のようだ。

貧乏な家に荷物が届くことなどはない。

不審者だったら・・・?

慌てて玄関へ向かうと、気まずそうに下を向きながら男が立っていた。

津久井つくいくん!」


がくを招き入れると、海里はその音に起きて、パタパタと近寄ってきた。

「このお兄ちゃんは誰?」

「これはお姉ちゃんの同じクラスの人」

「これって・・・」

岳はジロジロみられて気まずそうに頭をかいている。

「青の兄ちゃんと同じ?」

「青の兄ちゃんの友達だよ」

そう答えると、ぱぁっと目を輝かせて、岳の腕をとると奥のゲーム部屋へ連れて行こうとする。

「おい、なんだ!?俺は渚に用事が・・・」

「海里、ご飯がもうすぐできるから、遊ぶのはその後にしなさい」

海里は不服そうにしつつも、「はーい」と食卓に着いた。

「津久井くんも食べたら?せっかくだし」

「お、俺はそんな貧乏人の・・」

ぐぅぅ・・・

岳のお腹が鳴って気まずそうに目を伏せた。

「ま、食べてみなよ」


岳はしっかりご飯を食べきると、悪くないと小さくつぶやいた。

「で、今日はどうして家に来たの?」

「この前話した旅行の件だ」

「旅行!」

海里が大きな声を上げた。

「ちょっと!まだ弟たちには話してないの」

弟たちに早くから話して万が一行くことができないなんてなったら困るし、知ってしまったら旅行の日までテンション上がって暴れそうな気もした。

なので、ある程度準備してから話すつもりだったのだ。

「まだ他の子には秘密だよ」

海里にそう言うと、自分だけが知っているという状況が嬉しいのか、口にチャックをする仕草をした。

「で、旅行がどうしたの?」

「日程の確認とあと渚のやりたいことがないか一応確認しておこうかと思ってな」

「一応って」

「海里は海で泳ぎたい!」

「おー、海で泳ぐか!悪くないな」

岳は大きく頷いた。

泳ぐとか海斗のことを思うと、ケンカの火種になりそうなことは避けたいところだ。

「いや、海はねぇ・・・」

そう言おうとしたが、パッと海里は岳の腕を掴むと、「僕と奥の部屋で作戦会議しよう!」と連れて行ってしまった。

岳はかなり戸惑っていたようだが、そのまま強引に連れて行かれてしまった。

「まぁいっか」

海生にそういうと、海生は「?」と首を傾げた。


しばらく奥の部屋からは海里の楽しそうな声と戸惑う岳の声が聞こえていた。

そうこうしている内に、海二、海と帰ってくる。

「おかえりー」

「・・・こいつ誰だ?」

海が岳を指差して不機嫌そうに言った。

「同じクラスの子だよ」

「ほーん」

値踏みするように海はじろっと見ると、「ふん」と鼻を鳴らした。

「青の兄ちゃんの方がいい」

「何を比べてんのよ」

海の一言に嫌な予感がよぎる。

「青の兄ちゃんとは、もしかして青波のことか」

「へぇ、青の兄ちゃんの知り合いか」

「お姉ちゃんと同じクラスなんだから、青波さんとも同じクラスなんじゃない?」

「青の兄ちゃんのような天才と同じクラスなのか」

岳の顔がどんどん赤くなっている。

「あのさ、ちょっと待って。比較するなんて失礼でしょ・・」

なんとか話題を逸らそうとしていると、玄関のチャイムがなった。

天の助けそう思って扉を開くと、海斗と青波が立っていた。


「マズい・・・」


「津久井君!」

「青波!」

二人は驚いた顔をして目を合わせたものの、すぐになぜここにいるのかと言い合いが始まった。

(最悪だ・・・)


その内に海斗と海里まで言い合いを始めた。

「青の兄ちゃんの方が頭がいい!」

「岳の兄ちゃんの方がゲ―ム上手いんだからな!」


「ちょっと、ちょっと待って!」


「こうなったら、決着をつけるしかないようだな、青波」

「僕はケンカはしない主義たけど、今回は引くわけにはいかないようだね」


「いや、待ってよ。うちの弟まで巻き込んでケンカしないで・・・」


「勝負だ!」

青波、海斗と岳、海里で睨み合っている。


私はまた大きなため息をついた。

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