第18話 お金が目当て

(どういうこと・・・?)


授業中もがくがこちらを睨みつけてきている。

岳と会ったのはあの時が初めてで、ここまで嫌われるようなことをするもなにもない。


航平には素っ気なくされるし、謎の転校生には睨まれるし、こんなことってあるだろうか。

自分の運命を呪っている間に最後の授業も終わり、航平に声をかけようとしたらサッと帰られてしまった。


今日はバイトの日だ。

落ち込んでいても、しんどくても、休むわけにはいかない。

ファミレスでホールとして働いていると、ピンポーンとお客さんから呼ばれた。


「ご注文お決まり・・・って、あなたは」

岳がこっちを睨みつけている。

「こんなところでバイトしてんのか、貧乏人は大変だな」

「・・・ご注文は?」

「どうやって青波あおばを口説いたか知らないけど」

「ご注文が決まってから、ボタンを押してください!」

そう言ってくるりと背を向けて戻る。

後ろで何か言っていたが、構うものか。

何より注文しない奴は客ではない。

しかし、またすぐにボタンが押される。岳だ。

「ご注文はお決まりですか?」

「話の途中でどっか行くとかお前店員としてだな・・」

「ご・注・文!お決まりです?」

いつもならこんな態度しないのだが、今日は我慢できない。

怒りに任せてそう言うと、ぶつぶつ言いながら、「ミラクルいちごデリシャスパフェ」と小さな声で言った。

「え?もう一度お願いします」

「ミ・・・ミラクル、い、いちごデリシャスパフェだよ」

「ミラクルいちごデリシャスパフェ!ですね」

顔に似合わないものを頼むんだなと思って、わざと大きな声で注文を繰り返してやった。

顔を真っ赤にさせて「そうだよ」と言って下を向いている。

攻撃的な割に攻撃されると弱いらしい。


しばらくしてパフェが出来上がり、岳まで運ぶとパフェをみて一瞬嬉しそう顔をしたいかと思うと、すぐに睨みつけてくる。

「お、俺はお前を認めないからな」

「あの、学校でもそうだったけど、その認めないって何のことを言ってるの?」

「青波との婚約だよ!」

大きな声をあげられて、「しーっ!」と思わず、岳の口をふさぐ。

「あのね、それ内緒なの」

「はぁああ?」

「いいから、黙ってパフェ食べて!」

誤魔化してアルバイトに戻った。

今日はたまたま空いていたので、周りに聞かれた様子もない。

不幸中の幸いだ。

岳は、どうやら私と青波の婚約が気に食わないかららしい。

一体何が気に食わないというのだろうか。

どんな理由でも構わないが、私を巻き込まないでほしい。

その後は特に何事もなくアルバイトが終わり、ファミレスを出ると岳が待っていた。

「ちょっと付き合え」

「無理」

すぱっと断って去ろうとすると「お、おい」と追いかけてくる。

「弟の世話とか家事とか色々帰ってやることがあるの。あなたと話している時間は、ない!」

「じゃあ、送ってやるから。車の中ならいいだろ?」

指さす方にあるのは高級車と運転手だ。

青波で慣れてきて、今は高級車に何も思わなくなってきた。

「・・・わかった」

車に乗り込むと、早速岳がつっかかってきた。

「なんでお前みたいなのが青波の婚約者なんだ?」

「・・・お前って言うのやめてくれる?私にも名前があるのよ」

「うるさい!そんなことよりなんで青波の婚約者になったか教えろ」

「うるさいのはあんたでしょう!?ったく・・・婚約者になったのは父親同士が親友だからよ、それだけ」

「それだけってそんなことで婚約って」

「知らないわよ、私だって突然言われたんだから」

なんだよ、とブツブツと岳が言っている。

「私からも聞かせてよ」

「な、なんだよ」

「津久井くんと久遠くんはどういう関係なのよ」

「お、俺たちは・・・ラ、ライバルだよ」

「ライバル!?」

「そうだ。俺たちは小学校から高校までずっと同じ高校だった。勉強も運動もいつも俺らで1、2位を争ってたんだ。俺みたいな優秀な人間と張り合えるのは、青波しかいないんだよ。それなのに突然転校しやがった」

「もしかして、それで津久井君も転校したの?!」

「そうだ。あいつのいないところではぶっちぎりで勝ちすぎて面白くないからな。まぁそれでなんで青波が転校したのか調べたら、婚約者がいるっていうからよ、どんな奴かと思ったら・・・」

またびしっと指を差してくる。

「なんで、こんな奴なんだよ!」

「さっきから失礼ね、人に指を差しちゃダメだし、こんな奴呼ばわりされる覚えないわよ」

「俺はずっと青波を見てきたんだ。俺には及ばないが、あいつの優秀さは俺が一番よくわかってる」

「だから何?」

「今すぐ婚約破棄しろ!」

「いやいや、それは無理!」

「なんでだ!結局金目当てなんだろ!」


岳の言葉が胸に刺さる。

弟の為とか理由をつけても結局金目当てではある。


「だ、だとしても、あなたに決める権利はないでしょ。もうおろして!」

そう言って無理に車を止めて、降りようとすると岳が腕をつかんでくる。

「婚約破棄すると言え!」

「ちょっと!痛い!」

その瞬間、腕の痛みがなくなったと思ったら、航平が岳の腕をつかんでいる。

「お前、何してんだ!渚から離れろ」

岳は航平の剣幕にビビってそのまま車に乗り込むと帰って行った。


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