第24話 勝負の行方
教室に入ると、なんとなく空気が違う。
こちらを見るクラスメイトの視線がいつもと違うのだ。
「おはよう」
「おはよう」
「ねぇ、なんか今日空気が違う気がするんだけど・・・?」
「あぁ。今日はテストの返却日だからじゃない?テストで勝負するって
そう言えばそうだった。
あの時は売り言葉に買い言葉でここが教室であることも忘れてしまっていたのだ。
「そういうことか」
「気にすることないよ」
「うん」
そんな話をしていると、がらりとドアが開いた。
「青波くん、おはよう」
女子たちの黄色い声で青波が来たのがわかる。
「おはよう」
青波がそれに答えている。
いつもならそっちを見て、会釈くらいするのだが、今日はできそうにない。
「なんか様子おかしくない?」
「え!そんなことないよ」
慌てて私が答えると、航平はそうじゃないと首を振って、
岳はいつもこちらを睨みつけているか、青波に絡むか、本を読んでいるのだが、今日は下を向いている。
いつもであれば今日はテストの返却日なのだから、「勝負のこと忘れてないだろうな」とかってこちらに絡んできそうなもんだ。
「確かになんか変だね」
幾分か顔色も悪そうだ。
「体調悪いのかな」
キーンコーンカンコーン
朝のチャイムが教室に鳴り響き、担任が入ってきた。
担任の手には紙の束がある。
いよいよ結果発表だ。
早速テストが返却される。
まず1限目は英語だ。
「何点だった?」
航平に聞かれて、答案用紙を見せた。
「96点だったよ!私の中では最高得点だよ」
思わずテンションが高くなって、声が大きくなってしまった。
クラスのみんなも「おぉ~」と言っているのが聞こえた。
なんとなく視線が岳にいく。
「俺が98点だ」
岳がそういうと、またいうラスメイトたちが「おぉ~」と声をそろえた。
英語は得意科目なのでここは問題はない。
2限目は国語だ。
「90点」
私がそういうと、岳が「95点」と答えた。
科目で見ると接戦だが、科目を合計していくと差が広がっていく。
1日目で英語、国語、理科が返却され、岳の方が10点高い結果なった。
「あぁ・・・今日の方が自信あったのに、それで10点も負けるなんて・・・」
帰り道に思わず弱音を吐いた。
明日は苦手教科しかない。
「まだわかんないよ、あれだけ勉強したんだし」
航平は励ますように言った。
「しかも航平の方が点数いいじゃん」
航平は私に付き合って勉強した結果、岳よりも点数がよくなった。
「たまたまだよ」
「またそんなこと言って・・・」
「それにしても津久井の奴変だったよね」
「確かに。どうしたんだろうね」
岳はその後も元気はなかった。
岳の方が点数が高いので絶対に「俺の勝ちだ!」とか何かしら言ってくると思ったのだが、何も言わずに静かに帰って行った。
「まぁまだ結果はわからないし、明日までは考えないようにしよう」
「うん、そうする」
航平と別れて、海生を迎えに行くと、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ねぇね!これこれこれ!」
“さくら組”とかかれたバッチをつけているのだが、その上から折り紙の花を貼り付けたようだ。
「これどうしたの?」
「りほちゃんが作ってくれたの」
そう言って胸を貼っている。
担任の保育士の先生に聞くと、海生からもらったお花をとても喜んだりほちゃんが自分も作ってあげると海生に返してくれたそうだ。
「良かったね」
「うん!」
海生は満足気にバッチを見つめている。
そんな海生を抱き上げて、自転車の後ろの子供用の椅子に乗せる。
「ねぇね、海生はりほちゃんと結婚する」
「え?りほちゃんと?」
「うん。いいでしょ?」
「りほちゃんがいいなら」
「りほちゃんも海生のこと好きって言ったよ」
「そっか、じゃあ姉ちゃんは反対しないよ」
自転車を漕ぎ始める。
好きな人同士で結婚するのが当たり前だ。
そんなことを海生に教えられてしまった気がする。
坂を上りきると、夕日が見えた。今日は綺麗な夕日がなんだか切ない。
「海生は、ちゃんと好きな人と結婚しなね」
「するー!りほちゃんとー!」
海生の無邪気な元気な声を背に坂をゆっくりと降り始めた。
「いよいよ今日でわかるね」
航平の声にこくりと頷いた。
クラスメイトもかなり注目しているようだ。
教室に入った時の雰囲気で察した。
岳は昨日と変わらず顔色悪く、席に座っている。
青波の視線を感じたが、今日もそちらを見ることなく、授業に臨んだ。
数学の授業が始まり、答案が返却される。
航平が聞いては来ないが、点数は?という顔をしている。
「・・・80点」
いつもよりかなり良くとれているが、90点以上を岳に取られたら勝ち目はない。
私の得点を聞いたクラスメイト達が岳の方に視線を送る。
岳はしばらくしていつもよりかなり小さな声で言った。
「・・・65点」
教室中に動揺の声が広がる。
岳は悔しそうに答案をぎゅっと握っている。
答案を受け取った時に驚いた様子がなかったので、きっと点数が悪いことに気づいていたのだろう。
だから元気がなかったのだ。
その後全ての答案用紙が返却された。
「合計点は・・・?」
祈るような気持ちで私は各科目の点数を足していく。
岳は計算が終わったのか、こちらをじっと見ている。
クラスメイト達もこちらを注目している。
私は大きく息を吸った。
「合計点は・・・」
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