『リスタート・コード:俺は“無能”を再構成する』
yakko
第1話「転移と再構成」
俺の人生は、終わった——いや、最初から始まってなかったのかもしれない。
夜のビルの屋上。
ネオンが瞬く下界を見下ろすその場所に、彼は立っていた。
西原ユウキ、27歳。
アルバイト暮らし。友達なし。家族とも疎遠。夢も、才能も、ない。
「全部、もうどうでもいいんだよな……」
手すりの向こう、空気の色が変わって見える。
一歩踏み出す。その瞬間、足の裏から現実が消えた。
——落ちている。
風がうなり、視界が流れる。
不思議と怖くなかった。
ただ、ひとつの思いだけが胸に残った。
(変わりたかったな……)
その時だった。
世界が、止まった。
【エラー発生:対象が“終了”条件を満たしていません】
【魂の遷移処理を実行します】
【転移先:異界認証完了】
【記憶保存率:86% 意思再構築中……】
「……な、に……?」
体も、風も、何も感じない。
ただ意識だけが、“どこか別の空間”へ吸い込まれていくのを感じた。
「——まだ、お前は終わっていない」
「なら、やり直せ。今度こそ、終わらせるな。掴み取れ」
誰の声かも分からない。
けれど、胸の奥が不思議と熱くなる。
(……もう一度、やり直せるのか? 本当に……?)
意識が弾けた——。
◆
目を開けると、そこは見知らぬ部屋だった。
石造りの天井。木のベッド。かすかに漂う薬草の香り。
ユウキは息を吸い込む。酸素の重みすら、まるで違った。
「ここ……どこだ……?」
身体が軽い。
腕を握ると、筋肉の感覚がある。前より遥かに“まともな体”になっているのが分かる。
窓の外では、空に浮かぶ三つの月が輝いていた。
(俺……生きてる? いや、ここ……地球じゃない……)
思考が追いつかない。だが、胸に刻まれていた。
【再構成スキル:Re:Config】
——所持者:西原ユウキ
——適応対象:自分自身の肉体・能力・構造に限り、完全再設計可能
「——これは、お前に贈られた最後のチャンスだ。
今度は、好きに生きろ。誰に遠慮も、言い訳もするな」
記憶の奥、声が残っている。
ユウキはゆっくりと起き上がり、深く息を吸った。
「……分かった。やってみるよ。今度こそ」
その瞳は、どこまでも静かで、そして確かに——燃えていた。
◆
こうして、一度は何も掴めなかった男が、
“自分自身を再構成する”力を手に入れ、異世界で歩み出す。
これは、ただ強くなるだけの物語ではない。
「“自分”という存在を、もう一度やり直す物語」だ——。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます