第2話 貧乏なお姫様②

「おはよう、航平こうへい

航平は小学校の時からの友人だ。

優しくていつもうちの家族を気にかけてくれる。

身長180㎝もあり、大きな目が印象的で中性的な顔立ちをしているので、女子からの人気は高い。それに気づいていないところもまたポイント高かったりする。

「おはよう。なんかあった?」

「ううん。ちょっと疲れただけ」

朝からのバタバタを思い出すだけで疲れてくる。

「そっか。弟5人のお世話は大変だよね」

「まぁね。最近はかいが反抗的で」

「そういう年齢だよね。家族には素直になれないもんだよ」

「わかってはいるんだけど・・・」

「今度俺から話してみるよ。第三者の方が素直に聞けることもあるだろうし」

「いいの?」

「もちろん」そういって航平は笑うと、「いつでも頼って」と優しい言葉をかけてくれる。


高校に着いて、自分の席に座ると、なんだかホッとして眠くなってくる。

高校では頑張らなくていい。

お姉ちゃんじゃなくて、1生徒として過ごすことが出来る。

欠伸をしていると、がらりと扉が開いた。

「じゃあ今日は予告してたテストを始める」

担任の一言に、心臓がドキンと跳ねる。

そう言えば、昨日担任がそんなことを言ってた気がする。

昨日の夜からバタバタしていて、すっかり忘れていた。

配られたテストを見て、息を呑んだ。


「悪いことは続くんだな・・・」

落ち込んだ気持ちのまま、授業が終わり校舎を出ようとすると、雨が降っている。

傘は持っていない。

海斗や海里、海二は傘を持っていっただろうか。

海二のことだから持たせているだろうなと思いながら、雨雲を見上げた。

雨は止みそうにもない。

時計を見ると、アルバイトまでそんなに時間はない。

腹をくくって走って帰ろうかと思っていると、「はい」と声がして振り向くと航平が傘を差し出して立っている。

「傘、忘れたんでしょ?」

「なんかバタバタして天気予報見てなくて」

「今日はバイトでしょ?バイト先まで送るよ」

「いいの?」

「もちろん、むしろ送らせてよ」

航平は人懐っこい笑顔でそう言った。

「ありがとう」

他愛のないしながら歩くと、あっという間にバイト先のファミレスについた。

よく見ると、航平の肩が濡れている。

「私のせいで濡れてるじゃん、ごめん」

そういってハンカチを差し出すと「ありがとう」って受け取って「渚が濡れなくてよかったよ」と微笑んだ。

航平のこういう優しさにいつも救われるなと思いながら、「ありがとう」と言った。

「じゃあアルバイト行ってくるね」

「待って。渚、忘れてるでしょ?」

航平が鞄から小さな紙の袋を取り出した。

袋にはリボンのシールが貼られている。

「これは・・?」


「今日は渚の誕生日でしょ?」


そういえば、今日は自分の誕生日だ。

忙しい日々ですっかり忘れていた。

「忘れてたよ」

「だと思った。開けてみて」

丁寧に袋を開けると、中にはネックレスが入っている。

シルバーのチェーンの先に小さな貝殻のモチーフが付いている。

「可愛い・・・」

「渚はかわいいもの好きだし、似合いそうだなっておもって」

「すごく嬉しい。ありがとう」

「つけてあげるよ」

ネックレスを航平が受け取ると、渚の後ろに回った。


なんだかドキドキしてしまう。

航平はただの幼馴染なのに、誰にでも航平は優しいのに、期待してしまう。

顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

顔に出さないようにしなきゃと思っていると、どこからか大勢の足音が聞こえはじめた。

不審に思っていると、その音がこちらに向かってきている。

「ねぇ、航平なんかすごい音が・・・」

航平に問いかける前に、黒服の男たちがこちらを取り囲んでいる。

航平は驚きつつも、自分の身体の後ろに隠して守ってくれている。

「失礼します」

黒服の一人がそういうと、ポンと航平のお腹を軽く殴ると航平がぐったりと倒れた。

「こ、航平!」

「大丈夫です。気絶しているだけです。この方はこちらで安全にご自宅に運ばせていただきます」

怖すぎて声が出ない。

足が震えて逃げることも出来ない。

「失礼します」

黒服が目隠しをつけようとしてくる。

「や、やめて!」

「あまり手荒な真似はしたくないので、大人しくしてください」

黒服はそういうと、目隠しをつけると、渚をさっと持ち上げた。

丁寧に車の中に乗せられた。

色々な考えが頭をめぐる。

このまま売られる?殺される?

恐ろしくて涙がでる。

誕生日なのに、どうしてこんな目に遭うのか。

きっとあの男のせいに違いない。

怪しげなところで借金したのかもしれない。

しばらくすると、車から下された。

男たちの誘導通りに歩いていく。

そして目隠しを外されて、目を開くと予想外の光景が広がってた。

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